06 遺族の気持ち
『――続いては都内で起こっている連続殺人事件の続報です』
不意に事務所に置いてあるテレビから音が聞こえてきた。どうやら白河が出て行ってすぐにカオルがつけたらしい。白河がいるときはたいていの場合、クラシックやジャズが流れているのでテレビをつけられないのだ。テレビはカオルが勝手に持ってきたものらしい。
『今月二日、都内の会社員、清水ゆかりさん(二十七才)が殺害された件で、警察の調べによると清水さんは自宅マンションで殺害されていたところ、一緒に住む同居人の男性が発見したとのことです。現在警察はこの同居人である男性から事情聴取を行い、近隣住民からの目撃情報を引き続き募っていく方針を明らかにしています。しかし未だに物的証拠は見つからず、捜査は難航しているようです――……』
「おーおー、警察も困ったようだなぁ。犯人、捕まると思います? 山崎さん」
ソファを独占したカオルが書類仕事を終えた山崎さんへと話しかける。山崎さんは「そうですねえ」と考える素振りをしながら、急須でお茶を淹れていた。
「まあ最終的には捕まるでしょう。この犯人は」
「希の野郎が探しているからか?」
所長である白河の名前をカオルが出せば、山崎さんはもちろんと頷いた。どうやらカオルはそれが気に入らなかったらしい。
「いい加減、あいつも探偵ごっこじゃなくて探偵とでも名乗りゃあいいのに。あいつだったらマジで現代を生きるシャーロック・ホームズにでもなれるんじゃねぇか」
皮肉たっぷりに言うが当の本人はここにはいない。
カオルはくわとあくびをすると、ソファに身を横たえて眠りに入った。山崎さんも午後の休息とばかりにお茶を飲んでいた。相変わらずテレビからは殺害された被害者の写真や、告別式の様子、涙を堪えて哀しみを口にする遺族の映像が流れていた。
愛はそんな遺族たちの姿をじっと見詰めていた。
「……遺族の方たちはどんな気持ちなんでしょうね」
ぽつりと漏らした愛の言葉にカオルが反応する。
「そりゃあー悲しいんじゃねぇか。悔しいだろうし、できることならブッ殺してぇと思うんじゃね? 犯人のことをさ」
私だったらブッ殺してぇもんな、と言うカオルの瞳は獣のように鋭い。
まるで過去にそういった経験があったみたいな口調ですらあった。だからそれ以上、愛は踏み込まなかった。
なにせまだ採用されて一ヶ月しか経っていないのだから。
「でも確かにそうですよね。愛する人が殺されたんですから」
だから愛は無難な答えしか用意できなかった。
「遺族の方の気持ちを思うとたまらない気持ちになります」
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