02 ──殺人鬼の独白:1──

 蝶が好きだ。

 特に赤い蝶は魅惑的だと思う。


 そして赤には黒がよく映える。黒を見ると母の美しい黒髪を思い出す。

 皮膚を切裂く瞬間はたまらなく興奮する。


 そう、この昂奮!


 脳髄を沸騰させ、脳幹を痺れさせ、達しそうなほどの昂奮だ。

 だから一つ「羽化」させたあとは、いつも本当はそれをじっくりと眺めたいと思う。皮膚をネイルガンで釘止めする瞬間、いつだって涙が出そうになる。嬉しくて。

 叶うことなら標本にして手元に置いておきたいくらいだが、相反して、この美しい蝶を皆にも見せたいという強い欲求があった。見せびらかして自慢したい。これは自分だけの、特別な蝶なのだと、声高に叫びたくなる。そういう欲求が激しくあった。


 けれどそれはできないことだった。とても悲しいことだ。寂しく悔しいことだ。

 だから結局いつもその場から去るのだが、いつだって蝶を咲かせた死体は寂しそうにこちらを見詰めている気がした。

 まだ行かないで、というように甘やかに誘うのだ。赤い色。まるでおんなの唇を彩るルージュのように。男のものを銜え込む女陰のように。

 けれどその誘惑を振り切って、胸が引き裂かれるような思いでいつもその場を去る。

 それを乗り越えれば、また新しい出会いが降ってくるから。出会いはいくらでもある。見つけるのは容易い。まだ翅を広げていない蝶々を見つけなければならない。

 

 蝶は魂の象徴だと何処かで聞いたことがある。

 

 だとしたら今自分がやっていることは、魂を蝶にして羽ばたかせ、自由にすることと同じことだと思った。この身体も世界も牢獄のようなものなのだから。

 

 さて次はどんなものを、切り開くことができるだろうか。

 考えるだけで心は弾み、それこそ絶頂さえしてしまいそうだった。


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