第2話 カエル男VS日向

 一度は都会の喧騒の中で姿を消し、長い間行方不明だった「カエル男」が帰ってきた。かつて町のヒーローとして知られ、異形の姿でも人々に愛されていたカエル男は、何年もの間、どこで何をしていたのか誰も知らなかった。だが、ある日突然、町の古びた公園に姿を現したのだった。


 彼の姿は以前と変わらず、青緑色の皮膚に大きな目、そして三本指の手足。だが、以前よりもその目には深い闇を湛えていた。周囲の人々はその姿を見て驚き、そしてどこか懐かしさを感じていた。


 カエル男は、ただ黙って公園の中央に立ち、しばらく空を見上げていた。そこへ、一人の若者が近づいてきた。彼はカエル男を知っていた。子供の頃、カエル男に助けられたことがあったのだ。


「お、お前、カエル男だろ?」と、若者は恐る恐る声をかけた。


 カエル男はその質問に答えなかった。代わりに、静かにうなずき、そして再び空を見上げた。その顔には、何か決意のようなものが浮かんでいた。


「帰ってきた理由は…何なんだ?」と若者は再度尋ねた。


 カエル男はしばらく沈黙した後、低い声で答えた。


「戻らなければならない理由ができたんだ」


 その言葉に、若者は不安と興味が入り混じった表情を浮かべる。町はもう、以前のように平穏無事ではなく、どこかで異変が起きていることを感じ取っていた。しかし、それが何であるのか、誰も明確にはわからなかった。


 カエル男が戻ってきたことが、単なる偶然ではないことを、彼はすぐに悟った。そして、カエル男の背後には何か大きな秘密が隠されているに違いないと感じた。


 次に何が起こるのか、誰も予想できなかった。


 

 カエル男が公園に立ち尽くし、再び空を見上げていると、突然、地面が震え始めた。若者が足元を確認すると、遠くから迫る音が聞こえた。何かが、いや、誰かが近づいてくる。その足音は、まるで大地を引き裂くように重く、強烈だった。


「カエル男…気をつけろ!」と若者は叫んだが、カエル男は一切動じなかった。ただ、静かに目を閉じ、深く呼吸をした。


 その時、公園の向こうから現れたのは、日向という名の男だった。以前から町に住む怪しい男として知られ、噂では異能の力を持ち、闇の勢力と関わりがあると言われていた。日向は長い黒いコートを翻しながら、ゆっくりとカエル男に近づいてきた。その目は冷徹で、まるで人間ではないかのように輝いていた。


「お前か、また戻ってきたのか」と、日向は低い声で言った。その言葉には、長い間の因縁が感じられた。


「もう、何もかもを終わらせる時が来たんだな」と、カエル男は静かに応じた。


 若者はその会話の意味が分からず、ただ二人の間に張り詰めた空気を感じていた。しかし、カエル男の言葉からは、かつての町の平和を守るために戦った時の面影が感じられた。その目には、今もその使命感が宿っているようだった。


「終わらせる? お前が?」日向は嘲笑するように言った。「お前の力はもう衰えている。お前が帰ってきたところで、何も変わらない」


「変わらないのは、俺の力ではなく、お前の思い上がりだ」とカエル男は言い、突然、その三本指の手を広げ、指先から緑色のエネルギーを放った。まるで雷のように空気を切り裂くその光線は、日向に向かって一直線に伸びていった。


 しかし、日向は一歩も動かず、ただ目を細めてその光を迎え撃つ。彼の周りに黒い霧のようなものが立ち込め、エネルギーを吸収するかのように渦巻き始めた。カエル男の攻撃は、その霧によって完全に無効化され、日向の周りにいた霧が一層濃くなった。


「そんなものは効かない」と日向は冷たく言った。「お前はもう昔のカエル男じゃない」


 カエル男は、しばらくの間その場に立ちすくんだが、やがて再びその目に強い決意を宿し、もう一度力を込めた。彼の体から放たれる緑色のオーラが、日向の黒い霧を突き破ろうとする。周囲の空気が緊張に満ち、二人の力がぶつかり合う瞬間、まるで世界がひっくり返るかのような音が響いた。


「昔の俺だと? それはもう過去の話だ」とカエル男はつぶやき、力をさらに増していった。その目には、ただのヒーローとしての使命感だけではなく、何かもっと深い力が宿っていることが感じ取れた。


 日向はその強大な力を前に、少しだけ顔をしかめたが、すぐに冷徹な笑みを浮かべて言った。「面白い、かつての弱者がここまで成長するとはな。でも、それも俺には関係ない」


 そして、日向はその手をかざし、黒いエネルギーを集め始めた。それは、まるで深淵から引き出されたような、恐ろしい力を秘めていた。


 二人の間で、ついに最終決戦が始まった。どちらが勝つのか、町の運命がこの戦いにかかっていた。


 だが、カエル男は決して後退することなく、全力で立ち向かう覚悟を決めていた。それはただの戦いではない。彼が帰ってきた理由は、町を守るため、そして長い間隠されてきた真実を暴くためだった。



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