テロリスト〜信長を殺した男〜

鷹山トシキ

第1話 スキー場激戦

 日向隼人は、しばらく続いた過密な任務から解放され、心身のリフレッシュを兼ねて、栃木県にあるマウントジーンズ那須のスノーボードコースに向かっていた。仕事でのプレッシャーから解放され、静かな時間を過ごしたかった。雪に覆われた山々、澄み渡る空気、そして広がる白い雪景色。日常の喧騒から解き放たれたその瞬間、日向は何も考えず、ただ自然の中に身を置くことの心地よさを感じていた。


 栃木のスキー場に到着した日向は、温かい飲み物を手に取りながら、リラックスしてスノーボードの準備を始めた。実のところ、こうしたひとときを心から楽しめることは久しぶりだった。普段の任務や緊迫した状況から解放されたこの瞬間が、まるで息抜きのように感じられた。


「しばらくは何も考えずに済むかな」

 日向はひとりごち、スノーボードの板を手に取る。バインディングをしっかりと固定し、雪の上に立つと、すぐにでも滑り出したいという気持ちが湧き上がった。


 日向はゲレンデの上で、軽やかにスノーボードを楽しんでいた。周囲は家族連れや観光客で賑わっており、にぎやかな雰囲気が広がっていた。しかし、その静かなリズムが突然破られることになる。


 スノーボードの滑走感覚を楽しんでいた日向は、ふと何か異変を感じた。遠くの山頂から、急に轟音が響き渡り、空気が震えたように感じる。その音は最初、雪崩のように聞こえたが、すぐにそれが爆発音であることに気づく。


「何だ…?」日向はすぐに周囲を警戒し、滑走を止めた。さらに遠くから、また次の爆発音が続けて響く。その音が鳴り響くたびに、雪山の空気がひどく重くなり、何かが起こっているという感覚が強くなった。


 周りの人々も、爆発音に驚いて逃げ惑っている。子どもたちや家族連れは恐怖の表情を浮かべ、動けなくなっていた。日向は本能的に、これが単なる事故ではないことを理解した。


「テロだ」日向は冷静に判断する。瞬時に頭の中で分析を始める。ここで起きているのは、ただのスキー場での事故や事件ではなく、計画的に仕組まれた爆破活動であり、ターゲットはスキー場そのものであることが明らかだった。


 突然の爆発に、スキー場内は混乱の渦中に巻き込まれた。人々は恐怖におののきながら、スキーリフトやゲレンデを逃げるが、次々と連続的に爆発が続く。雪の中を走るようにして逃げる者もいれば、立ちすくんだまま状況を把握できずにいる者もいた。


 日向はその混乱を冷静に分析し、すぐに行動に移る。自分の職業柄、今すぐにでも避難誘導を始めなければならないという使命感が湧いてきた。警察として、そして一人の捜査官として、日向は人々を安全な場所へ誘導する責任がある。


「まずは周囲の状況を確認しよう」

 日向は心の中でそう呟き、すぐに行動を開始した。


 まず、周囲の人々に向かって声をかけ、冷静に避難を促す。その場に立ちすくむ者には、肩を叩いて迅速に避難するように指示を出す。そして、雪山の中で最も安全な避難場所へと誘導する。


 しかし、日向は次第に事態の深刻さを実感するようになる。爆発音がまだ鳴り響き、さらに大きな音を伴って、スキーリフト近くで爆発が起きた。彼はその場所を目指して、雪を踏みしめて駆け出した。


 日向は、爆発音のする方向に向かって走りながら、次第に不穏な空気を感じ始めた。リフト施設近くでは、混乱を引き起こすためにさらに大規模な爆発が予告されているかのような予感がした。


 その時、ふと目の前に現れたのは、スノーボードをしていた他の一人の男性だった。その男は日向の姿を見ると、驚いたように叫びながら言った。


「警察の者だ! 爆弾が…まだ…山の上にあるんです…!」


 その言葉に日向はすぐに反応する。「山の上に?」と問い返す。


 男性は震えながら答える。「リフトが爆破された後、誰かが…何かを仕掛けてるんです。人質がいるかもしれません」


 日向はその言葉にすぐに考えを巡らせた。リフトが爆破されており、山頂付近で何かが起きている。爆発の背後には、単なる事故ではなく、テロの計画が進行中である可能性が極めて高い。これが単なる爆破事件にとどまらず、テロリストによる人質事件に発展しているかもしれないと直感的に感じた。


「すぐに行動しなければならない」

 日向はその男性に、他の人々を安全な場所に避難させるように指示を出すと、急いで山頂へ向かう決意を固めた。男性は森田と名乗った。

 日向は、雪道を慎重に進みながら、これからの事態に備えていた。爆発音が次々に山の中で響く中、彼の頭の中には「一刻も早くテロリストの動きを封じ込めなければならない」という使命感があった。

 その頃、山頂付近では、すでにテロリストたちが爆薬を仕掛け、恐ろしい計画を進めていることが確実となっていた。日向はその状況を把握し、行動を開始する。しかし、ここから先はただのスノーボードを楽しむ旅行者ではない――彼は、今、警察の一員として、その使命を果たすべく、絶対に負けられない戦いに巻き込まれることになった。


 日向が急斜面を登りながら、再び響く爆発音に耳を澄ませる。心の中で、爆発が意味することを冷徹に計算していた。これ以上の爆発が発生すれば、山頂付近の人々の命は危険に晒される。そして、テロリストたちの狙いが、ただの爆破事件にとどまらないことを確信していた。


 山の中腹まで登り、再び森田と合流した日向は、迅速に状況を整理し、指示を出す。「避難誘導が完了したら、すぐに上へ。俺が山頂で何が起きているのか確認する」

「了解です」

 森田はしっかりと頷き、再び周囲の人々の避難を手伝い始めた。

 日向は気を引き締めながら山頂へ向かう。その道中、彼は引き続き、爆発がもたらした衝撃に震えながらも、冷静に周囲の状況を観察する。山道を登る途中、急に視界が開けると、そこには数名の武装した人物が立っていた。

「テロリストだ…」日向は心の中で呟き、足を止める。その瞬間、彼は目の前の景色を冷静に分析した。武装したグループは、軍用の爆薬を携えており、明らかにその目的は山頂で何かを起こすことだった。爆発音が鳴り響くたびに、彼らはその計画を着実に進めている。


 その中で、最も目を引いたのは、リーダーと思しき人物だ。年齢は40代後半、無精髭を生やしたその男は、周囲に冷徹な視線を送っていた。彼の服装は、他のテロリストたちとは異なり、特殊部隊のような装備をしている。武器はもちろん、爆薬や無線通信機器も持っていた。その姿から、日向は一瞬でその人物がかつての兵士、あるいは特殊部隊の出身であることを読み取った。


「過去の事件に絡んでいる可能性がある」

 日向は直感的にそう感じた。この男が指導しているグループは、ただのテロリスト集団ではない。どこか国家的なバックグラウンドがあるか、あるいは過去の軍事的な経歴が関与している可能性が高いと見た。


 その瞬間、日向は自分がこの状況を解決しなければならないことを再確認する。だが、ただの爆破事件ではない。テロリストたちが仕掛けた爆薬の中には、さらなる大きな破壊力を持つものが隠されている可能性が高い。そして、その目的は単なる人命の奪取にとどまらず、何か政治的なメッセージを込めた「デモンストレーション」だと考えた。


 山頂で確認された爆発の原因は、ただの「事故」や「偶然」ではなかった。テロリストたちが仕掛けた爆薬には、精密なタイマーが組み込まれており、次に起こる爆発がいかに恐ろしいものであるかを示唆していた。日向はその時、テロリストのリーダーが軍事的な計画を進めていることを確信した。


 そのリーダーの名前は、安田国継。かつて陸上自衛隊の特殊部隊に所属していた男で、戦闘のスペシャリストとして知られていた。だが、ある作戦で不正規軍との激しい戦闘に巻き込まれ、組織を離脱。その後は行方不明となり、国際的な兵器密売組織と繋がりを持つようになったという情報がある。


 安田はその後、テロリストグループを指揮し、数々の破壊活動を行ってきたが、今回のターゲットがマウントジーンズ那須であることには、明確な意図があることが分かった。彼は、この場所を選んだのは、観光地であると同時に、戦略的にも重要な位置にあるからだと考えたのだ。


 日向は、安田の意図を理解し、急いで山頂を目指す決意を固めた。このテロ事件が、安田一人の計画にとどまらず、背後に何か大きな組織の存在があることは間違いない。そして、その組織の目的が、単なる金銭的な利益や名声を求めるものではないと直感していた。


 山頂に到達した日向は、爆発が一度では収まらないことを理解していた。彼の脳裏には、過去の任務で遭遇した数々のテロ事件の記憶がよぎった。彼はその経験を活かし、慎重に進んだ。


「安田の動きを止めなければ、次の爆発は更に大きな被害を引き起こすだろう」

 日向は、安田が計画している次の手を予測しながら行動を続けた。

 その時、日向のスマートフォンに新たな警告が届いた。それは、テロリストたちが山頂のリフト施設に爆薬を仕掛けており、リフトが切断されると、上から大量の雪崩が発生する可能性が高いという内容だった。日向はその瞬間、全てを理解した。


「山頂で爆薬を仕掛けているということは、雪崩を引き起こすための準備だ」日向は冷静に計算し、即座に森田に連絡を取った。「リフト施設周辺をすぐに封鎖しろ。雪崩を防ぐためには、リフトが切断されないようにしないと、全てが無駄になる」

 日向は再び山道を急ぎながら、安田の指導するテロリストたちを追い詰める覚悟を決めた。これ以上の被害を防ぐため、そしてその背後に潜む巨大な陰謀を暴くために、彼の戦いは続く。


 日向がついに安田の前に立つ。険しい表情を浮かべた安田は、彼の到着を待っていたかのように冷徹な目を向ける。

「日向隼人、ここまで来るとはな」

 安田は低い声で言った。

「お前がここで何をしようとしているのか、分かっている」

 日向はその目をしっかりと見据え、答えた。

 安田は笑みを浮かべ、「お前がどう動こうとも、この戦いは終わらない。時は来た」と言い放った。


 彼の背後で、再び爆薬が起爆する音が響いた。その時、日向は決して引かないという覚悟を決めていた。この一戦が、すべてを決めることになる。


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