絶滅したはずの人間は世界に挑む

駄文職人

第1話 遭遇①

「お、南東に人工物あり!」


 木に登ってもはや定期的になった位置確認をしていた時、ラスラが不意に声を張り上げた。


 朗報に下で待機していた幼馴染も反応する。


「どのぐらいの距離かな?」

「えーっと、ちょっと待って」


 鬱蒼とした森の海から頭をのぞかせる防護壁の巨大砦までの最短距離をざっと確認する。


 特に丘もなく比較的平坦な道のりのようだが、亀裂や崖があったとしても上からでは分からない。


「何事もなく進んでも半日、かな」

「日暮れまでには着かないかもね」


 すでに太陽は南中から少し傾いている。


 今日も野宿は覚悟しておいた方がよさそうだ。


 昔から狩人として森に入ることが多かったラスラは森での野宿は慣れっこだが、イオはそろそろ疲れてくる頃かも、と下の幼馴染を慮る。


 村から出て3日目だ。


 慣れない道中のはずなのに、イオはよく文句の一つも言わずについてきてくれる。


 そろそろ降りようと幹に手をかけたその時、ほど近いところで獣の吠え声が聞こえた。


 ォオオオオッ!!


 こちらに来るか、と身構えたが、上から見ていたラスラには木が複数、断続的にへし折れるのも見えた。

 どうやら、他の獲物を狙っているらしい。


「あ」


 それを目で追っていたラスラが、不意に背負っていた短弓を構えた。


 矢をつがえると、迷いなく放つ。


 再び雄叫びが聞こえた。

 暴れた魔獣が木々を薙ぎ倒す音がこちらにも聞こえるほどだった。


「逃げた方がいい?」


 ラスラは木から降りると、心配げに尋ねるイオにいいやと首を振った。


「たぶん、当たった。追いかけてみよう」

「本気?」

「もしかしたら道を聞けるかも」


 聞き返す親友に、ラスラは悪戯っぽく笑って見せた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る