ば行のイメージ向上作戦
2
とある部屋。壁や天井などが真白な色に統一されている。
「……お疲れ様です」
「あ、びさん、お疲れ様です」
椅子に座っていたべが部屋に入ってきたびに応える。
「……べ、早いですね。私が一番乗りかと思いましたが……」
「いや、用事が思っていたよりも早く済みまして……」
「そうですか」
びも自分の椅子に座る。
「この間の無音鎮圧、なかなか話題になっているみたいですよ」
べが笑顔を浮かべる。
「ふっ、それは良いことですね……」
びも笑顔で応える。
「このまま良い流れに乗っていきたいところだな……」
「うわっ⁉ び、びっくりした⁉」
いつの間にか自分の隣の席についていたぶにべは驚く。
「すまん、べ殿。驚かせるつもりは無かったのだが……」
「気が付きませんでした……」
「気配を消す修行を行っていてな……」
「ストイックなのは結構なことなのですが、挨拶くらいはして欲しいものです……」
びが苦笑しながら呟く。
「おおっ! みな、ごきげんよう!」
ぼが一際大きな声を出して、部屋に入ってくる。
「……あんな風にか?」
ぶがぼのことを指し示す。
「いや、あそこまで荒っぽくなくても良いですが……」
びが再び苦笑する。
「みんな待たせたな!」
ばが逆立ちしながら入ってくる。べが驚く。
「ば、ばさん⁉」
「なるほど、体を鍛えながら入ってきたな……参考になるかもしれん」
「さすがはば君だな!」
「参考にしなくて良いです。感心もしなくてよろしい……」
びがぶとぼに対して、呆れながら告げる。
「みんな、調子はどうだ⁉」
元の態勢に戻ったばが尋ねる。
「絶好調だ!」
「それはなによりだぜ、ぼちゃん!」
ばとぼが腕を合わせる。
「良い方だ。ただ、現状には満足していない……」
「良い心がけだな、ぶちゃん!」
ばがぶに対して笑いかける。
「……」
「びちゃんはどうだ?」
「ちゃん付けはやめてくださいませんか?」
「なんだなんだ、同じ『ば行』の仲間じゃないか~」
「仲間はともかくとして、ちゃん付けには意味があるとは思えません……」
「細かいことを言うなって、調子はどうだ?」
「……まずまずですね……」
「それは良かった!」
ばがびの肩をポンポンと叩いて、自分の席に座る。
「ばさん……」
「おう、べちゃん、調子はどうだ?」
「悪くはありません」
「良かったな」
「この間の無音鎮圧、話題になっているみたいです」
「そうか!」
べからの報告にばは笑顔を見せる。
「住民からの声なのですが、いくつか紹介させてもらってもよろしいですか?」
「ああ」
「ええっと……『ばびぶべぼ、強い!』」
「おおっ!」
「『ばびぶべぼ、ワイルド!』」
「うん!」
「『ばびぶべぼ、ちょっと荒っぽい……』」
「うん?」
「『ばびぶべぼ、だいぶ、いや、かなり馬鹿っぽい……』」
「ううん?」
「『ばびぶべぼ……』」
「ちょ、ちょっと待て、べちゃん!」
「はい?」
べが首を傾げる。
「き、気のせいかもしれないが……大分ネガティブな印象を持たれていないか?」
「持たれていますね」
「ええっ⁉」
「寄せられた意見の大半がこういった論調です」
「そ、そんな、どうして……」
「簡単なことです……」
びが口を開く。
「分かるのか、びちゃん⁉」
「私たちは『濁音』だからです」
「!」
「どうしても濁っているという先入観で捉えられてしまいがちです」
「むう……」
「いわゆる『清音』の方々の方が、イメージが良いです」
「そんな……」
ばが俯く。
「こればかりは致し方無いことです……」
「……ねえ」
「え?」
びが首を傾げる。ばが顔を上げる。
「納得出来ねえ! 俺たちも頑張っているのに!」
「そうは言われてもねえ……」
「なんとかイメージを向上させるぞ!」
「どうやって?」
「それはみんなで考えてくれ!」
「こちら任せですか……」
「俺はリーダー格だからな、みんなの意見を受け止めるぞ!」
「ちょっと待って下さい。誰がリーダー格ですって?」
「俺だよ!」
「それこそ納得出来ませんね……」
「勝手にリーダー面するなど……聞き捨てならんな……」
びだけでなく、ぶも顔を険しくする。
「文句があるなら、受けて立つぜ!」
「ふははっ! 久しぶりに手合わせといこうか!」
ぼが両手を組んで、指の骨をポキポキと鳴らしながら立ち上がる。
「あ、ああ! ひとつ提案が!」
べが慌てて声を上げる。
♢
「打った~! べのホームランだ!」
「よし!」
べがガッツポーズを取る。
「スポーツ大会の助っ人か……」
「確かにイメージ向上には良いかもしれませんね。爽やかさというものが感じられますし」
ぶが呟く横で、びが頷く。
「よっしゃ、僕もベースボールで燃えるぞ!」
「あ、ぼさんはこちらです!」
「え? あ、ああ……」
「全員が同じスポーツというわけではないようですね」
呼び出されたぼの背中を見ながら、びが呟く。
「うおおおっ!」
ぼが険しい崖を登っていく。
「あれは……ボルダリングか、ぼ殿の力強さには合っているかもな……」
「コースを見極めて登っていく競技だと思うのですが、力任せに進んでいますね……」
うんうんと頷くぶの横で、びが苦笑気味に呟く。
「びさんはこちらへお願いします!」
「はい……」
「ぶさんはこちらへ!」
「ああ……」
「ほっ! よっ! はっ!」
「おおっ! すごい!」
びが自転車競技、BMXで自転車を華麗にターン&ジャンプさせる。その華麗な乗りこなしに、ギャラリーから歓声が上がる。
「……ふん!」
「ま、参った!」
「おおっ! 強い!」
ぶがブラジリアン柔術に参加して、屈強な対戦相手を終始圧倒して、倒してみせる。その強さと技のキレにギャラリーは大いに興奮する。
「びちゃんもぶちゃんもギャラリーを沸せているな……よし、俺も……」
「ばさん、こちらにお願いします!」
「おっしゃ! バスケットでもバレーでもなんでも来いや!」
「はい! 1、2! 1、2!」
数分後、美少女たちとバトントワリングをこなすばの姿があった。ばは声を上げる。
「……思っていたのと違う!」
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