ば行のイメージ向上作戦

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 とある部屋。壁や天井などが真白な色に統一されている。

「……お疲れ様です」

「あ、びさん、お疲れ様です」

 椅子に座っていたべが部屋に入ってきたびに応える。

「……べ、早いですね。私が一番乗りかと思いましたが……」

「いや、用事が思っていたよりも早く済みまして……」

「そうですか」

 びも自分の椅子に座る。

「この間の無音鎮圧、なかなか話題になっているみたいですよ」

 べが笑顔を浮かべる。

「ふっ、それは良いことですね……」

 びも笑顔で応える。

「このまま良い流れに乗っていきたいところだな……」

「うわっ⁉ び、びっくりした⁉」

 いつの間にか自分の隣の席についていたぶにべは驚く。

「すまん、べ殿。驚かせるつもりは無かったのだが……」

「気が付きませんでした……」

「気配を消す修行を行っていてな……」

「ストイックなのは結構なことなのですが、挨拶くらいはして欲しいものです……」

 びが苦笑しながら呟く。

「おおっ! みな、ごきげんよう!」

 ぼが一際大きな声を出して、部屋に入ってくる。

「……あんな風にか?」

 ぶがぼのことを指し示す。

「いや、あそこまで荒っぽくなくても良いですが……」

 びが再び苦笑する。

「みんな待たせたな!」

 ばが逆立ちしながら入ってくる。べが驚く。

「ば、ばさん⁉」

「なるほど、体を鍛えながら入ってきたな……参考になるかもしれん」

「さすがはば君だな!」

「参考にしなくて良いです。感心もしなくてよろしい……」

 びがぶとぼに対して、呆れながら告げる。

「みんな、調子はどうだ⁉」

 元の態勢に戻ったばが尋ねる。

「絶好調だ!」

「それはなによりだぜ、ぼちゃん!」

 ばとぼが腕を合わせる。

「良い方だ。ただ、現状には満足していない……」

「良い心がけだな、ぶちゃん!」

 ばがぶに対して笑いかける。

「……」

「びちゃんはどうだ?」

「ちゃん付けはやめてくださいませんか?」

「なんだなんだ、同じ『ば行』の仲間じゃないか~」

「仲間はともかくとして、ちゃん付けには意味があるとは思えません……」

「細かいことを言うなって、調子はどうだ?」

「……まずまずですね……」

「それは良かった!」

 ばがびの肩をポンポンと叩いて、自分の席に座る。

「ばさん……」

「おう、べちゃん、調子はどうだ?」

「悪くはありません」

「良かったな」

「この間の無音鎮圧、話題になっているみたいです」

「そうか!」

 べからの報告にばは笑顔を見せる。

「住民からの声なのですが、いくつか紹介させてもらってもよろしいですか?」

「ああ」

「ええっと……『ばびぶべぼ、強い!』」

「おおっ!」

「『ばびぶべぼ、ワイルド!』」

「うん!」

「『ばびぶべぼ、ちょっと荒っぽい……』」

「うん?」

「『ばびぶべぼ、だいぶ、いや、かなり馬鹿っぽい……』」

「ううん?」

「『ばびぶべぼ……』」

「ちょ、ちょっと待て、べちゃん!」

「はい?」

 べが首を傾げる。

「き、気のせいかもしれないが……大分ネガティブな印象を持たれていないか?」

「持たれていますね」

「ええっ⁉」

「寄せられた意見の大半がこういった論調です」

「そ、そんな、どうして……」

「簡単なことです……」

 びが口を開く。

「分かるのか、びちゃん⁉」

「私たちは『濁音』だからです」

「!」

「どうしても濁っているという先入観で捉えられてしまいがちです」

「むう……」

「いわゆる『清音』の方々の方が、イメージが良いです」

「そんな……」

 ばが俯く。

「こればかりは致し方無いことです……」

「……ねえ」

「え?」

 びが首を傾げる。ばが顔を上げる。

「納得出来ねえ! 俺たちも頑張っているのに!」

「そうは言われてもねえ……」

「なんとかイメージを向上させるぞ!」

「どうやって?」

「それはみんなで考えてくれ!」

「こちら任せですか……」

「俺はリーダー格だからな、みんなの意見を受け止めるぞ!」

「ちょっと待って下さい。誰がリーダー格ですって?」

「俺だよ!」

「それこそ納得出来ませんね……」

「勝手にリーダー面するなど……聞き捨てならんな……」

 びだけでなく、ぶも顔を険しくする。

「文句があるなら、受けて立つぜ!」

「ふははっ! 久しぶりに手合わせといこうか!」

 ぼが両手を組んで、指の骨をポキポキと鳴らしながら立ち上がる。

「あ、ああ! ひとつ提案が!」

 べが慌てて声を上げる。

                ♢

「打った~! べのホームランだ!」

「よし!」

 べがガッツポーズを取る。

「スポーツ大会の助っ人か……」

「確かにイメージ向上には良いかもしれませんね。爽やかさというものが感じられますし」

 ぶが呟く横で、びが頷く。

「よっしゃ、僕もベースボールで燃えるぞ!」

「あ、ぼさんはこちらです!」

「え? あ、ああ……」

「全員が同じスポーツというわけではないようですね」

 呼び出されたぼの背中を見ながら、びが呟く。

「うおおおっ!」

 ぼが険しい崖を登っていく。

「あれは……ボルダリングか、ぼ殿の力強さには合っているかもな……」

「コースを見極めて登っていく競技だと思うのですが、力任せに進んでいますね……」

 うんうんと頷くぶの横で、びが苦笑気味に呟く。

「びさんはこちらへお願いします!」

「はい……」

「ぶさんはこちらへ!」

「ああ……」

「ほっ! よっ! はっ!」

「おおっ! すごい!」

 びが自転車競技、BMXで自転車を華麗にターン&ジャンプさせる。その華麗な乗りこなしに、ギャラリーから歓声が上がる。

「……ふん!」

「ま、参った!」

「おおっ! 強い!」

 ぶがブラジリアン柔術に参加して、屈強な対戦相手を終始圧倒して、倒してみせる。その強さと技のキレにギャラリーは大いに興奮する。

「びちゃんもぶちゃんもギャラリーを沸せているな……よし、俺も……」

「ばさん、こちらにお願いします!」

「おっしゃ! バスケットでもバレーでもなんでも来いや!」

「はい! 1、2! 1、2!」

 数分後、美少女たちとバトントワリングをこなすばの姿があった。ばは声を上げる。

「……思っていたのと違う!」

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