五十音戦士外伝~ばびぶべぼの逆襲~
阿弥陀乃トンマージ
ば行の戦士たち
1
「…」
「きゃあっ!」
「……」
「うわあっ!」
とある空間世界――現代日本によく似ている――で、人々が逃げ惑う。
「………」
「む、『無音』だ!」
「『無音』が暴れている!」
人々の先には、黒く大きな塊がいくつも蠢いている。人々はそれを『無音』と呼んだ。
「…………」
無音と呼ばれた存在は淡々と街を破壊する。
「ああ、音もなく!」
「無音だからな!」
「このままじゃあ街が……」
「……………」
「うん?」
「動きが止まったわね……」
「………………」
無音たちがどうやら向きを変える。人々は驚く。
「こ、こっちを見ている⁉」
「ま、まさか……」
「…………………」
無音が人々の方に向かって動き出す。
「こ、こっちに来た!」
「ヤ、ヤバい!」
「に、逃げろ!」
「お、押すなよ!」
「……………………」
「け、結構早いぞ⁉」
「こ、このままだと……」
「ど、どうなるの⁉」
「の、飲み込まれる⁉」
「ええっ⁉」
「待ちなさい……」
「えっ⁉」
「『美毘火』!」
「……!」
赤色の髪で前髪がアシンメトリーな細マッチョの青年が右手を振るうと、火が発生し、無音が何体かその火に包まれて、霧消する。
「ふん、美しい火で荼毘に付しなさい……」
細マッチョが右の手のひらを軽くポンポンと払う。
「あ、あれは……『び』!」
人々が細マッチョを指差す。
「…」
「む?」
残った無音は動きを止めない。
「まだだ……! 『武剣』!」
「………!」
金髪のモヒカンのやや長身の青年が、刀を鞘から抜き去り、無音に斬りつける。斬りつけられた無音は両断されて霧消する。リーゼントは刀を納めて、呟く。
「また下らぬものを斬ってしまったか……」
「あ、あれは……『ぶ』!」
人々が金髪モヒカンを指差す。
「油断するのは良くないぞ、び……」
ぶと呼ばれた者がびと呼ばれた者に話しかける。
「ふん、気づいていましたよ……」
「なんだって?」
「私の感度は常にビンビンですからね」
「なるほど、髪の毛先が尖っているな……」
ぶが頷く。
「これはツンツンというのですよ……」
「無音に反応しているのではないのか?」
「レーダーみたいに言わないでください」
「ふむ……」
「とにかく、手柄を多少譲ってあげたのですよ……」
「そういうのが油断に繋がるのだ……」
「刀をきちんと鞘に納められない方に言われても説得力がありませんね……」
びがぶの腰のあたりを指差す。
「はっ⁉ ベルトの方に差しこんでしまった……ついうっかり……」
「不格好極まりないですよ」
「! 聞き捨てならんな……」
「お、お二方! まだ無音は残っていますよ! それっ! 『弁鞭』!」
「!」
小柄な体格でマッシュルームカット――緑色のメッシュが所々入っている――の者が鞭を鋭く振るう。鞭を食らった無音が霧消する。
「ふう……」
「あ、あれは……『べ』!」
人々がマッシュルームカットを指差す。
「なかなかやりますね、べ……」
「いえ、自分はまだまだです。びさん……」
「また腕を上げたな……」
「そんなことはないですよ、ぶさん……」
「こちらが褒めたのですが?」
「より褒めたのはこちらだ……」
びとぶが睨み合う。べが慌てる。
「そ、そんなことで言い合いにならないでくださいよ⁉ あっ⁉」
べがまだ無音が残っていることに気が付く。
「うおりゃあ! 『暴威』!」
「‼」
大柄な体格で坊主頭の者が気合を入れる。発せられた圧力に圧され、無音が霧消する。
「ふむ……!」
「あ、あれは……『ぼ』!」
人々が坊主頭を指差す。
「僕の威圧感もなかなかのものだろう?」
坊主頭が頭を撫でながら、びに問う。
「一人称、僕はやめた方が良いと思いますが……」
「ぼで始まる一人称は譲れないね」
「そ、そういうこだわりなんですね……あっ!」
苦笑を浮かべていたべが残っていた無音に気が付く。
「はああっ! 『爆風』!」
「⁉」
青みがかったポニーテールの者が爆風で無音を吹き飛ばし、霧消する。
「はっ、ざっとこんなもんだぜ……」
「あ、あれは……『ば』!」
人々が青いポニーテールを指差す。
「『ばびぶべぼ』……『ば行』の戦士たちだ!」
人々が揃って黒系のスーツを着た五名を驚きの眼で見つめる。平和は今日も守られた。
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