第2話

 昼休み、俺達四人はそれぞれの弁当を持って、いつものように屋上へと集まっていた。ウチの学校の屋上は基本的に誰でも使えるようにいつでも開放されているんだが、意外にも屋上に来る生徒は少なく、今日も屋上に来ているのは俺達だけだった。



「ん……今日は朝から良い天気だし、この青空の下で食べる飯は絶対に美味いだろうなぁ……」

「ああ。しかし……お前はいつでも食事の話ばかりだな。他にする話は無いのか?」

「んー……無いな。最近変わった事も無いからな」

「まあ、たしかにね。勇香ちゃんは何か変わった事ってあった?」

「私も特には無いよ。強いて言うなら、下駄箱にラブレターが入ってたり、校舎裏に呼び出されて告白されたくらいかな」



 勇香がなんて事ない調子で言うと、それを聞いた真王は少しだけ不安そうな顔をする。


「……またか。因みに、返事はどうしたんだ?」

「もちろん、全部断ったよ。中には運動部のエースとか女子の中で大人気のイケメンもいたみたい。ただ、私はそういう人には興味ないし、お兄ちゃんと真王君に比べたら面白味も感じない上に興味も沸かないかな」

「……そうか」



 勇香の返事を聞いて真王が安心したように微笑む中、俺は真王の肩に手を置きながらにっと笑う。



「真王、勇香が他の奴の彼女になってなくてホッとしただろ?」

「……そんな事は無い。勇香の人生は勇香の物だ。勇香が本当に好ましいと思った相手が出来たのならば、俺は心から祝福する。ただ……」

「ただ?」

「もし、ソイツが勇香を泣かせるような事などをした場合は、たとえ勇香がそれを望んでいなくともそれ相応の報いを受けてもらうだけだ。幼い頃から勇香と共に生きてきた者として勇香の事は大切に感じているからな」

「……そっか。でも、そういう事ならやっぱり真王が勇香の彼氏になってくれた方が俺的には嬉しいな。勇香も彼氏にするなら真王が良いだろ?」

「そうだね。真王君は優しい上に力も強いし、お兄ちゃんと違って頭も良いからね」

「そうそ──って! 俺だって別に頭が悪いわけじゃないからな!?」



 すると、勇香はいたずらっ子のような笑みを浮かべる。



「わかってるよ。でも、小学校の頃から今まで真王君に勉強で勝てた事はないでしょ?」

「そ、それは……」

「まあ、体育の成績はお兄ちゃんの方が良いみたいだし、知恵の真王君、運動のお兄ちゃんって事で良いんじゃない?」

「そうそう。可愛い妹からもそう言われてるんだし、それで良い事にしたら?」

「……わかったよ」



 前世でも仲間達からは体力や運動能力だけはすごいって言われていた。別に魔法を使う事や作戦を考えるのは苦手じゃないけど、他の奴の方がそういうのが得意だったからそんな風に言われるようになったんだろうけど、でもまさか、今世でもそんな風な扱いになるとは思っていなかった。



「はあ……」

「そう言われたくなければ、まずは勉学の成績で俺を超える事だな。さて、ではそろそろ昼食にしよう。話すのは食べながらでも出来るからな」

「んだな。うっし……それじゃあそろそろ昼飯にするか」

「ああ」

「「うん」」



 三人が返事をした後、俺は家から持ってきていたシートを屋上の真ん中に敷き、全員がいつもの定位置に座り終えたのを確認してから自分も定位置に座る。そして、揃っていただきますの挨拶をした後、俺達は昼食を食べ始めた。



「……うん、今日も母さんの弁当は最高だな!」

「ふふっ。お兄ちゃん、朝ごはんの時もそうだったけど、ご飯をいつも美味しそうに食べるよね」

「当たり前だろ? 美味い物は美味いからな。それに、それを感謝しながらしっかりと食べるのは俺達の血肉になってくれる食材に対しても作ってくれた人に対してもするべき礼儀だ」

「……ふ、なるほどな」

「たしかに勇矢の言う通りだよね」

「へへっ、だろ?」



 静かに笑いながら言う真王と笑顔を浮かべながら言う恋香の言葉に対して笑みを返していた時、それを聞いていた勇香がくすりと笑った。



「そんな食べる事が大好きで食事に対しての礼儀がしっかりとしてるお兄ちゃんに朗報です。今朝、お母さんが言ってたんだけど、今日の夜ご飯は私とお兄ちゃんの好きな物が一品ずつ出るそうです」

「おっ、マジか!」

「うん、マジも大マジ。だから、今日も授業をしっかりと受けてきなさいって言ってたよ」

「ああ、もちろんだ! くぅ~、何が出るのか今から楽しみだなぁ……!」



 夕飯への期待で胸を膨らませていると、それを見ていた真王がフッと笑った。



「お前は食事の事となると本当に目が輝くな」

「へへっ、当たり前だろ? 俺にとって食べる事は趣味でもあるからな」

「……そうだったな。“あの時”もお前と今のように語り合っていれば……」

「ん、何か言ったか?」

「……いや、なんでもない」

「そっか」



 真王の言葉が少し気になりながらも弁当を食べ続ける事数分、いつの間にか弁当箱の中は空になっており、それと同時に満腹と暖かな陽気によって口から欠伸が漏れた。



「ふわぁ……ごちそうさまでした。さて、昼休みはまだまだあるし、少し昼寝でもするかな……」

「そうか。では、予鈴が鳴る数分前には起こすから、それまでゆっくりと寝ていると良い」

「ん……任せた。んじゃ、おやすみ……」



 空いているスペースに寝転がり、目を瞑りながら言ったその言葉に対してみんなが答える声を聞いた後、俺は意識が落ちていくのを感じながら静かに眠りについた。

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転生勇者は再び世界を救う 九戸政景 @2012712

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