第4話
夕日の制止を無視して花沢ひよりは、月野麻里亜の方へと歩いていく。
月野麻里亜は友人たちと楽しげに談笑しているところだった。
「月野さん。少しいいかしら」
「ふぇ?花沢さん?」
麻里亜は突然花沢に話しかけられて首を傾げる。
「二人きりで話したいことがあるのだけれど」
流石に周りに人目がある状態で夕日の話を切り出すわけにもいかず、ひよりは麻里亜と二人きりになって話そうとする。
「全然いいよ!!」
人のいい麻里亜はひよりの申し出を快く了承し、二人は連れ立って教室を出た。
教室を後にするとき、心配そうにこちらを見ている夕日に気がついたひよりは夕日にウインクした。
「ワクワク!」
そうして二人きりの場所までやってきたひよりはいよいよ本題を切り出そうとする。
みれば麻里亜は何やら期待するような目をひよりに対して向けていた。
「どうかしたの?」
「話って何なのかなって!花沢さんとこうして二人きりで話すのって初めてだよね!花沢さんから誘ってくれて嬉しいな!」
ニコニコ笑いながらそんなことを言う麻里亜にひよりは微笑を浮かべる。
この子供のように無邪気な感じが、男心をくすぐるのだろうとそう思った。
胸も私より大きいし、悔しいけれどこの子が魅力的なのは認めざるを得ないわね、とひよりは密かに敵愾心を持った。
「それで、何の話をするの?もしかしてお友達になりたいみたいな!?だとしたら私、すごく嬉しいかも」
「残念ながらそうではないわ。私はあなたの友達にはならない」
「え…そうなの?」
途端にしょんぼりする麻里亜。
まるで飼い主に見放されたみたいな表情だ。
恋敵ながら少し揺らぎそうになった心を、なんとかひよりは持ち直した。
「単刀直入に言うわ。あなた、町田くんについてどう思っているのかしら」
「え、夕日のこと?」
「ええ、そうよ」
恋敵と無駄話をする気もないひよりは少し乱暴ながら早速本題に入ることにした。
ズバリ、夕日について麻里亜がどう思っているのかを問いただす。
麻里亜は頬に人差し指を当てて首を傾げた後にいった。
「夕日は一生の友達だよ」
「友達?それだけかしら」
「それだけって?」
「あなたが町田くんに感じているのは友情だけ?それ以上の何かを彼に求めたりはしていないの?」
「それ以上?どう言う意味?」
「ええと、そうね…」
麻里亜はひよりの言わんとしていることを察することが出来ていないようだった。
惚けている、と言うよりはこれが彼女の素なのだろう。
「つまり、あなたは町田くんのことが好きではないのかって、そう言うことよ」
「え、好きだよ」
麻里亜は即答した。
「当たり前だよ!夕日のことは好きだよ!誰よりも!」
「そう、なのね…?」
答えを得た…はずなのだが、ひよりは納得しなかった。
麻里亜のあっけらかんとした答え方が、逆にひよりの中に疑念を生んだ。
「本当に町田くんのことが好きなの?」
「もちろん!」
「どのぐらい?」
「大大大好きだよ!!」
「大大大好きなのね」
「うん!」
自信を持って頷く麻里亜。
だがひよりはまだ納得していなかった。
「それじゃあ、たとえば町田くんがあなたに好きだと言ったとして、あなたはなんて答えるかしら」
「夕日が私に?何でそんなこと言うの?」
麻里亜が本当に何もわかっていなさそうな表情で首を傾げる。
「…あなた、まさか町田くんの気持ちに気づいていないの?」
「夕日の気持ち?」
「町田くんはあなたが好きなのよ」
「え…」
麻里亜が一瞬ぽかんとした後にいった。
「知ってるけど?」
「そう、知ってるの」
どうやら麻里亜は夕日の気持ちに気づいているようだった。
ひよりは満足げに頷いた。
「その答えを聞いて安心したわ。いえ…私としては非常に悔しいところだけれど、両思いの二人の中を引き裂く気は私にはないわ。真実を町田くんに伝えるほかないわね」
「ほえ?何の話?」
「いえ。こっちの話よ。悪かったわね、時間取らせて。それじゃあ」
「ふぇ?もう終わりなの?」
残念そうにそんなことをいう麻里亜に、ひよりは手を振ってその場を離れた。
どうやら麻里亜はすでに夕日の気持ちに気づいていたようだ。
そして本人も夕日のことが大好きと言っていたので、おそらく夕日が告白をすれば二人は付き合うことになるだろう。
それはひよりにとって不本意なことなのだが、逆に麻里亜の気持ちが聞けてひよりは何だか清々したような気分だった。
二人は最初っから両思いだったのだ。
つまり自分の入る隙はなかったと言うことで、それなら諦めもつくとひよりはそう割り切った。
次の更新予定
優柔不断な俺のせいで学校のアイドルと幼馴染がヤンデレになった件 taki @taki210
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。優柔不断な俺のせいで学校のアイドルと幼馴染がヤンデレになった件の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
参加中のコンテスト・自主企画
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます