第3話


「それじゃあ、作戦会議を始めましょうか」


次の日の朝の教室。


俺は教室の後ろの方で花沢と作戦会議を開いていた。


学校一の美少女である花沢とモブの俺が一緒にいるという珍しい光景に、クラスメイトたちがチラチラと視線を送ってくる。


俺は自分が注目を浴びているのを自覚し、ごくりと喉を鳴らしてからいった。


「な、なぁ…本当にいいのか?」


「何がよ」


「俺が麻里亜と付き合うのを…手伝ってくれるって…」


「もちろん本当は嫌よ」


「…っ!?」


ピシャリと言われ、俺はビクッとしてしまう。


花沢が腕を組み額に手を当てていった。


「恋敵の恋を応援するのが嫌じゃない女の子なんていないわよ。でも…こうでもしないと私があなたと付き合う可能性がなくなるものね」


「…お、おう」


「勘違いしないで。私はあなたと月野さんが付き合って欲しいなんて少しも思ってないわ。私の目的はあなたが月野さんに振られて私と付き合うこと。でも…あなたが月野さんが好きだという気持ちは変えられないから全力で応援するわ。でないとフェアじゃないもの」


「…すまん。マジで助かる」


俺は花沢に頭を下げた。


花沢がはぁ、とため息を吐いた。


「それで…あなたと月野さんってどういう関係なのかしら?まずはそこから教えてちょうだい」


「俺と麻里亜は幼馴染なんだ。家が近所で、小学校から今までずっと学校も同じで…」


俺は月野を好きになった経緯を花沢に話した。


月野麻里亜と俺は幼馴染だ。


家が近所で、親同士の付き合いがあり、小さい頃はよく互いの家に遊びにいっていた。


今でも麻里亜とは友達みたいな関係で、登校も下校も一緒にしているし、休み時間に一緒に話したりもする。


麻里亜を異性として意識し始めたのは中学の頃だった。


それまではずっと親友としてみていた麻里亜を、俺は女として見るようになっていた。


麻里亜のことを好きだと自覚してから、ずっと気持ちを伝えたいと思っていたが、現在の関係を壊すのが怖くて言えなかった。


そのままずるずる友達関係を続け、現在に至る。


そんな情けない話を俺は花沢に聞かせた。


「ちっ」


「は、花沢!?」


花沢の表情がいつの間にかめちゃくちゃ曇っていた。


「気にしないで。惚気話を聞かされてイラついただけよ」


「の、惚気たつもりはないんだが…」


「私がいうのもあれだけれど…町田くん。あなたも相当意気地なしね」


「ぐ…」


「そんなにいつもそばにいるのならいつでも気持ちなんて伝えられるじゃない。どうしてそうしないの?」


「…勇気が出ない。今の関係を壊してしまうのが怖くて」


「気持ちはわかるけど、それだといつまで経っても何も変わらないじゃない」


「それはそうなんだが…」


花沢の言葉は痛いほど俺に響いた。


「そうやっていつまでもウジウジしていると、そのうち月野さんはあなたの元からいなくなってしまうわよ」


「え…月野が…?」


「知らないの?月野さん、かなりモテるのよ。月野さんのことが好きって言っている男子を、私は何人か知っているわ。彼らが仮にあなたより先に月野さんに告白した場合、果たして断るかしらね」


「…っ!?」


「私の言いたいことがわかった?」


俺は呆然とした。


言われてみればその通りだった。


月野麻里亜は客観的にみてもものすごく魅力的な女の子だ。


そんな麻里亜が、クラスの男子たちから何も思われていないはずがない。


麻里亜がいつまでも俺の隣で幼馴染をやっている保証なんてどこにもないのだ。


「ようやく気付いたようね」


俺の表情の変化を見て、花沢が満足そうに頷いた。


「それじゃあ、早速今日の放課後、月野さんをどこかに呼び出して告白しなさい」


「きょ、今日!?」


いきなりそんなことを言われ、俺は大きな声を出してしまう。


クラスメイトたちが何事かとこちらを見る。


「当たり前よ。告白をするなら早ければ早いほどいいわ。誰かに月野さんを取られてもいいのかしら?」


「そ、それは嫌だけど…でもいきなり告白ってのは…」


「はぁ…本当に意気地なしね、町田くん」


「う…」


俺が肩を落とす中、花沢が言った。


「いいわ。じゃあこうしましょう。私が月野さんにあなたのことをどう思ってるか聞いてきてあげる」


「…!?」


「もし月野さんがちょっとでもあなたに気があるようなら今日、告白しなさい。それでいいわね?」


「いや、ちょっとま」


俺は急いで待ったをかけようとするが、花沢は友達たちと楽しそうに話している麻里亜のところへスタスタと歩いていってしまった。

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