第2話


「どうしてそれを?」


「やっぱりそうなのね」


花沢は俺の反応を見て、納得の言ったような表情になる。


「そうなんじゃないかと思ったわ」


「ど、どういうことだ…?」


はぁ、とため息を吐いてから花沢は言った。


「正直言ってダメもとで告白してみたの。あなたが月野さんのことを好きなのはなんとなくわかってた。ずっとあなたをみていたんだもの。あなたが月野さんに向ける表情が、他の女の子に向けるそれとは違うことに気がついてた」


「…っ」


そんなに俺はわかりやすかっただろうか。


なんだか恥ずかしくなり、顔に熱が籠る。


「このままじゃ月野さんと町田くんが付き合うのは時間の問題だって思ったの。だからあなたに告白した。で、ご覧の有様よ。私のことを笑ってちょうだい」


「そ、そんな…笑うなんて…こ、告白されたのは初めてだったから嬉しかったぞ」


「ありがとう。でも、哀れんだり同情するのはやめてちょうだい。余計に虚しくなるから」


「…あ、哀れんでいるわけじゃない。本当に嬉しかったんだ!」


実際、女子に告白されたのはこれが初めてで、嬉しかったのは事実だった。


”大切な話があります。放課後に校舎の屋上へ来てください。花沢ひより”


そんな手紙を今朝学校に来た時に机の中から見つけた時、正直言って誰かの悪戯だと思った。


だから俺は途中まで手紙を無視して帰るつもりだった。


だけど、万一手紙が本当に花沢ひより本人から送られてきた場合、花沢は放課後の屋上で待ちぼうけをすることになる。


だから俺は校門を出た後に引き返して屋上へやってきた。


そしてそこで待っていた花沢ひよりの姿を見て俺は驚いた。


大切な話の内容が告白だったとわかった時は、本当にこれが現実なのか疑ったぐらいだ。


花沢みたいな魅力的な女の子に告白されるなんて、俺みたいな平凡な男の人生で一度あるかないかぐらいの幸運だろう。


そんな幸運を自分から不意にしてしまうなん

て、馬鹿だと自覚している。


それでも俺は幼馴染の月野麻里亜のことが好きだった。


この気持ちだけは偽るわけにはいかなかった。


「花沢に告白されて嬉しかったし、俺なんかが花沢の告白を断るのは生意気かもしれないけど…でも、俺は月野が好きなんだ」


「…」


「俺とあいつ幼馴染で、ずっと片思いしてて…いまだに想いを伝えられてなくて…でもあいつのことを好きな気持ちは変えられないから…だから…すまん」


「…」


花沢は無言で俺のことをじっと見ている。


何を考えているのかわからず俺はドギマギしてしまう。


永遠に続くかと思われた気まずい静寂の後、花沢が徐に口を開いた。


「あなたの気持ちはわかったわ」


「そ、そうか…わかってくれて嬉し」


「でも私はそれでもあなたが好き」


「…っ!?」


「多分、ここであなたを諦めたら一生後悔すると思う。だから…こうしましょう」


花沢が人差し指を立てた。


「私があなたの恋を応援するわ。月野さんと付き合えるように手引きしてあげる」


「え、ええ!?」


「恋敵の月野さんと町田くんの恋を応援するのは正直言って嫌だけれど…でも町田くんの気持ちは変えられそうもないもの」


「い、いいのか…?」


「その代わり…もし月野さんと付き合えなかったら、その時はあなたは私と付き合うの」


「え…」


花沢がニヤリと笑っていった。


「これは交換条件よ。あなたと月野さんが付き合えるように力を貸してあげるから、無理だった時は私と付き合って」

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