レクチャー3



その日の帰り道、部活を終えて校門を出ると、相川凛が腕を組んで立っていた。


「やっと来た。遅いんだけど、春木くん。」


「なんで待ってるんだよ……俺、別に頼んでないぞ?」


俺が呆れたように言うと、凛はわざとらしくため息をつき、腕を広げた。


「新聞部で取材してたんでしょ?どうせ何かやらかしたんじゃないかと思ってね。」


「やらかす前提で見に来るのやめろよ。」


「だって、そうじゃない?」

凛は笑いながら俺を覗き込む。その言葉に反論しようとしたが、今日の失敗が脳裏をよぎって何も言えなかった。


「……まあ、ちょっとはミスしたかもしれない。」

 

「ほら、やっぱり!」


凛が嬉しそうに声を上げる。その態度に俺はムッとしつつも、反論する気力が湧かない。


「で、どんな失敗?聞かせてよ。」


「いや、別に話すほどのことでもないし。」


「つまり話したら面白いってことね。ほら、早く。」


凛が催促するので、仕方なく取材中に緊張してメモが宇宙語になった話をざっくり説明すると、彼女は目を丸くして一瞬黙り……その後、大爆笑した。


「ぶはっ、宇宙語!?春木くん、それ新しい才能じゃん!」


「ふざけるな!別にそんなつもりで書いたんじゃない!」


「いやいや、宇宙人との交信とかできそうだよ?新聞部じゃなくてNASA行けば?」


凛は涙を浮かべながら肩を震わせている。俺は呆れながらも、少しだけ肩の力が抜けていた。


「……まあ、次はもっとちゃんとやるよ。」


「ほんとに?でもさ、春木くんの『次』ってあんまり期待できないんだよね。」


「ひどいな!」


「だって、見てて面白いくらい不器用なんだもん。」


凛がからかうように笑いながら言う。その一言が刺さったのか、俺はムキになって反論した。


「じゃあどうすればいいんだよ!」


「それ聞いてくるの?ほんと、どうしようもないね。」


凛は呆れたようにため息をつき、それから急に真面目な表情になった。


「でも、さすがにこのままじゃ佐倉さんと話すのは無理だよ。」


「えっ……」


急な本題に戸惑う俺を見て、凛は腕を組み直しながら続けた。


「取材すらまともにできないのに、いきなり佐倉さんと仲良くできると思ってるの?無理無理。」


「……そんなに俺ダメか?」


「うん、ダメ。」


凛が即答すると、俺はがっくり肩を落とした。


「でも、努力次第で少しはマシになるんじゃない?」


凛は軽く肩をすくめると、意味深に俺を見つめた。


「ねえ、春木くん。まずは女の子と普通に話せるようになる練習をしてみない?」


「練習って……何をするんだよ。」


「ほら、私が相手になるから、普通に会話する練習だよ。別に私は春木くんのことが好きなわけじゃないし、気を遣う必要もないでしょ?」


「いや、気は遣うだろ!」


「そこも練習だってば。」


凛がにやりと笑う。俺は返す言葉もなく、少し考え込む。


「で、例えば何をするんだ?」


「そうだね……一緒に何かをするのがいいんじゃない?カフェでお茶するとか、本屋で雑誌を選ぶとか。」


「それって、デートっぽくないか?」


俺が突っ込むと、凛は片手を振って否定した。


「そんな高尚なものじゃないよ。ただの練習だから。」


「……そんなものか。」


「そうだよ。まずは自然に話せるようにならなきゃ。」


凛が自信たっぷりに言う。確かに、俺にはもっと余裕を持つ練習が必要なのかもしれない。


「……分かったよ。」


「素直でよろしい!」


凛が満足そうに頷き、スマホを取り出して何かを調べ始める。


「じゃあ、土曜日ね。時間と場所は決めて連絡するから、遅刻しないでよ。」


「分かった。」


俺が答えると、凛は振り返りざまに手を振りながら帰っていった。


「ほんとに大丈夫かなー。まあ、失敗してもネタになるしね!」


最後の一言が聞こえた気がしたが、俺は気にしないことにした。


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