第5話
妖魔を退治した後、辰麒は都に早馬を送り人手を送ってもらい、湖の底をさらった結果、大量の人骨や荷が発見された。
水中を住み処とする水妖と呼ばれる妖魔だ。元は溺死したまま放置された無念の人の魂の集合体と言われている。湖や沼、池など水のある場所を点々と移動する厄介な妖魔だ。
都へ帰る道すがら、春河は自分の身に起こった出来事で頭がいっぱいだった。
(私はあの時、確かに水妖に湖へ引きずり込まれて精気を吸い尽くされて……)
しかしそうはならなかった。
気付くと、何事もなかったみたいに陸地にいて、引きずり込まれる前と同じ会話をしていた。まるで時間が巻き戻ったかのように。
(これが私の神器の力……?)
「おい、平気か?」
方を揺さぶられ、はっと我に返る。
「え?」
「ずっと心ここにあらずだったぞ。呼びかけても返事もしねえし」
辰麒が本気で心配するくらいだから、本当に危なかったのだろう。
「すいません。気が抜けてぼーっとしちゃってました」
「……それならいいが。どうやってあいつの気配に気付いた? 俺さえ気付けなかったんだぞ」
さすがに水中に潜まれていては、辰麒の自慢の嗅覚も役には立たない。
確かに未熟な新米神器士が気付けるはずがない。
言うべきかどうか迷った。でも信じてもらえるだろうか。
時を遡ったなんて。
春河自身も未だに信じられないし、本当に遡ったのかどうかさえ定かではない。
緊張のあまり白昼夢でも見ていた可能性もあるんじゃないかと思う。
「な、何となく……」
「何となくって、お前……ま、そういうこともあるのかもな。お前田舎者だし、野生の勘って奴かもな」
辰麒が皮肉たっぷりに言った。
「そう、ですね」
あははは、と春河は笑った。
神器士~かくして少女は選ばれた 魚谷 @URYO
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