神に捨てられた僕は、女神に堕とされる

第63話 母・襲来

　朝の準備を終え、プレアデスが開店する時間帯に近づいてきた。昴はカウンターの上を軽く拭きながら、今日もお客様に喜んでもらえるようにと心を込めて準備を進めていた。

「さて、今日はお客さんが多く来るといいな…」と、少し緊張しながらも心を落ち着けたその時、店の扉が開き、二人の女性が入ってきた。

　昴は顔を上げると、そこに立っていたのは茉莉亜とその母親、瑠那だった。思わず目を見張る昴。

「いらっしゃいませ！」昴は慌てて笑顔で挨拶した。

「茉莉亜さんと、お姉さん？」と、思わず言葉が出てしまった。

　その言葉に、瑠那は軽く笑いながら手を振った。

「お姉さん？嬉しいわね。私は茉莉亜の母の瑠那よ。よろしくね。」

　昴は驚いた表情を隠しきれず、すぐにお辞儀をして言った。

「あ、失礼しました！こちらこそよろしくお願いします。」

　瑠那は茉莉亜を軽く見て、笑いながら言った。

「茉莉亜、こんなに思われてるなんて、ちょっと照れるわね。」

「うるさいわよ。」

　茉莉亜は顔を赤くして、恥ずかしそうに言った。

　昴は少し安心して、何とか落ち着いて言った。

「それでは、席にご案内しますね。」

　二人を案内し、席に着くと、瑠那はメニューを手に取って、じっくりと見ながら言った。

「それで、昴くん。このお店のおすすめメニューは何かしら？」

　昴は少し照れくさそうに答えた。

「おすすめはアイスコーヒーとガトーショコラですね。コーヒーは特にこだわりを持って淹れていて、お客様に楽しんでいただけるようにしています。」

　その言葉を聞いて、瑠那は目を輝かせて聞いた。

「こだわり？どんな豆を使ってるの？」

　昴は少し驚きながらも、自然に説明した。

「はい、うちはブラジル産の豆を使っています。産地にもこだわっていて、焙煎の度合いも調整しているんです。香りや味わいのバランスを大切にしていて、酸味と苦味の調和を意識しています。」

　瑠那は興味津々に聞いて、次に澪に目を向けた。

「澪さん、豆の産地とか、挽き方にはどんなこだわりがあるんですか？」

　澪はにこやかに微笑みながら答えた。

「実は、私たちが使っている豆は、ブラジル産に加えて、エチオピア産のものも取り扱っています。エチオピア産は、フルーティーな酸味が特徴で、特にアイスコーヒーにはピッタリです。挽き方についても、注文を受けてからその都度挽くようにして、できたてを提供しています。」

　瑠那はうなずきながら、さらに質問した。

「なるほど、注文を受けてから挽くんですね。それで新鮮な味わいが保たれるんだ…素晴らしいわ。」

「ありがとうございます。」

　昴は少し誇らしげに答え、瑠那が一口アイスコーヒーを飲むと、さらに満足そうな顔をした。

「うーん、このコーヒー、本当に美味しいわね。こだわりの味だわ。」

「ありがとうございます。喜んでいただけて嬉しいです。」昴はにっこりと微笑んだ。

　その後、注文していたガトーショコラも届き、瑠那は一口食べてから大きな声で言った。

「このガトーショコラも素晴らしい！甘さとコクのバランスが絶妙ね。」

「ありがとうございます。自家製で、ショコラの風味を大切にして作っています。」

　昴は嬉しそうに答えた。

　その後、瑠那は少しからかうような口調で言った。

　その後、瑠那は少しからかうような口調で言った。

「ところで、昴くん、茉莉亜のこと、どう思ってるの？」

　昴はその突然の質問に驚き、顔が赤くなる。茉莉亜は顔を赤くして、急にテーブルに視線を落とした。

「え、えっと…その、茉莉亜さんは…美人で、優しくて、僕を変えてくれたきっかけをくれた恩人です。」昴は必死に言葉を絞り出し、顔がますます赤くなる。

　その言葉を聞いて、茉莉亜はさらに赤くなり、顔を隠すように手で顔を覆った。心臓がドキドキして、どうしていいかわからない。

「ちょっと…恥ずかしいわよ！」茉莉亜は顔を赤くして、手で顔を隠し、恥ずかしそうに目を逸らした。

　瑠那はその様子を見て、微笑んだ。彼女の目には、娘の初恋を微笑ましく見守る母親の温かさが感じられた。

「ふふ、昴くんがそんなに真剣に答えるなんて、嬉しいじゃない。」瑠那はにっこりと微笑んだ。

　昴は照れくさい笑顔を浮かべるが、どこかぎこちない。茉莉亜の目線が気になって、ちょっと手を動かすだけで手が震えてしまいそうだ。言葉に詰まったまま、なんとか話題を変えようとしたが、言葉が出てこなかった。

「は、はい…」昴はうつむきながら少しだけ言葉を絞り出した。

　その瞬間、二人の間に一瞬の沈黙が訪れ、茉莉亜はさらに顔を赤くしてテーブルに視線を落とした。何かを言おうとしても、どうしていいかわからない。昴の言葉にどう答えるべきか、心の中で整理がつかない。

　そのギクシャクした雰囲気を感じた澪と瑠那は、ほほえましいものを見るような目で二人を見守っていた。

「ふふ、初めての気持ちって、こういうものよね。」瑠那は軽く肩をすくめて言った。

「ほんとうですね。お互いに意識しちゃってる感じ、可愛いです。」澪も微笑みながら、二人を見守る。

　茉莉亜と昴はそれぞれ、少しずつ顔を上げ、視線を合わせるが、またすぐにそらしてしまう。お互いに意識しすぎて、少し照れくさい。

「なんだか、見てるこっちが恥ずかしくなりますね。」澪がそんな言葉をつぶやくと、瑠那は笑いながら同意した。

「本当ね。でも、いいわよ、こういうの。お互いに気になるって、素敵なことじゃない。」

　瑠那は二人のやり取りを見守りながら、静かに言った。

　その後、少し沈黙が続きながらも、昴と茉莉亜は気まずさを感じつつも、だんだんと普通の会話に戻っていった。それでも、少し照れくさく、お互いを気にしながら話す二人の姿は、まるで初々しい恋の始まりのようだった。

　その微妙な空気を楽しみながら、瑠那と澪は二人の様子をほほえましいものとして見守り続けた。

　食事が終わり、瑠那と茉莉亜はそろそろ席を立とうとしていた。瑠那は立ち上がりながら、軽く一息ついた後、昴に向かって微笑んだ。

「それじゃ、そろそろ帰るわね。楽しかったわ。」瑠那は言って、茉莉亜に軽く声をかけた。「茉莉亜、行こうか。」

　茉莉亜は少し名残惜しそうに振り返ったが、母の後に続く。

「うん、ありがとう、昴くん、澪さん、またね。」

　瑠那は茉莉亜が出口に向かうのを見送ると、再び昴に向き直り、意味ありげに言った。

「そういえば、昴くん、ここのお店、素敵ね。私も友達に宣伝しておくわ。」

　瑠那は軽く笑って言いながら、背中を向けて歩き出す。

「きっとみんなも気に入るわ。」

　その言葉に、昴は驚きとともに少し照れくさい笑みを浮かべた。「あ、ありがとうございます…！」

「じゃあ、またね。」

　瑠那は軽く手を振り、茉莉亜と一緒にプレアデスを後にした。ドアが静かに閉まると、店の中にまたひとしきりの静けさが訪れた。

　その後、昴は少しの間、ドアの向こうを見つめていたが、やがて小さく笑った。茉莉亜と瑠那の訪問が、どこか心温まるものだったことを感じながら、これからもこの店を続けていく力をもらったような気がした。

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「頑張らないとな。」昴は心の中でそう誓い、店の準備に戻った。

　その日、プレアデスには新たな期待とともに、少しだけ温かな空気が漂っていた。