第58話 協力者たち
昴はスマートフォンを手にして、深く息を吐いた。画面には送信前のメッセージがいくつか並んでいる。
こんなことに友人を巻き込んでいいか、まだ悩んでいた。しかし、昴と澪の二人だけではこれ以上のアイデアはすぐに出てこない。勇気を出してメッセージを送信する。
メッセージをすべて送信したあと、昴はソファに深く座り込み、スマホを机の上に置く。
「これで断られたらどうしよう……」不安と期待が入り混じる。
だが、スマートフォンが軽快な通知音を立てるのに、それほど時間はかからなかった。
茉莉亜からの返事:「全然忙しくないよ!いつ行けばいい?」
千春からの返事:「おっけー!何かおいしいの作って待ってて!」
優翔からの返事 :「了解、すぐ行くよ」
昴はほっと胸を撫で下ろしながら、「これでなんとかなるかも」と、心の中で小さく呟いた。
昼過ぎ、プレアデスは少しだけ特別な空気に包まれていた。澪はキッチンで、昴と一緒に新メニューの試作品の確認をしている。
「これ、見た目は悪くないけど、もう少し甘さを控えたほうがいいかもね」澪が冷静にアドバイスを送る。
昴も頷きながら、「若い女性にウケる味って、やっぱり難しいな」とつぶやく。
店内の掃除やテーブルセッティングを整え終えた頃、ドアベルが軽やかな音を立てた。
「お邪魔しまーす!」茉莉亜が元気よく声をかけながら入ってくる。その後ろから千春と優翔が続いた。
「呼び出しなんて珍しいね、昴くん。相談って何のこと?」茉莉亜が席に座りながら聞く。
「プレアデスが危機って話?」優翔が手短に切り出す。
「おいしいデザートなら何でも協力するよ!」千春は笑顔を浮かべながら、カウンターのスイーツを覗き込む。
澪がキッチンから顔を出し、3人を迎える。「みんな、わざわざありがとう。今日は色々と力を貸してほしいの」
昴も隣で、「プレアデスを盛り上げるためのアイデアがほしくて。若い女性向けのメニューやお店の魅せ方とか……」と続ける。
3人はそれぞれ頷き、「いいよ、任せて!」と力強く返事をした。少し緊張していた昴も、皆の明るい反応に救われた気持ちになった。
「じゃあ早速始めようか!」茉莉亜が笑顔で仕切るように言い、和やかな雰囲気の中で話し合いがスタートした。
「…実はさ、プレアデスがすごく厳しい状況に陥ってるんだ。」
昴が話を切り出すと、茉莉亜、千春、優翔の三人は真剣な顔つきで耳を傾けた。昴は、口コミサイトに悪意あるレビューが増えたこと、それが原因で新規のお客さんが減少していること、さらには雷央とその父親がそれを裏で操っていることを詳しく説明した。
「雷央とその親父さんが、フランチャイズへの加入を強制するためにこんな手段を使ってる。母さんが断ったから、逆に店を潰そうとしてるんだ。」
昴は力なくテーブルに手を置き、深く息をついた。
「このままじゃ、本当に店が…俺の大好きなこの場所がなくなっちゃうかもしれない。」
話を聞き終えると、茉莉亜は一度静かに息を吐き、それから険しい表情で口を開いた。
「…最低ね。」
彼女の声は静かだが、その中には怒りがにじみ出ていた。普段は穏やかで優しい茉莉亜のこんな表情を見るのは珍しい。
「レビューの操作でお店を追い込むなんて、やり方が陰湿すぎるわ。」
茉莉亜はまっすぐ昴を見つめた。
「お店のために私ができること、何でも協力する。でもまず、うちの父の会社に顧問弁護士がいるから、一度相談してみるわ。法律的に戦えるかもしれない。」
その冷静な提案に、昴は目を見開いた。「本当に…そんなことまでしてくれるの?」
茉莉亜は優しく微笑んだ。
「もちろんよ。昴くんが困ってるのに、放っておけるわけないでしょう?」
茉莉亜の言葉の後、千春が椅子から立ち上がった。
「そんな無責任なレビューで澪さんたちが苦しんでるなんて、本当に許せない!」
彼女は拳を握りしめ、怒りを露わにした。
「雷央とかその親父とか、どれだけお店を大事にしてるか全然分かってないんだ!私にできることがあるなら、何でも手伝うから!」
その言葉に、澪は感極まったように千春にお礼を言った。「ありがとう、千春ちゃん。そう言ってくれるだけでも、本当に心強いわ。」
千春は澪に向かって力強くうなずいた。「絶対に負けちゃダメだよ、澪さん!」
千春の言葉の後、優翔が腕を組み、険しい表情を崩さないまま口を開いた。
「雷央。…前から感じ悪い奴だと思ってたけど、ここまで陰湿だとはな。」
優翔は少し首を振りながら続けた。
「こういうやり方、俺も気に食わない。特に澪さんや昴みたいな人を苦しめるなんて、絶対に許せないよ。」
その強い言葉に昴は思わず感謝の言葉を口にした。「優翔…ありがとう。みんなに相談して、本当によかった。」
茉莉亜、千春、優翔、そして澪。それぞれの力強い言葉を受け、昴は自分が一人で悩み続けていたことが馬鹿らしく思えてきた。
「みんな…本当にありがとう。」
そう言いながら、昴は自分が背負い込みすぎていたことを実感した。そして、目の前にいる友人たちに助けを求めることができた自分に、少しだけ自信が湧いてきた。
澪も力強くうなずく。「これだけ心強い仲間がいるなら、きっとこの状況を乗り越えられる気がするわ。」
その場の空気が少し明るくなる中、昴は自分の中に湧き上がる新たな決意を感じていた。「みんなと一緒に、絶対にプレアデスを守るんだ。」
この日、プレアデスを救うための本格的な動きが始まったのだった。
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良ければこちらもご覧ください。
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