第54話 最低な親子 ー雷央視点ー
夜、自室でスマートフォンを片手に、口コミサイトを眺める雷央。
画面には「カフェ・プレアデス」の低評価レビューがずらりと並んでいる。
「接客が最低」「二度と行かない」「あの店、存在価値なし」
レビューをスクロールしながら、雷央は満足げにほくそ笑む。
「俺を追い出した、くだらねぇ店なんかつぶれてしまえばいいんだよ。」
そう言いながら、薄暗い部屋で一人、笑みを浮かべる。
「ざまぁみろ、あのババアと間抜けなガキ。俺に逆らった罰だ。」
心の中では、昴とその母親である澪への強い優越感を感じている。
リビングルーム。雷央は父親である広告代理店の幹部、雷道に感謝の言葉を投げかける。
「父さん、マジで助かったわ。あの店、もう終わりだろ?」
雷央が得意げに話すと、雷道は煙草をくわえながら不敵な笑みを浮かべる。
「ああ、フランチャイズの話を断ったからな。あとは口コミで潰れるのを待つだけだ。」
雷道は淡々とした口調だが、どこか楽しんでいる様子だ。
雷央が「さすが父さんだわ!」と感嘆すると、雷道はニヤリと笑う。
「あの店の女店主、美人だったからな。もし愛人になるっていうなら、許してやってもいいが。」
そう言って下衆な笑みを見せる父親に、雷央も思わず吹き出して笑う。
「ほんと、親父って最高だよな。」
二人で笑い合い、薄汚れた優越感を共有する。
自室に戻り、再びスマホを手にした雷央は画面を見つめながら、昴の顔を思い浮かべる。
「何も持たないクズが、俺に逆らおうなんて100年早いんだよ。」
ベッドに寝転がりながら、自分の持つ地位、金、力に改めて酔いしれる。
「これが、選ばれた人間の在り方だ。何も持たない奴らは、搾取されてりゃいいんだよ。」
雷央は満足げに目を閉じ、夜の静寂の中で自分がいかに優越した存在であるかを噛み締める。
「昴、あの店と一緒にお前も潰れてしまえよ。」
そう呟きながら、雷央は冷たく笑みを浮かべた。
翌日、昼下がりのプレアデス。店内には優しい音楽が流れ、澪はカウンター越しで常連客に微笑みながらコーヒーをサーブしていた。
そのとき、ドアが開き、二人の男が入ってきた。雷央とその父親、雷道だった。
澪は顔をしかめるも、すぐに表情を整えた。
「いらっしゃいませ。」
雷央は薄く笑い、店内を見回す。
「随分と寂れた店だな。」
雷道も煙草をくわえたまま、店の雰囲気を嘲笑するように眺めた。
「口コミってのは怖いもんだな。こんな店、いつまで持つか。」
澪は冷静を装いながら、二人をカウンター席に案内しようとした。
「何かご注文を――」
雷央が手をひらひらと振り、澪の言葉を遮った。
「いやいや、今日は注文しに来たんじゃねぇよ。」
雷道がニヤリと笑い、カウンターに肘をついて澪をじっと見つめた。
「店主さん、話があるんだ。少し聞いてくれるか?」
澪は眉をひそめながらも、「何のご用件でしょうか」と静かに返す。
雷道は声を低め、あたかも親切心を装うように話し始めた。
「正直なところ、この店がこの先厳しいのは目に見えてる。口コミの評価がここまで落ちると、新規客はほとんど来ないだろう?」
澪はその言葉に表情を曇らせるも、口を挟まず黙って聞いた。
「だがな、救いの手はある。」
雷道がさらに声を潜めて続ける。
「フランチャイズに入れば、俺の力で口コミの評価を一気に回復させてやれる。そうすりゃ、この店もまた賑わうさ。」
雷央も口を挟み、軽薄な笑みを浮かべながら言った。
「おばさん、そろそろ現実見たほうがいいんじゃねぇの?店を守りたいなら、親父の言うこと聞いたほうが賢いと思うぜ。」
澪は言葉に詰まりながらも、冷静さを保とうとしていた。
雷道がさらに身を乗り出し、薄笑いを浮かべた。
「それにな、この話にはもう一つ条件がある。」
澪は眉をひそめながら聞く。
「条件、ですか?」
「そうだ。」雷道の笑みがさらに下品なものになる。
「あんた、俺の愛人になればいい。そしたら、この店も救ってやるよ。」
その瞬間、店内の空気が一気に凍りついたように感じられた。
澪は一瞬言葉を失ったが、すぐに鋭い目つきで雷道を見据えた。
「…ふざけないでください。」
雷央がくつくつと笑い始める。
「ふざけてるのはそっちじゃねぇの?こんな店、もうじきつぶれるのにさ。」
澪は深く息を吸い込み、雷道を冷たく見据えた。
「この店は、私たち家族の大切な場所です。お金や地位のために譲るつもりはありません。」
雷道の表情が険しくなる。
「そう言うなら勝手にすればいいさ。でも、あんたみたいな貧乏人が、この先どうやって生きていくつもりだ?」
澪は毅然とした声で言い返す。
「どんなに苦しくても、自分の信念を曲げるつもりはありません。それが、この店を作り上げた人間の誇りですから。」
雷央が呆れたように笑い、椅子から立ち上がる。
「好きにしろよ。俺らには関係ないけど、潰れるのは時間の問題だぜ。」
雷道も立ち上がり、冷笑を浮かべた。
「そうだな。せいぜい頑張れよ、店と一緒に沈むまでな。」
二人は嘲笑を浮かべながら店を出て行った。
店内に静寂が戻り、澪は深く息を吐き出した。
カウンターに手を置き、しばらくの間、動くことができなかったが、やがて顔を上げる。
「この店は、絶対に守る。」
澪の目には、強い決意が宿っていた。
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良ければこちらもご覧ください。
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