第51話 カフェで知るネット社会
ボウリングを終えた二人は、近くにある人気のカフェに立ち寄った。ガラス張りの店内からは明るい日差しが差し込み、午後の時間にぴったりの落ち着いた雰囲気が広がっている。
「やっぱり、こういう静かなカフェはいいよね」
綾乃がメニューを手に取りながら微笑む。
「うん。こういうところ、あんまり来ないから新鮮だよ」
昴は少し緊張した様子で答えた。
「え、カフェとか来ないの?」
「あんまり。どっちかっていうと、コンビニとかファミレスで済ませちゃうタイプかも」
「それ、すっごく男の子っぽい!」
綾乃はくすっと笑いながら、「じゃあ、今日はカフェの雰囲気も楽しもうね」と言い、昴も小さく頷いた。
注文を終えてしばらくすると、二人の席にアイスカフェラテとアイスコーヒー、そして綾乃が頼んだパンケーキが運ばれてきた。
「パンケーキ、思ったより大きいね!」
綾乃は目を輝かせながらプレートを眺めていた。ふわふわのパンケーキの上にはたっぷりの生クリームとメープルシロップがかかっている。
「本当だね。これ、一人で食べきれるの?」
昴が冗談交じりに言うと、綾乃はフォークを持ちながら胸を張った。
「もちろん!こう見えても甘いものには目がないんだから」
綾乃が勢いよく一口食べると、目を輝かせながら言った。
「わあ、ふわふわ!昴くんも食べてみる?」
「え、いいの?」
「もちろん。ほら、遠慮しないで」
綾乃が切り分けてくれたパンケーキを昴が食べると、口の中に広がる優しい甘さに驚いたような表情を見せた。
「これ、美味しいね。普段こういうの食べないから新鮮だな」
「でしょ!やっぱり甘いものは正義だよね」
「それにしても、さっきのボウリングは本当に面白かった!」
綾乃が思い出しながら笑う。
「いや、面白かったっていうか……恥ずかしかったよ。隣のレーンに飛ばした時なんて、穴があったら入りたかったし」
昴は苦笑いしながら言う。
「でも、そういうハプニングがあるから楽しいんだよ。隣の人にちゃんと謝った昴くん、偉かったし!」
「それくらい普通でしょ」
昴は少し照れくさそうに目をそらした。
「いやいや、普通じゃないよ。私の友達なんて、そういう時気まずそうに逃げちゃう子もいるし」
綾乃は笑顔でそう言いながら、アイスカフェラテを一口飲んだ。
しばらくボウリングの話で盛り上がった後、綾乃が少し真剣な表情になった。
「ねえ、昴くんって普段からああいう風に周りに気を遣うの?」
「え、どうだろう……別に意識してやってるわけじゃないけど」
昴は急な質問に戸惑いながら答えた。
「でも、そういうところすごく素敵だと思うよ」
綾乃の言葉に、昴は少し驚いたように目を見開いた。
「え、そうかな……?別に自分ではそんな風に思ってないけど」
「うん。たとえば、ボウリング場でも私が少し疲れてるの気づいて『大丈夫?』って声かけてくれたじゃん?ああいうの、嬉しかったよ」
「そっか……でも、それって普通のことだよ」
昴が言うと、綾乃は首を振った。
「普通じゃないって!そういうの、ちゃんと気づいて行動できるのがすごいの。私、改めて昴くんって優しいなって思ったよ」
その言葉に、昴は少し照れながら「ありがとう」とだけ言った。
気まずい空気を変えるように、綾乃が明るく話題を切り替えた。
「そういえば、夏休み中に他にもどこか行きたいところとかあるの?」
「うーん、特に決めてないけど……綾乃さんは?」
「私は海に行きたいな!でも、人が多いのは嫌だから、穴場みたいなところがいいな」
「穴場か……そんな場所知ってるの?」
「全然知らない!」
綾乃が明るく笑うと、昴も思わず吹き出した。
「じゃあ、見つけるの大変だね」
「昴くんが調べてくれたら、一緒に行くよ!」
綾乃が冗談っぽく言うと、昴は「え、俺が?」と驚いた顔をした。
「冗談だって。でも、そういうのも楽しそうじゃない?」
「うん……まあ、確かに」
二人の会話は尽きることなく続き、穏やかな時間が流れていった。
アイスカフェラテを飲みながら、綾乃がふと思い出したように話し始めた。
「そういえば、私ってカフェ巡りするの好きなんだよね。美味しいコーヒーとかデザートのお店を探すのが楽しくてさ」
「へえ、そうなんだ。結構いろんなカフェに行ってるの?」
昴が興味深そうに聞くと、綾乃は嬉しそうに頷いた。
「うん!友達と一緒に行ったり、一人でフラッと寄ったりね。気になるお店は結構リストにしてるんだけど、全部回るのが大変で」
綾乃はスマホを取り出して、画面を操作しながら笑顔を浮かべる。
「ほら、この前気になったカフェがあったんだけどさ、ちょっとレビューが良くなくて悩んでるんだよね。この近くなんだけど、昴くん知ってる?」
そう言いながら、スマホの画面を昴に差し出した。
昴がスマホを受け取り、画面を覗き込むと、そこに表示されていたのは「カフェ・プレアデス」という名前だった。
「えっ……!」
昴は明らかに動揺し、手が一瞬止まった。
「どうしたの?」
綾乃が不思議そうに首をかしげる。
昴はスマホの画面を指でスクロールし、表示された口コミの内容を確認する。そこには、こう書かれていた。
「接客態度が最悪」「味は普通」「店内の雰囲気は良いけど店員が怖い」
昴の顔はみるみるうちに青ざめていった。
「昴くん、本当にどうしたの?顔、真っ青だよ?」
綾乃は心配そうに覗き込む。
「あ、いや、別に……」
昴は慌ててスマホを返しながら言葉を濁したが、明らかに挙動不審だった。
「別にって、その顔で説得力ないんだけど?」
綾乃はじっと昴を見つめながら、半分冗談交じりに笑った。
「いや、あの、ちょっと知ってる店でさ……なんていうか、思い出しちゃっただけ」
昴は苦笑いを浮かべながら答える。
「知ってるの?このカフェ?」
綾乃が目を輝かせると、昴は一瞬言葉に詰まった。
「えっと……まあ、知ってるっていうか……」
「どんなお店なの?やっぱり口コミ通りちょっと微妙な感じ?」
綾乃は興味津々といった様子でさらに聞き込む。
「うーん、微妙というか……まあ、悪くはないと思うよ。店内の雰囲気は確かにいいし、コーヒーも普通に美味しいし……」
昴は言葉を選びながら必死に答えたが、その声はどこか震えている。
「じゃあ、接客が悪いっていうのは本当なの?」
綾乃が真剣な表情で問いかけると、昴は「そ、それは……」と言葉を詰まらせた。
しばらくの沈黙の後、昴は観念したように口を開いた。
「実は……そこの店、母さんがやってる店なんだ。」
「えっ!?」
綾乃は目を丸くして驚いた。
「いやいや、でも待って。これ、口コミ見る限りだと結構ひどいこと書かれてるよ?本当に昴くんのお母さんのお店なの?」
綾乃はスマホの画面を昴に再び突きつけた。
「違うよ!その口コミ、絶対におかしいって!母さん、そんな接客が悪いなんてことないし、店も普通に評判良かったんだ。」
昴は慌てて否定したが、目線はどこか泳いでいる。
「本当?じゃあ、どうしてそんなに焦ってるの?」
綾乃が鋭く問い詰めると、昴は観念したように深いため息をついた。
「だってさ、もし本当にひどいレビュー通りだったら、綾乃さんががっかりするだろ?それに……母さんに迷惑がかかるかもしれないし。」
昴の心配そうな表情を見て、綾乃は少し考え込んだ。そして、意を決したようにこう言った。
「じゃあさ、実際に行ってみようよ。」
「えっ……?」
突然の提案に、昴は固まった。
「気になるのは事実だし、行ってみればわかるでしょ?もし本当に違ったら、その時は私、ちゃんとレビューにこう書くよ。『デタラメな口コミに惑わされないで!素敵なお店でした』ってね。」
綾乃は少し笑みを浮かべながら続けた。
「でも逆に、もし本当に口コミ通りだったら……私、正直に書くからね?『口コミは正しかったです』って。」
「そ、それは……!」
昴はさらに焦ったが、綾乃の目は本気だった。
「でたらめな口コミが許せないだけだから。いいお店なら、しっかりと応援したいしね。」
綾乃は真剣な表情でそう言った。
昴はしばらく悩んだが、やがて観念したように肩をすくめた。
「わかった……でも、行ってみて何かあったら、俺が全力でフォローするから!」
「ふふ、頼もしいじゃん。でも、フォローなんていらないくらい素敵なお店だといいね!」
綾乃はそう言ってニッコリと微笑んだ。
その笑顔を見た昴は、少しだけ安心すると同時に、「本当に母さんのお店がそんな酷い評価通りだったらどうしよう……」と、胸の奥で不安を感じていた。
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良ければこちらもご覧ください。
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