第50話 新しい交流
夏休み初日の朝、昴はベッドの中でスマートフォンの振動音を聞いた。目を閉じたまま手を伸ばし、机の上に置いたスマホを手に取る。
「ん…誰だろう」
まどろみながら画面を確認すると、見覚えのないメッセージ通知が目に入った。
「明日、遊びに行かない?」
送り主は桜庭綾乃。以前、優翔たちと遊びに行った際に知り合った他校の女子だ。昴は突然の誘いに少し驚きつつ、メッセージを開いた。
「えっと…桜庭さん、だよな」
少し間を置いて名前を確認する昴。正直、何を話していいのか迷ったが、せっかくの誘いを無下にするのも気が引けた。
「明日、か…どうしよう」
昴は少しだけ悩んだ。もともと人付き合いが得意ではなく、女子と遊ぶのもかなり稀なことだ。だが、彼女の明るい笑顔を思い出し、せっかく誘ってもらったんだしと思い切ることにした。
「うん、いいよ。どこで遊ぶ?」
そう返信を送ると、すぐに綾乃から返事が来た。
「ボウリングとかカフェとかどうかな?久しぶりに身体を動かして、そのあとゆっくり話したいなーって!」
提案された内容を見て、昴はちょっとだけ緊張した。ボウリングなんて何年ぶりだろう、という不安と、女子と二人きりで遊ぶという状況に少し戸惑ったのだ。
「ボウリングか…最近やってないけど、大丈夫かな」
心配しつつも、「楽しそうだね」と返信し、予定を確認した。
翌朝、昴は約束の時間に向けて準備を始めた。普段はあまり気にしない服装も、今日は少し考えてシンプルなシャツとジーンズを選ぶ。
「うーん、これでいいかな」
鏡の前で軽く髪を整え、家を出た。
待ち合わせ場所は駅前。到着すると、すでに綾乃が待っていた。
「あ、昴くん!」
綾乃が手を振りながら駆け寄ってくる。白いワンピースに夏らしいストローハットを被った姿は、爽やかでどこか華やかだった。
「お待たせ」
昴は少しぎこちなく返事をしながら、彼女の笑顔につられて自然と微笑んだ。
「ううん、私も今来たばっかり!」と綾乃は言い、早速今日の予定を確認する。
「まずはボウリング場に行こう!久しぶりだから、私も腕が鈍ってるかも!」
昴は「じゃあ、同じくらいかもしれないね」と苦笑いを浮かべた。
二人は駅からボウリング場に向かって歩いていた。夏の日差しがじりじりと照りつける中、昴は少し早歩き気味の綾乃の後ろを追うように進んでいた。
「そういえば、昴くんってボウリング得意?」
振り返りざまに綾乃が聞いてきた。
昴は少し戸惑いながら答える。
「いや、全然得意じゃないよ。むしろ苦手かな……」
正直に告げると、綾乃は軽く吹き出した。
「そっか、意外!なんか真面目そうだから、ちゃんと練習して上手いのかと思った」
「真面目そう……か。いや、そんなことはないよ。こういうの、あんまりやる機会がなくてさ」
「ふーん。でも、苦手でも一緒に楽しめたらそれでいいんじゃない?」
綾乃の明るい返答に、昴は肩の力が抜けた。
「綾乃さんはどうなの?得意そうだけど」
「あたし?んー、まあ普通かな。でも、今日は楽しむのが目的だからね!」
そう言って笑う綾乃を見て、昴は自然とリラックスできた。彼女の屈託のない笑顔に、どこか引き込まれるような気がした。
歩きながら、二人は軽い会話を続けた。
「そういえば、ボウリング場って久しぶり?」
「うん、たぶん……中学生の時に家族で行ったのが最後かも」
「えー、じゃあ本当に久しぶりだね。それにしても、家族でボウリングなんて仲いいんだね」
「まあ、そういう時期もあったって感じかな」
昴は少し照れくさそうに笑った。
「でも、久々にやるなら絶対面白いよ。今日は私が昴くんにボウリングの楽しさを教えてあげるね!」
綾乃の言葉に、昴は「よろしく頼むよ」と少しぎこちなく返した。
ボウリング場に到着すると、空調の効いた涼しい空間が二人を出迎えた。平日の昼間ということもあって、場内はそれほど混んでいない。受付でシューズを借り、指定されたレーンに向かう。
「さて、じゃあまずは私から!」
綾乃は元気よくボールを手に取り、レーンへと向かった。
「フォームが大事だよね~」と軽く足を踏み鳴らしながら構える。昴はその姿を後ろから眺めていたが、彼女の軽快な動きに「なんだか普通どころじゃなく上手そうだな」と内心思っていた。
綾乃が放ったボールはレーンを一直線に転がり、ピンに勢いよく命中した。見事にストライクだ。
「やったー!」
綾乃はガッツポーズをして振り返る。
「すごいな、最初からストライクなんて」と昴が素直に感心すると、綾乃は「ふふん、これくらいは普通だよ!」と胸を張った。
「じゃあ次は昴くんの番ね!」
促されるままに、昴はボールを手に取る。
「えっと……こう持って、こう構えて……」
ぎこちない動きでフォームを取る昴。綾乃は後ろから「もっとリラックスしていいよ!」とアドバイスする。
昴は言われた通りに深呼吸し、ボールを勢いよく投げた。だが、ボールはレーンの端に転がり、そのままガターに消えた。
「えっ、あっ……」
昴は肩を落とす。後ろから見ていた綾乃は「大丈夫、次はきっと上手くいくよ!」と励ました。
しかし、その後も昴の投球はガターの連続。しまいには投げたボールが隣のレーンに飛び込んでしまうという大失態を犯した。
「あちゃー……」
昴が頭を抱えると、綾乃は腹を抱えて笑い出した。
「昴くん、面白すぎる!こんなに笑ったの久しぶりだよ!」
「いや、笑われるためにやってるわけじゃないんだけど……」
昴は苦笑いしながらも、綾乃が楽しそうにしているのを見て、なんとなく悪くない気分になった。
ゲームが進むにつれて、綾乃はコツを教えようと手取り足取りで指導してくれた。
「ほら、ここで少し膝を曲げて……そうそう!」
「なんか、これで上手くいく気がしてきた」
綾乃のアドバイス通りにフォームを修正し、昴はボールを投げた。今回は辛うじてピンに当たり、2本だけ倒れる結果に。
「やった、当たった!」
昴が小さくガッツポーズをすると、綾乃は「やればできるじゃん!」と拍手してくれた。
「これも綾乃さんのおかげだね」
そう言われて、綾乃は少し照れたように「もっと褒めてもいいよ」と冗談を返した。
最終的なスコアは、綾乃が大差で勝利。だが、二人とも満面の笑みで結果を受け入れた。
「結果よりも楽しかったよね」と綾乃が言うと、昴も「うん、すごく楽しかった」と頷いた。
二人の楽しげな雰囲気の中、ボウリング場を後にした。
ボウリング場を出ると、昼下がりの日差しがさらに強くなっていた。昴と綾乃は駅前に向かう道を並んで歩きながら、さっきのゲームについて話していた。
「それにしても昴くん、隣のレーンに投げるなんて初めて見たよ!」
綾乃はまだ笑いが止まらないようで、肩を震わせながら言った。
「いや、あれは本当に申し訳なかった。あっちの人たちもびっくりしてたし……」
昴は顔を赤くしながら頭をかく。
「でも、楽しかったよ!昴くんって本当におもしろいんだね」
「褒められてるのか、笑われてるのか分からないけど……まあ、楽しんでもらえたならよかった」
昴は苦笑いを浮かべつつも、綾乃の楽しそうな表情に少し安心していた。
「そういえば、ボウリングって結構体力使うよね」
綾乃がふと漏らした。
「そうだね、意外と疲れる。もう少し練習すれば、もうちょっとマシなプレイができるかもな」
「お、次の練習宣言?じゃあまた一緒にやろうよ!今度はもっと勝負らしく!」
綾乃の言葉に、昴は「また誘ってくれるなら」と返した。
二人の間に自然な笑顔が広がり、次の目的地へと向かっていった――。
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良ければこちらもご覧ください。
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