第48話 妄想するのは自由 -雷央視点-

 雷央は父親の書斎に足を踏み入れた。古い木の机に広げられた書類を軽く無視し、ソファでくつろいでいる父親に向かって話しかける。


「なあ親父、ちょっと頼みがあるんだけどさ」


 父親は新聞を手にしながら、「なんだ? またくだらないことか?」と顔も上げずに答える。


「くだらなくなんかないって。クラスのみんなで海に行くんだけど、宿泊施設、いい感じのところ押さえてほしいんだよな~」


 雷央は笑顔を浮かべながら父親の前に座る。


「海か……まあ、お前もたまには外で遊ぶのも悪くないか。どんな場所がいいんだ?」


 父親の言葉に、雷央はすかさず詳細を語る。


「プライベートビーチが近くて、ちょっとおしゃれな感じの宿がいいんだよな。まあ、予算は親父の方で頼むけど」


 父親はため息をつきながらも、「ほらよ、知り合いがやってるリゾート施設だ。空いてるかどうかは確認してみる」とメモを手渡す。


 雷央はそのメモを受け取り、「おっ、さすが親父! これで俺の夏休み、完璧だわ」と満足げに頷いた。



 数日後、雷央は友人たちとその宿泊施設について話していた。スマホの画面を見せながら、興奮気味に語る。


「見ろよ、この宿。屋外プールもあって、海まで歩いてすぐなんだぜ! 俺たちだけのプライベート感、最高だろ?」


 友人の一人が「お前、どんだけ気合入れてんだよ」と半ば呆れたように言うが、雷央は全く気にしない。


「まあ、ここまで準備するのがリーダーってもんだろ? それに……」


 雷央は口元を緩め、頭の中で勝手なイメージを膨らませる。

 ――夜のプールサイドでムード満点の照明が灯り、女子たちが楽しそうに笑っている。その中で特別扱いされる自分、そして花音が隣に座り、視線を向けてくる。

「雷央くん、すごいね。こんな素敵な場所、どうやって見つけたの?」


 彼女の甘い声を想像して、雷央は「いやー、まあね」と謎の照れ笑いを浮かべて現実に戻る。


「なんだその顔、気持ち悪いな!」と友人たちに突っ込まれるが、雷央は胸を張って言った。

「いいから、当日を楽しみにしとけって。俺が完璧に仕切ってやるからよ!」


 波乱の予感を漂わせながら、雷央は計画を進めるのだった。



 雷央は地元のショッピングモールを歩きながら、ニヤリと笑みを浮かべていた。頭の中では、海での計画が着々と進んでいる。


「次は、ちょっとした仕掛けだよな。やっぱり女子が喜ぶものっていえば……甘いものだろ!」


 目当てのスイーツショップに足を踏み入れると、店内は高級感のあるディスプレイに彩られており、特におしゃれなパッケージのチョコレートが目を引く。


「いらっしゃいませ!」

 明るい声で迎える店員に、雷央はさっそく話しかけた。

「ちょっと聞きたいんだけどさ、女性にプレゼントしたいんだけど、一番人気のチョコってどれ?」


 店員は笑顔を浮かべながら、ガラスケースの中を指差す。


「こちらのアルコール入りのチョコレートはいかがでしょう? 少しお酒が効いた大人の味わいで、女性にもとても人気がありますよ。」


 雷央はその言葉にすぐさま食いついた。

「おお、いいね。なんか洒落てる感じだし、雰囲気も出そうだな。よし、それ、ください!」


 店員が商品を丁寧に袋に詰めている間、雷央は袋を眺めながら、独り言をつぶやいた。

「これくらい大人っぽいの用意しておけば、女子もグッとくるだろ。それに……ちょっと酔わせて、雰囲気を作るってやつだな。いや~、俺ってマジで策士!」


 商品を受け取り、店を出た雷央は歩きながら、さらに妄想を膨らませる。

 ――夜、女子たちが「このチョコおいしい~!」「なんだかちょっと酔っちゃったかも……」なんて言いながら、ふらついて自分に寄りかかってくる光景を想像する。

「おいおい、ハーレムじゃねえか! 俺、モテすぎて困っちゃうな~」


 雷央は想像の中で一人勝手に盛り上がり、不敵な笑みを浮かべた。

「これで完璧だな。あとは当日を待つだけだ……!」


 波乱の計画を進めながら、雷央の夏休みは着々と「準備」を整えつつあった。



 雷央はアルコール入りチョコの袋を手に持ちながら、ベッドに横になり天井を見つめていた。手元のチョコを一つ取り出して見つめると、不敵な笑みを浮かべる。


「これさえあれば、完璧だろ……。さあ、どんな展開になるか、イメトレしておくか!」



 プールサイド、眩しい日差しの下で花音がパラソルの下に座っている。

「花音~、これ食べてみなよ。すっげーうまいからさ!」と、雷央が爽やかな笑みを浮かべながらチョコを差し出す。


 花音は最初、「え、でもこれお酒入ってるの?」と戸惑うものの、雷央に促されて一口かじる。

「ん……おいしい! あ、でも……なんか体がふわふわするような……」

 そう言いながら、花音は頬を赤らめて目を伏せる。


 雷央は心の中でガッツポーズを取りつつ、「大丈夫、大丈夫! ちょっとリラックスするだけだからさ」と声をかける。そして、ほんのりと頬を染めた花音の顔を眺めながら――

「いやー、花音のこの表情、マジで反則だろ! もっと近くで見てえな……」



 一方、茉莉亜はプールサイドで元気よく泳ぎ終わった後に登場する。

「茉莉亜~、これ食べてみ! 疲れた体には甘いものが一番だからな!」と雷央がまたもやチョコを差し出す。


 茉莉亜は疑いもせずパクっと一つ食べ、「これおいしい~!」と笑顔を見せる。その後、少ししてから「なんかポカポカしてきた! これ、お酒入ってる?」と驚きながらも、テンション高く雷央に近づいてくる。


「ねえねえ、雷央くんも一緒に食べようよ!」と顔を寄せてきた茉莉亜に、雷央は内心大興奮。

「これ、最高じゃん! こんな近距離で笑顔見せられたら、そりゃもう……」と妄想はどんどん膨らんでいく。



 そして、冷静そうな千春の姿も頭に浮かぶ。雷央は、クールな彼女にどうアプローチするか考えつつ妄想を展開する。

「千春、これなかなかイケるんだよ。まあ、試しに一個食べてみ?」とチョコを差し出すと、千春は少し眉をひそめながらも、「意外とこういうの好きなのよね」と一口食べる。


「うん……これ、意外といけるわね」と冷静に感想を述べた千春だが、ふと頬が少し赤らむ。「……なんか、体があったかくなってきた気がするけど?」

 そのギャップのある表情を想像しながら、雷央は思わず顔が緩む。

「これだよ、これ! 冷静な千春がちょっと照れるとか、ギャップ萌えってやつじゃん! 完全にポイント稼げるわ!」



 現実に戻った雷央は、妄想で気分が最高潮に達していた。

「いやー、俺の計画、隙がねえな!」

 手元のチョコを握りしめ、不敵な笑みを浮かべる。


「これで女子たちのハートを全部かっさらってやるぜ……ふふふ、夏は俺のものだ!」


 波乱の予感を漂わせながら、雷央の野望は着実に膨らみ続ける。

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