第47話 2人のお買い物 ー茉莉亜&千春視点ー

ショッピングモールの入り口で、茉莉亜は腕を組みながらキョロキョロと辺りを見渡していた。


「もう、千春遅いな~。早くしないといい水着なくなっちゃう!」


苛立ちというよりは、楽しみで待ちきれないといった様子で、茉莉亜は小さく足踏みをする。


その時、少し離れた場所から手を振る千春の姿が見えた。


「ごめん、待った?」と近づいてくる千春に、茉莉亜は頬を膨らませて言う。


「待った待った! だって、今日の目的わかってるでしょ? 水着だよ、水着!」


千春は少し疲れた顔で「はいはい、わかってるわよ」と応じながらも、「そんなに張り切らなくても」とぼそっと付け加えた。


茉莉亜はその言葉に一瞬だけむっとしたが、すぐにニコッと笑顔を浮かべると、いたずらっぽい声でこう言った。


「だって、昴くんも来るんだよ?」


その言葉を聞いた瞬間、千春はぴたりと足を止めた。


「……そっか」


短く返事をした千春は少し視線を落とし、そのままそっぽを向く。


茉莉亜はその反応を見逃さず、くすっと笑いながら続ける。


「ほら、千春も昴くんのことちょっと意識してるでしょ?」


千春はすぐさま振り返り、真顔で言い返す。


「別にそんなことないけど。何言ってんの?」


だが、その耳がうっすら赤くなっていることに茉莉亜は気づいていた。


「ふーん、ほんとかな~?」と軽くからかいながら、茉莉亜はショッピングモールの中へと足を進める。


「とにかく、私は絶対かわいい水着を見つけるんだから! 千春も真剣に探してよね!」


千春は「はいはい」と苦笑いを浮かべながら、茉莉亜の後を追った。

心の中では、少しだけ引っかかるものを感じながらも。



店内に入ると、色とりどりの水着が壁一面に並び、茉莉亜の目が一気に輝いた。


「うわぁ、かわいいのがいっぱい!どれにしようかな~!」


茉莉亜はテンション高めに次々と水着を手に取り、鏡の前で合わせてみる。


「これもかわいいけど、ちょっと子どもっぽいかな……」と首をかしげながら、リボンのついたピンクの水着を手にする。


次にフリルのついたライトブルーの水着を見て、「うーん、これは清楚すぎるかな? でも、昴くんにはこういう方がウケる?」とつぶやく。


その隣で千春は、棚に寄りかかりながら腕を組み、クスッと笑う。


「ふふっ、ほんと昴くんのこと意識しすぎじゃない?」


その言葉に茉莉亜は一瞬動きを止め、顔を赤くして振り返る。


「だ、だって! 昴くんにはかわいいって思われたいんだもん!」


その言葉を堂々と言い放つ茉莉亜に、千春は少し驚いた表情を見せる。


「意外と大胆なのね」と笑いながら言う千春に、茉莉亜は「だってそうじゃない?」と胸を張る。


「かわいい水着を着て、昴くんに『似合うね』とか『かわいい』って言われたら、めちゃくちゃうれしいじゃん!」



そう言いながら、茉莉亜は自然と妄想の世界に突入していた。


茉莉亜は明るい海辺をイメージした。


「昴くーん! 見て見て、この水着!」と走り寄ると、昴が驚いた顔をしながらも柔らかく笑い、「すごく似合ってるよ、茉莉亜」と優しく声をかける。


海辺の風がふたりの間を吹き抜ける中、昴が少し照れた様子で「実は……ずっと茉莉亜のこと、かわいいって思ってたんだ」と言ってくれる。

「え、本当に?」と驚く茉莉亜に、昴は真剣な目で「うん、だから今日は伝えたかった」と言い、ふたりの距離が急接近――。



「おーい、茉莉亜?」


千春の声で現実に引き戻され、茉莉亜は「あ、えっと……何でもない!」と慌てて首を振る。


「もしかして、今昴くんとの妄想してた?」と千春が冷静に指摘すると、茉莉亜はさらに顔を赤くして「ち、違うよ!」と全力で否定する。


千春は「まあ、いいけど」と笑いながら、「でも、これなんかどう? 昴くんのこと考えるなら、ちょっと大人っぽい方がいいんじゃない?」と、別の水着を茉莉亜に手渡した。


茉莉亜はそれを見て、目を輝かせる。


「うん、これめっちゃかわいいかも!」


再びテンションが上がる茉莉亜に、千春は小さくため息をつきつつも、少し楽しそうな表情で水着選びに付き合うのだった。


店内を歩き回っていた茉莉亜の足がふと止まる。

視線の先には、白地に小花柄が散りばめられたオフショルダータイプの水着があった。


「これ、かわいい!」


茉莉亜はすぐにその水着を手に取り、鏡の前で当ててみる。


「肩が見える感じがちょっと大人っぽいよね? 千春、どう思う?」


興奮した様子で千春に尋ねる茉莉亜。


千春は少し歩み寄って水着をじっくりと見たあと、軽く頷いた。


「確かに、茉莉亜には似合いそうね。派手すぎないし、上品な感じがいいんじゃない?」


その言葉に、茉莉亜は満面の笑みを浮かべる。


「よし、これに決定!」と言って、水着をしっかりと抱きしめた。


「昴くん、絶対かわいいって言ってくれるよね!」と、期待に胸を膨らませながら笑う茉莉亜。


それを聞いた千春は、呆れたように肩をすくめながらも笑みをこぼす。


「ほんとポジティブね。でも、まあ、そのくらいの方が楽しそうでいいわ」


「でしょ?」と得意げな顔をする茉莉亜。


「さて、次は千春の番だよ! どんな水着にするのか楽しみ~!」と言いながら、千春の腕を引いて新しい水着棚へと向かっていくのだった。


茉莉亜に急かされるようにして、水着棚の前に立つ千春。


「どんなのがいいかな~」とつぶやきながら目を滑らせていると、黒のビキニが目に留まる。


それはシンプルなデザインながら、リルニット(フリルのついた小さなニット素材の装飾)があしらわれており、ほんの少し可愛らしいアクセントが効いている。


「これ、どうかな……?」と手に取った千春に、すかさず茉莉亜が反応する。


「おお、千春、ちょっと攻めてる感じじゃない?」と、にやりと笑いながらからかう。


千春は一瞬目を見開き、「別にそういうつもりじゃないし!」と慌てて言い返す。

しかし、再び水着をじっと見つめると、「でもシンプルだし、大人っぽくて……これにしようかな」と、小さな声でつぶやいた。


茉莉亜はその様子を見て、にやにやしながら「ふーん、大人っぽい千春……昴くんもドキッとしちゃうんじゃない?」と冗談を飛ばす。


「もう、余計なこと言わないで!」千春は顔を少し赤くしながらも、茉莉亜の肩を軽く小突いた。


茉莉亜は「痛っ、ごめんごめん!」と笑いながらも、さらにからかうような視線を千春に向ける。


「でも、似合うと思うよ、千春。その黒の水着、大人っぽくてかっこいい!」と、茉莉亜が最後に素直に言うと、千春は少し照れくさそうに「そ、そうかな……」と水着を抱きしめた。


二人はその後も少し雑談しながら、それぞれの水着を手に取り、レジへと向かった。

夏の海、そして昴たちと過ごす時間を思い浮かべながら、二人の期待は膨らむばかりだった。


買い物を終えた茉莉亜と千春は、モール内のカフェに立ち寄った。テーブルに座り、茉莉亜が頼んだアイスカフェラテと千春のホットティーが運ばれてくる。


茉莉亜はスプーンでカフェラテの上のクリームをすくいながら、「海、絶対楽しいよね!」と目を輝かせて言った。


「みんなで遊びに行くなんて、なんか修学旅行みたいじゃない?」


千春はその言葉に軽く笑いながらも、「……まあ、楽しそうだけどさ」と少し控えめに返す。そして、ふと視線をカップに落とし、「でも、雷央がまた何かしないといいけど……」とつぶやいた。


茉莉亜は一瞬考え込んだように見えたが、すぐに明るく笑いながら「まあまあ、そういうのも含めて楽しもうよ!」と返す。


「千春がいれば、何かあったときもきっと頼りになるし!」と肩をポンと叩いた。


千春は小さく溜息をつきながら、「頼りになるって……また面倒ごと押し付けられる気がする」と苦笑するが、その表情はどこか穏やかだった。


茉莉亜はストローをくるくる回しながら、少し悪戯っぽい笑顔を浮かべる。

「そういえばさ、千春も昴くんのこと、少しは意識してるんじゃない?」と、突然切り出す。


千春はその言葉に思わず顔を上げ、「……別に!」とムッとした顔で返す。


「なんでそうなるのよ。茉莉亜こそ、昴くんのことばっかりじゃない!」と、そっぽを向きながら少し赤くなった顔を隠そうとする。


茉莉亜は「うわ~、話そらした!」と笑いながら茶化し、千春も「もう、いい加減にしなさいよ!」とぷいっとしながらも、つい笑みをこぼす。


カフェには二人の笑い声が響き、次第に和やかな空気に包まれていく。

夏の海への期待と、ちょっとした胸の内を抱えながら、二人の楽しい時間はあっという間に過ぎていった。



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 良ければこちらもご覧ください。

 ・直さんは冷静な顔で、俺を殺しに来る

 https://kakuyomu.jp/works/16818093090481722534


 ・ハリネズミ女子飼育日記:僕と彼女の365日間

 https://kakuyomu.jp/works/16818093090591046846


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