第46話 夏休みは波乱の予感

放課後の教室。期末試験の結果が掲示され、昴たちは自分の成績を確認して戻ってきたところだった。


「やったー! ギリギリだけど追試は回避!」


優翔が答案を机に叩きつけ、大げさなガッツポーズを見せる。


「ほんとにギリギリだな。」


昴が苦笑いしながら答えると、千春はため息をつきながら、「呆れるほど優翔君らしいわね」と冷たく言い放った。


一方で、茉莉亜は笑顔を浮かべながら、「でも、頑張ったじゃん!」と明るく声をかけた。


優翔は千春に向き直り、深々と頭を下げた。「千春、本当にありがとう! おかげで何とか追試を免れた!」


千春は腕を組み、少し険しい表情で言い返す。

「なんであれだけ教えてギリギリなのよ。私、こんなに人に教えたの初めてだったんだけど?」


「うっ……それは、なんというか……俺のポテンシャル不足ってことで!」


優翔が苦笑いしながら答えると、千春は一瞬呆れた顔をした後、小さく笑ってつぶやいた。


「まあ、免れたならいいけどね。でも次はもう少し自分で何とかしなさいよ」


「次はちゃんとやるって! 本当に感謝してるよ、千春!」


真剣な顔で感謝を伝える優翔に、千春はほんの少し照れくさそうに視線をそらした。


そんな中、茉莉亜が昴をじっと見つめていた。「ねえ、昴君。今回の試験、どうだったの?」


昴は「まあ、合格点以上は取れたよ」と淡々と答える。


その瞬間、茉莉亜は頬を膨らませてふくれっ面になる。「ちょっとぉ! 今回、全然私に頼ってくれなかったじゃん!」


「え、別に……」と戸惑う昴に、茉莉亜はさらに言葉を重ねる。「前回は頼ってくれたのに、どうしたの?」


昴は少し目をそらしながら答えた。「いや、茉莉亜さんにはいつも頼ってばっかりだったから。今回は自分の力でやってみようと思っただけだよ」


その言葉に茉莉亜は一瞬驚いたような顔を見せたが、すぐに笑顔に戻る。


「もう、昴くんらしい理由だけど、次回はちゃんと頼ってよね!」


「まあ、そのときは考えるよ」


そう言って肩をすくめる昴に、茉莉亜は「あー、もしかして私のこと信用してないの?」とおどけてみせる。


「そんなことはないよ」と軽く笑い返す昴。2人のやり取りに優翔と千春もくすくすと笑っていた。



少し空気が和んだところで、優翔が机を叩いて声を上げた。


「よし! 試験も終わったし、次は夏休みだな!」


茉莉亜がすぐに反応する。「そうだね! やっぱり海とか行きたいよね!」


「海ね……確かに夏っぽいけど、計画とかちゃんと考えないと面倒くさくない」


千春が少し面倒そうに言うと、優翔が勢いよく答える。


「計画は俺たちで何とかするって! みんなでどこか遊びに行きたいよな?」


ちょうどその時、颯太と蓮が教室に入ってきた。颯太が声を弾ませながら、「お、なんだなんだ? 何の話してんの?」と尋ねる。


「夏休みの話してたんだよ」と優翔が答えると、颯太は目を輝かせて「それなら決まりだろ、海だ海!」とすぐに提案した。


蓮も「いいじゃん、海。みんなで行けば楽しいに決まってるし」と乗り気だ。


茉莉亜が「いいわね~! 水着も新しいの買わないと!」と嬉しそうに言うと、颯太が冗談交じりに「おー、茉莉亜の水着姿、楽しみだな~」とからかう。


「颯太くん、調子に乗りすぎ!」


茉莉亜が軽く拳を振り上げると、颯太は「冗談だって!」と笑いながら避ける。


その場が賑やかになる中、教室の後ろから雷央が現れた。


「お前ら、楽しそうな話してんな」


不意に入ってきた雷央に、男子たちは少し緊張した様子で振り返る。


「夏休みに海行くんだって?」


雷央が話に加わると、颯太が「そうだけど、雷央も来るか?」と何気なく声をかけた。


雷央はニヤリと笑いながら答える。「そりゃ当然だろ。クラス全員誘ったほうが盛り上がるじゃねえか?」


その提案に一瞬、優翔たちは顔を見合わせたが、雷央の言葉を近くで聞いていた藤田美咲が嬉しそうに声を上げた。


「いいじゃない! みんなで行ったら絶対楽しいと思うよ!」


その声に反応するように、花音も美咲の隣で笑顔を見せながら言葉を重ねる。


「うん、雷央くんが仕切るなら、きっと盛り上がるよね! いつもみんなを引っ張ってくれてるし」


花音の発言に、雷央は得意げに肩をすくめながら笑い、「だろ? 俺に任せとけば間違いないって」とさらに自信満々な態度を見せた。


颯太が「そこまで言うなら頼むぜ!」と軽いノリで返すと、蓮も「確かに、みんなで行くほうが楽しそうだよな」と肯定する。


優翔は美咲と花音の発言に若干引っかかりながらも、「まあ……そうだな。クラス全員で行くのも悪くないかも」と渋々同意した。


一方で、千春は少し眉をひそめながら「……本当に大丈夫なの?」とぼそりとつぶやき、昴も控えめに「うーん、問題が起きなければいいけどな」と呟いた。


しかし、その場の勢いに流されるように、夏休みのクラスイベントは雷央主導で進むことが決まった。


優翔は机に手をついて力強く言った。「よし、せっかくの夏休みだし、みんなで最高の思い出作ろうぜ!」


その言葉に茉莉亜が「うん!」と笑顔で答え、颯太と蓮も「もちろんだ!」と拳を合わせた。


美咲が「みんなで行くなんて、絶対楽しいに決まってる!」と笑顔で話すと、花音も「うん、そうだよね。雷央くんが計画をまとめてくれるなら安心だし!」と再び雷央を褒める言葉を投げかける。


雷央は満足げに腕を組み、「全員に声かけるのは俺に任せとけ」と言い残しながら教室を出ていった。


去っていく雷央を見送りながら、千春がぽつりとつぶやく。「……なんか、また余計なことしそうな気がするんだけど」


昴はその言葉に頷き、「まあ、トラブルにならなければいいけどな」と少し不安そうに言う。


颯太はそんな空気を払拭するかのように「お前ら考えすぎだって! 海に行けば何もかも楽しいんだよ!」と笑い飛ばした。


優翔が改めて声を上げた。「よし! とりあえず、日程とか計画を決めるのは雷央に任せて、俺たちも準備しようぜ!」

茉莉亜も「うん、じゃあ水着見に行かなきゃ! 千春、一緒に選びに行こうよ!」と声を弾ませ、千春は少し困った顔をしながらも「仕方ないわね……」とつぶやいた。


こうして、波乱の予感を抱えながらも、夏休みの楽しい思い出に向けた第一歩が踏み出されたのだった。



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 良ければこちらもご覧ください。

 ・直さんは冷静な顔で、俺を殺しに来る

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