第33話 罪の重さ ー雷央&花音視点ー
雷央は、GW前に学校で優翔たちが楽しそうに話しているのを思い出し、無意識に拳を握りしめていた。
「他校の女子と遊びに行くだと?」
その話題が頭から離れない。
(なんで俺は参加できねえんだよ……俺だって楽しめるし、女の子にだってウケるだろ。)
優翔や蓮、颯太の笑顔を思い出すたび、胸の奥にモヤモヤした怒りが込み上げてくる。
(ましてや、あの陰キャのもやし野郎の方がいいだと…。許せねえ。)
その苛立ちを抱えたまま、雷央は花音に会うため、彼女の家へと向かった。
玄関先で花音が出迎えたとき、雷央はいつもより強い口調で「部屋、行っていいか?」と尋ねる。
花音は一瞬だけ戸惑ったものの、「うん、どうぞ」と雷央を部屋に通した。
部屋に入ると、雷央は無言のまま花音を壁際へ追い詰めるように近づいた。
「雷央……?」
花音の声が不安げに揺れるが、雷央はその声すら聞こえていないかのように、彼女を抱きしめた。
力強く、そしてどこか乱暴なその抱擁に、花音は驚きつつも雷央の背中に手を回した。
「何かあったの?」と小声で尋ねる花音に、雷央は答えず、ただその想いをぶつけるように彼女を抱き続け、ベッドに強引に押し倒した。
その激しさに最初は戸惑った花音だったが、やがて彼女の目にはほんのりとした喜びの色が浮かび始める。
(雷央って、こういうところ……嫌いじゃない。)
雷央は花音の耳元で低く「お前だけが、俺の味方だよな」と呟き、そのまま激しさを増していった。
花音は少し息を呑みながらも、その言葉に応えるように彼の腕の中で微笑んだ。
雷央は、ベッドに横たわったまま腕を頭の後ろに組み、天井を見上げていた。部屋には静寂が漂い、花音はそっとシーツを引き寄せて体を覆いながら口を開く。
「今日はどうしたの?すごく激しかったね。私…激しいのも好きかもだけど…」
「なんか花音をめちゃくちゃにしたくなったんだよ。花音もまんざらでもないならいいじゃねえか」
「そうだけど…。もう、しょうがないわね」
と話すと花音は甘えるように雷央にすり寄る。
「腹減ったし、飯食いに行こうぜ。」
花音はその言葉に少し驚き、彼の顔を見た。
「え?今から?」
「ああ。近くに気になってるカフェがあるんだよ。なんだっけな……あ、カフェ プレアデスだ。結構評判いいらしいし、行ってみたいんだよな。」
雷央が無邪気に言うと、花音の顔に一瞬迷いの表情が浮かんだ。「カフェ プレアデス……」と彼女は小さく呟いた。
それは昴の母親、澪が経営している店だった。花音は以前は頻繁に通っていた。しかし、昴との関係が壊れて以来、微妙な距離感を感じて足が遠のいていた場所だ。
「どうした?行きたくないのか?」雷央が少し不機嫌そうに眉をひそめる。
「いや、そんなことないけど……」花音は一瞬言葉を詰まらせた。だが、それを振り払うように頭を振った。「うん、大丈夫。行こう。」
彼女は無理やり笑顔を作り、気にしていないふりをした。雷央はそれを特に気にすることもなく「よし、決まり!」と立ち上がり、服を着始めた。
花音は内心で不安を抱えながらも、雷央についていくことを決意した。彼女の中では、「もう過去のことだし、大丈夫だよね……」という淡い期待があった。
カフェ プレアデスは、温かい木目調の内装と柔らかな照明が特徴の落ち着いた雰囲気の店だった。休日ということもあり、店内には心地よい音楽とお客さんたちの楽しそうな笑い声が混ざり合っていた。
雷央と花音が店内に入ると、入口近くのレジカウンターで忙しそうにしていた澪が顔を上げた。その瞬間、澪の表情が一瞬にして険しくなった。
花音はその視線を感じ、居心地の悪さに思わず立ち止まる。しかし、雷央はそれに気づくことなく堂々とカウンターへ向かい、「おい、この店いい感じじゃん。席空いてる?」と陽気に声をかけた。
澪は一度深く息を吸い、落ち着いた口調で言った。「申し訳ないけど……花音ちゃん、あなたにはこの店に来てほしくないの。」
その言葉に、雷央と花音の表情が一瞬にして凍りついた。雷央は「は?」と聞き返し、花音は澪の言葉の意味を噛み締めるように目を伏せた。
「どういうことだよ。俺たちは客だぞ?」雷央は苛立ちを露わにし、眉をひそめて澪を睨む。
澪は冷ややかな視線を保ちながらも、静かに言葉を続けた。「誰が、息子を傷つけた人を客としてもてなしたいと思うの?」
その一言が店内の空気を一気に張り詰めさせた。他の客たちが振り向き、小声で何かを話し始める。
花音はその場に立ち尽くし、何も言えなかった。澪の言葉は冷たく、しかし鋭い刃のように花音の胸に突き刺さった。
「おい、ふざけんなよ!」雷央は拳をテーブルに叩きつけるようにして声を荒げた。「そんな勝手な理由で追い出そうとするなんて、お前の店の評判下がるぞ!」
澪はその言葉にも微動だにせず、冷静な声で返した。「評判なんて気にしていないわ。この店は大事な人を守るための場所なの。だから、どうか出ていってちょうだい。」
雷央は歯を食いしばり、花音の腕を引っ張るようにして「行くぞ!」と声を荒げた。花音は何も言えないまま、引きずられるように店を出ていった。
雷央は引店を出る寸前、振り返って澪を睨みつけた。
「覚えてろよ!こんな店、うちの親父に言って潰してやるからな!」
店内に響いたその言葉は、客たちをさらにざわつかせた。
雷央は鼻を鳴らすようにしてドアを乱暴に押し開け、花音を引き連れて外へ出ていった。
澪はその捨て台詞にも冷静な表情を崩さず、背筋を伸ばして立ち尽くしていた。しかし、カウンター越しに握りしめた拳だけが彼女の静かな怒りを物語っていた。
客たちが心配そうに視線を向ける中、澪は一度深く息を吸い、表情を整えた。彼女の瞳は決意を秘めた光を帯びていたが、その奥には複雑な感情が渦巻いていた。
振り返らずに歩き去る二人の後ろ姿を見送りながら、澪は深く息を吐き、カウンターに手をついた。店内に再び流れ始めた音楽の中で、澪の表情には複雑な思いが浮かんでいた。
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良ければこちらもご覧ください。
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