第32話 挑戦と笑いの対戦パーク

 GW中の昼下がり、自室でぼんやりしていた昴のスマホが鳴る。画面を見ると、優翔からの電話だった。


「もしもし、優翔? どうしたの?」


 電話に出ると、優翔の明るい声が耳に飛び込んできた。


「おう、昴! 明日の予定覚えてるか?」


 突然の話に、昴は少し警戒しながら答える。


「明日? ああ、覚えてるよ。」


 すると優翔が少し興奮気味に話し始めた。


「実はな、対戦パークっていう面白いとこ見つけたんだよ! みんなで体動かして遊ぶのに最高だし、いい運動にもなる。で、しかもだ……」


 優翔が一呼吸置いて、含みを持たせる。


「他校の女子との遊びだからな!女子にいいところ見せるチャンスだぜ」


 唐突な話に、昴は明らかに動揺する。


「僕、そういうの得意じゃないし……」と遠回しに断ろうとするが、優翔は即座に返

 してきた。


「だからいいんだって!お前が得意とか関係ねえんだよ。ただ楽しく遊ぶだけだからさ!それにさ、こういうのも経験だろ?」


 さらに、「お前がいないと人数合わなくなるしさ、頼むよ!」と畳みかける優翔に押され、昴はしぶしぶ了承する。


「……わかったよ。でも、僕にできることあるかなあ。」


 電話を切ったあと、昴はベッドに倒れ込みながらぼそっと呟いた。


「運動って……大丈夫かな、僕。」


 少し不安と期待が入り混じった気持ちを抱えつつ、明日の予定に思いを巡らせる昴だった。



 GWの晴れた休日、昴は優翔、蓮、颯太と共に対戦パークに到着した。入り口から賑やかな声やアトラクションの音が響き、他校の女子たちも目を輝かせている。


「すごい!ここ、本当にテレビで見た感じそのままだね!」


 と女子の一人が声を上げ、颯太が「だろ?これが俺たちのセンス!」と得意げに返す。


 一方、昴は少し緊張した表情で周りを見渡していた。


(みんな盛り上がってるけど……僕、ついていけるかな。)


 優翔が昴の肩を軽く叩き、「おい、昴、そんな顔してんじゃねえよ!今日は思いっきり楽しむんだ!」と笑顔を向ける。


「……まあ、せっかくだしな。」昴は小さく頷き、少し気持ちを切り替える。


「最初は動物との競争からだな!」と優翔が声を張り上げる。


「動物って……何だよそれ。」と昴が疑問を口にすると、蓮がスマホの画面を見せながら説明する。


「映像のチーターやクマと50m走を競うんだってさ。速さを体感するやつらしい。」


「面白そうじゃん!」と颯太が大興奮し、女子たちも「走るだけなら、みんなで気軽にできそうだね」と賛成する。


 アクティビティエリアに移動し、全員で競争用のレーンに立つ。大型スクリーンにはリアルなCGの動物たちが映し出され、チーター、クマ、犬などの選択肢が並んでいた。


「まずはチーターに挑戦しようぜ!」と颯太が言い、全員一致で決定。


「じゃあ、俺からいくか!」と颯太が先陣を切ってスタート地点に立つ。画面上にカウントダウンが始まり、颯太が勢いよく走り出すが、チーターの圧倒的な速さに遠く引き離される。


「はっや!無理ゲーすぎる!」と颯太が笑いながらゴールすると、女子たちも「でもめっちゃ頑張ってたね!」と盛り上がる。


 次々とメンバーが挑戦する中、昴の順番が回ってきた。


「大丈夫か、昴?」と優翔がからかうように言うと、昴は「まあ、走るだけだしな……」とやや自信なさげに返す。


 カウントダウンが始まり、スタートの音と共に全力で走り出す昴。

 途中でチーターに大きく引き離されるも、画面の「犬」といい勝負になり、最終的には「犬」を僅かに追い抜いてゴール!


「おおーっ!」と全員が拍手し、「昴、犬には勝ったぞ!」と優翔が笑いながら肩を叩く。

 女子の一人が「すごい!昴くん、意外とやるじゃん!」と言うと、昴は少し照れくさそうに「たまたまだよ」と返しながらも、内心嬉しそうだった。


 対戦パークの次のアクティビティは「俊敏性テスト」。壁一面に並んだランプがランダムに点灯し、それを素早く叩いて消していくゲームだ。制限時間内にどれだけランプを消せるかで得点が決まり、参加者たちの間に一気に競争心が芽生える。


「これ、面白そうだな!俺、絶対トップ取るわ!」と颯太が自信満々に言うと、優翔も「いやいや、俺のほうが速いって!」と負けじと張り合う。

 一方、昴は壁を見上げて少し困ったような顔をしていた。


「こういうの、苦手なんだよな……手元狂いそうで。」


 それを聞いた蓮が肩を叩き、「大丈夫、昴もやれば意外といけるって!」と励ます。女子たちも「昴君、頑張って!」と声をかけてくれるが、昴は「いや、期待されると逆にプレッシャーが……」と苦笑い。


 順番が回ってきて、颯太と優翔が先に挑戦。それぞれ高得点を叩き出し、颯太は得意げに「どうだ!俺の瞬発力!」と叫ぶ。


「くっそ、次はもっと点数伸ばす!」と悔しがる優翔に、周りも盛り上がる。


 そして、ついに昴の番。

「じゃあ、いくぞ!スタート!」とスタッフが声をかけると、壁のランプがランダムに点灯し始めた。


 最初は少し戸惑い気味だった昴だが、すぐにコツを掴み、リズミカルにランプを叩いていく。


(これ……意外と楽しいかも。)


 集中するうちに、周りの声が消え、ただ目の前のランプだけに意識が向かう。


 そして、制限時間が終わり、スコアが表示されると――。

「は!?マジかよ!」と颯太が声を上げた。

「昴、俺より点数高いじゃん!」と優翔も驚いた顔で言う。


「え、ほんとに?」と昴が戸惑いながらスコアを確認すると、自分でも驚くような高得点が表示されていた。


「すげえじゃん、昴!」


「いや、これただの反射神経だって……」と昴は照れくさそうに答えるが、周りが一斉に「いやいや、それがすごいんだよ!」と盛り上がる。


 女子たちも「昴君、意外とすごいんだね!」と感心し、昴は内心嬉しさを感じながらも、「いや、みんな褒めすぎだって。」と謙虚に応じた。


(こんな風に褒められるの、悪くないな……。)


 対戦パークの体験型アトラクションも終盤に差し掛かり、グループは次のアクティビティへと移動していた。そこに待ち受けていたのは、全員参加型のエアランチャーゲーム。巨大な風船を特殊な銃型ランチャーで飛ばし合い、他のプレイヤーを狙うというシンプルなルールだった。


「これ、絶対面白いって!」と優翔が声を上げる。颯太も「こういうの、俺得意だから!」と自信満々。


 一方で、昴は風船を見上げながら首をかしげていた。


「これ……どれだけ当てられるかって話だよね?」


「そうそう!で、最後まで残った人が勝ち!」と説明する蓮。


「よーし、負けないよ!」と他校の女子たちも気合い十分。優翔が「おい、昴も気合入れろよ!」と肩を叩くと、昴は「いや、俺こういうの苦手だって……」と弱気な返事をする。


 しかし、その言葉とは裏腹に、昴の中には少しだけ闘志が湧き始めていた。


(ここであんまりダサい姿見せたくないしな……せめて、足を引っ張らないようにしないと。)


 ゲームのスタートが告げられると、参加者全員がエアランチャーを構え、風船を次々と飛ばし始めた。場内は風船が飛び交うポップな混乱状態。優翔は俊敏な動きで風船をかわしつつ狙いを定め、颯太は勢い任せに撃ちまくっていた。女子たちも「きゃー!」と楽しそうな声を上げながら走り回っている。


 そんな中、昴は少し遅れて風船を発射。しかし、狙いが定まらず、風船はあらぬ方向へ飛んでいった。


「あれ?」と首をかしげる昴。その直後、予想外の方向に飛んだ風船が壁に跳ね返り、真っ直ぐ昴の顔に向かって戻ってきた。


「うわっ!」と慌ててかわそうとするも、風船は見事に昴の頭に命中。そのまま後ろに尻もちをついてしまった。


「ぷっ……あはははは!」優翔が爆笑するのを皮切りに、蓮や颯太、女子たちも次々に笑い出す。


「昴くん、それ狙ってやったの?」


「いや、違うって!」昴は慌てて言い訳するが、自分でもおかしくなって思わず笑ってしまった。


 その後も、昴は妙にコミカルな動きを続ける。風船をかわそうとしてバランスを崩し、見事にひっくり返る。さらに、狙いを定めた風船がまたしても跳ね返り、今度は優翔の背中に命中。


「おい、昴!俺を狙うなって!」と優翔が突っ込むと、周りはさらに爆笑の渦に包まれた。


「昴くん、なんか面白すぎる!」と女子の一人が言い、別の女子も「こんなに笑ったの久しぶり!」と顔を赤くして笑っている。


「お前、それ絶対わざとだろ!」と優翔が言うと、昴は苦笑しながら「違うってば!狙ってできるならやってみたいよ!」と返す。


「でも、すごいよね。こんなにみんなを笑わせるなんて!」と蓮が感心したように言うと、颯太も「昴、これが才能ってやつじゃね?」とニヤリ。


 昴は少し照れくさそうに「才能って……ただの運だって。」と手を振るが、内心では少し嬉しさを感じていた。


(なんだよこれ……全然かっこよくはないけど、まあ、これでいいのかもな。)


 ゲーム終了後、全員が風船まみれになりながら座り込む。誰かが「楽しかったね!」と言うと、昴が冗談めかしてこう言った。

「意外と俺、こういうの得意かもな?」


 その言葉に、優翔たちや女子たちが一斉に「それな!」と笑い、場はさらに盛り上がった。

 昴はその笑顔を見ながら、自分がみんなと一緒に楽しめたことに、少しだけ自信を持つことができたのだった。



 アクティビティがすべて終わり、休憩スペースで一息つくメンバーたち。その中でも、ひときわ明るい声が響く。

「みんな、お疲れ様!今日、めっちゃ楽しかったね!」と笑顔で声をかけるのは、肩までの茶色いミディアムヘアを軽く巻いた桜庭綾乃さくらばあやの。親しみやすい雰囲気をまとい、周囲を自然と笑顔にさせる彼女は、グループの中でもムードメーカー的な存在だった。


 綾乃は初対面の昴にも物怖じせず話しかけ、誰とでもすぐに打ち解けるその社交的な性格を存分に発揮していた。


 昴は周りの楽しそうな雰囲気に和みながらも、自分が目立つ場面が多かったことに少し照れを感じていた。すると、綾乃が隣に座り、少し身を乗り出して話しかけてきた。


「昴君さ、今日めっちゃ頼りになってたよね。何気に頭もいいし、運動もできるんだね!」


「いや、全然そんなことないよ……たまたまだって。」と昴が控えめに答えると、綾乃は「謙虚だな~!でも、本当に感心しちゃったよ。」と屈託のない笑顔を見せた。


 その後も、綾乃と昴は自然な流れで話し始め、映画や好きな音楽の話題で盛り上がる。優翔たちが別の女子と話しているのを横目に、綾乃はふと「あ、そうだ」と思い出したようにスマホを取り出した。

「昴君、メッセージやってる?せっかくだし、連絡先交換しない?」


 突然の提案に、昴は少し驚いた様子で「え、俺と?」と聞き返す。


「うん!今日仲良くなれたし、またみんなで遊びたいなって思って。」と綾乃が軽やかに言うと、昴は少し照れながらもスマホを取り出してQRコードを見せる。


「じゃあ……よろしく。」


 綾乃も「よろしくね!」と嬉しそうに画面を操作し、「はい、これで登録完了!」とにっこり微笑む。


「これからもよろしくね、昴君!」と親しげに言う綾乃に、昴は「うん、こちらこそ。」と答えたが、内心では少しドキドキしていた。


 そのやり取りを少し離れたところから見ていた優翔が近づいてきて、ニヤニヤしながら肩を叩く。

「おいおい、昴。お前、ちゃっかりいい感じじゃねえか!」


「いや、そんなんじゃないから!」と焦る昴に、優翔は「嘘つけ!あの綾乃ちゃん、めっちゃ可愛いじゃん。これは次が楽しみだな~!」とからかう。


「もうやめろって!」と苦笑する昴だったが、心の中ではどこか嬉しさが混じった感覚を覚えていた。

 こうして、楽しい1日は、ちょっとした新たな繋がりとともに幕を閉じたのだった。



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 良ければこちらもご覧ください。

 ・直さんは冷静な顔で、俺を殺しに来る

 https://kakuyomu.jp/works/16818093090481722534


 ・ハリネズミ女子飼育日記:僕と彼女の365日間

 https://kakuyomu.jp/works/16818093090591046846


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