第11話 食欲が育む絆 -BBQ編-
学校の正門前に、生徒たちが次々と集合していた。荷物を抱えた生徒たちが談笑しながらバスの周りに集まり、朝の空気にどこか楽しげな雰囲気が漂っている。
昴たちのグループも少し早めに集まり、準備を確認していた。優翔が大きなリュックを背負いながら、さらに手には重そうな買い出し袋をいくつも持っている。
「桐谷くん、それ全部大丈夫なの? すごく重そうだけど……」
昴が気遣うように尋ねると、優翔は涼しい顔で笑いながら答えた。
「全然平気! これくらい、トレーニングの一環みたいなもんだよ。」
その言葉通り、優翔は軽々と荷物を持ち直し、他の生徒たちに頼られるような余裕すら見せている。
「ほんと、優翔くんって力持ちね!」
近くにいた女子生徒が感心したように声を上げると、別の女子も「優翔くん、頼りになる~!」と賞賛を重ねた。
それを横目で見ていた昴は、自分の腕をそっと見下ろし、少しだけ自信を失いかける。
(やっぱり、もう少し鍛えたほうがいいのかな……)
やがてバスが出発し、昴たちは中ほどの席に腰を落ち着けた。昴と優翔が隣同士になり、茉莉亜と千春はその前に座った。
「ねえ桐谷くん、さっき荷物めちゃくちゃ軽そうに持ってたけど、普段どんなトレーニングしてるの?」
昴が興味を示しながら尋ねると、優翔は嬉しそうに笑った。
「俺? 普通にジムとかで筋トレしてるよ。週に3回くらいかな。あとランニングもやるけど、最近はスクワットとかベンチプレスに力入れてる。」
「へえ、なんか本格的だね。俺も体を鍛えたほうがいいかなって思い始めててさ。もしよければ、今度一緒に行ってみたいな。」
昴が少し照れたように言うと、優翔はすぐに頷いた。
「おう、もちろん! 初心者でも全然大丈夫だから、昴ならすぐコツ掴めるよ。一緒に筋トレして、次回のイベントではさらに活躍しちゃおうぜ!」
その提案に、昴の表情が少し明るくなり、二人はバスの中でトレーニングの話題で盛り上がった。
一方、バスの後方では雷央と花音が賑やかに話していた。
「なあ花音、今日のハンバーガー、絶対に最高の出来になるからな!」
雷央が得意げに語ると、花音はクスクスと笑いながら答えた。
「そう? でも雷央、ちゃんとお肉を焼けるの? 私、焦げたのは嫌だからね。」
「余裕余裕! 俺に任せときゃ大丈夫だって!」
雷央は胸を張りながら自信を見せた。
「それにさ、今日は俺たちだけの時間も作りたいなーって思っててさ。」
急に低い声で耳打ちするように言う雷央の様子に、花音は一瞬驚いた顔をしたが、次第に興味深げな笑みを浮かべた。
「俺たち、みんなの注目集めてるけど、たまには人気のないところでゆっくりしたいと思わない? どっかいい感じの雰囲気の場所探してさ」
「ふふっ、雷央って本当に大胆よね。まあ、せっかくだし……そういうのも悪くないかも。」
花音は少し恥ずかしそうに目をそらしながらも、言葉には柔らかな期待感が含まれていた。
そんな二人の様子を見ていたクラスメイトたちの間には、微妙な空気が流れていた。
「……なんか、花音さんって、雷央と本当にそういう感じなんだな。」
「ああ、意外っていうか、まあ……正直羨ましいけどね。」
「でも、堂々としすぎじゃない? なんか見てて疲れるわ。」
そんなささやきが交わされる中、雷央と花音は全く気づく様子もなく、二人の世界を楽しんでいた。
バスはやがて緑が広がる山道に入り、目的地まであと少しというタイミングになる。昴は再び荷物の中身を確認し、忘れ物がないかを確かめた。
「昴、準備ばっちりそうだな。でもさ、もし重いものがあったらいつでも俺に言ってくれよ。」
優翔が頼もしげに言うと、昴は「ありがとう、心強いよ」と自然に微笑んだ。
窓の外には広がる自然の風景。どこか穏やかで、それでいて心躍るような空気が漂う中、バスは目的地のバーベキュースポットに到着した。生徒たちは次々と荷物を持って降り始め、BBQの準備がいよいよ本格的にスタートするのだった。
昴たちのグループが指定された場所に到着すると、優翔が中心となって荷物を下ろし、手を軽く叩いてみんなに声をかけた。
「よし、じゃあ役割分担しようぜ!」
その堂々とした態度に、昴と茉莉亜、千春も自然と注目する。
「俺、正直料理はまったく自信ないんだよな。でも火起こしなら任せてくれ!」
優翔が自信満々に言い、すぐに自分の仕事を決めた。
「それに、炭もここにある分だけじゃ足りない気がするから、追加でもらってくるよ。先生たちのところに置いてあるはずだし、軽く運動がてら行ってくるわ!」
「それなら、私も一緒に手伝うわ。」
千春が穏やかな口調で微笑みながら申し出た。
「助かる! 八坂、器用そうだし、細かい火の調整とか一緒にやってくれたら完璧だな。」
二人の息がぴったり合いそうな様子を見て、昴と茉莉亜も自然と笑顔になった。
「じゃあ、料理は空野くんと私で担当ね。」
茉莉亜が微笑みながら言うと、昴は頷きながら返事をした。
「そうだね。火が起きるまでに、まずは下ごしらえを進めておこうか。」
「ふふ、楽しみだわ。」
茉莉亜はそう言うと、荷物の中から食材のタッパーを手に取った。
「これがアヒージョ用のシーフードミックス……冷凍のままだから保冷剤代わりになるのね。なるほど、計画的!」
驚きと感心が入り混じった表情で茉莉亜は言う。
さらに別のタッパーを開け、中に塩麹で下味をつけられたシュラスコ用の肉が並べられているのを見て、彼女は目を丸くした。
「もうこんなに準備されているなんて……昴くん、本当にすごいわね。」
「いや、準備しておけば現地で楽だし、失敗も少なくなるからさ。これ、串に刺しておこうか?」
昴が手際よく長い串を取り出し、肉を一本ずつ通し始めると、茉莉亜も興味津々の様子でその手元を見つめた。
「これがシュラスコってやつなのね……串に刺して豪快に焼くなんて、なんだか異国の雰囲気が漂うわ。」
「そうだね。炭火で焼けば香ばしく仕上がるし、焼き加減を調整すれば誰でも好みの状態で食べられるよ。」
昴は肉の厚みを均等にするよう気をつけながら串刺しを進めていく。
「私にもやらせてくれる?」
茉莉亜が少し躊躇いながらも手を伸ばすと、昴は笑顔で串を渡した。
「もちろん。天音さんのほうが器用そうだし、お願いしようかな。」
「ふふ、ありがとう。こういう作業、意外と楽しいのね。」
茉莉亜は慎重に肉を串に通しながら、楽しそうに微笑んだ。その姿はどこか新鮮で、昴も自然と笑みをこぼした。
こうして二人の手で、シュラスコ用の肉は次々と準備されていく。その間も茉莉亜はアヒージョ用の野菜を取り出し、「オリーブオイルと一緒に煮込むだけなんて簡単ね」と驚きながらも楽しそうに話していた。
二人が手際よく作業を進める中、遠くから炭を運んでくる優翔と千春の姿が見えてきた。昴たちの準備は着々と進んでいた。
「よし、まずは火を起こすぞ!」
優翔が腕まくりをしながら宣言した。
持ってきた炭を地面に置き、手早く着火剤を配置すると、千春が控えめに声をかける。
「桐谷くん、炭の置き方って適当に積むだけでいいのかしら?」
「いや、適当に積むだけだと火がつきにくいんだ。これを見てて。」
優翔は炭をピラミッド型に組み、中央に着火剤を置いた。火をつけると、勢いよく炎が上がる。
「こうすると空気の通りがよくなるんだ。で、次に炭の量で強火と弱火のゾーンを作る。ほら、この辺は強火で、こっちは少なめにして弱火用だな。」
優翔が炭を調整しながら説明すると、千春は感心した様子で頷いた。
「桐谷くん、本当に力持ちなだけじゃなくて、こういう知識もしっかりしているのね。」
「はは、まあね。アウトドアは結構好きだから。」
照れたように笑う優翔の横顔を見て、昴はふ自分もこんな風に頼りがいのある男になりたいと考えていた。
やがて火が安定し、準備が整うと、昴と茉莉亜が料理を始める番になった。
アヒージョの鍋にオリーブオイルを注ぎ、シーフードミックスと野菜を投入した瞬間、ジュワッという音とともに香ばしい香りが漂い始めた。
「すごくいい匂いね!」
茉莉亜が目を輝かせる。
「これがアヒージョの醍醐味だよ。オイルが具材の旨味を引き出してくれるんだ。」
昴が説明しながら火加減を調整していると、横で茉莉亜がバッファローウイング用のチキンを網の上に並べ始めた。
「チキンって焼くだけでも美味しいけれど、このソースが香ばしい匂いを引き立ててくれるのね。」
茉莉亜が満足そうに微笑むと、昴も「焼き加減が難しいけど、じっくりやれば失敗しないよ」と返す。
そして、いよいよシュラスコ用の串を炭火の上に置いた。肉からジュワジュワと脂が滴り落ち、炭火に触れて香ばしい煙が立ち上る。
「この匂い、最高だな!」
優翔が興奮した声をあげる。千春も「これだけでお腹が空いてきちゃったわ」と微笑む。
そのとき、ひより先生が近づいてきた。
「わあ、本当に美味しそうな匂いですね! どれどれ、ちょっと見せてください。」
ひより先生は昴たちの調理を興味深そうに眺めたが、すぐに別のグループで火がつかないというトラブルが発生したらしく、慌てて去っていった。
まずはアヒージョが完成。みんなで一口ずつ食べてみると、シーフードの旨味が凝縮されたオイルが口いっぱいに広がった。
「これ、めちゃくちゃ美味い!」
優翔が感激しながら声をあげる。
「オイルに生姜とタイムを入れたのがポイントなんだよ。」
昴がさりげなく説明すると、千春が「この香りが爽やかでいいわね。ニンニクより軽い感じがして、とても食べやすいわ」と微笑んだ。
続いて、バッファローウイングを頬張った茉莉亜が満足そうにうなずく。
「手で食べるのって、やっぱり特別な感じがするわね。このソースもピリ辛で癖になる!」
「マナーとか気にしないでいいから、思い切り楽しめるよね。」
昴がそう言うと、茉莉亜は小さく笑った。
そして、シュラスコをかじった優翔は興奮したように叫んだ。
「これ、ヤバイな! 肉が柔らかくてジューシーだし、塩の風味が最高だ!」
「塩麹で漬けると肉が柔らかくなるんだ。やってみて正解だったよ。」
昴が自信を持って答えると、茉莉亜も「これは本当に絶品ね。さすが昴くん」と笑顔で褒めた。
最後にレモネードを飲んで口をさっぱりさせたあと、昴が締めの一品を提案した。
「アヒージョの残りのオイルでパスタを作ろう。」
簡単に茹でたパスタを鍋に入れ、オイルと絡めると、シーフードの香りが一層引き立った。
「これも最高だな!」
優翔が大盛りを口に運びながら感激する。千春も「最後まで手を抜かないのが素敵ね」と笑みを浮かべた。
みんなで笑いながら食事を楽しむ中、昴たちは自分たちで計画し作り上げた料理に大満足だった。
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今日もお読みいただきありがとうございます。
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こんな小説も書いています。よければご覧ください。
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