第6話 梅雨空と太陽
6月に入り、ジメジメとした空気が纏わりつく鬱陶しい季節になった。
「凄い雨だな」
「本格的な梅雨は来週からみたいだけどな」
「マジかー。こんな雨がしばらく続くのか」
「そうみたいだな」
「どんよりした空見るとテンション下がるよな」
「分かる」
「…なぁ」
「なんだ」
「その頭どうにかならないのか…?」
「ならないから困ってんだ」
大海の頭を見ながら呆れたように話す。
少し癖の入った大海の髪は毎年この時期になると爆発したような頭になる。
この時期は嫌いだとムッとした表情で呟く大海を見て太陽はお手上げだと言わんばかりに首を振った。
「そういえば、お前いつになったら家に行かせてくれるんだよ」
「あー…いつかな」
「お前それ行かせないやつだろ」
「行かせるって。いつか」
「週末」
「え?」
「週末にお前の家行くからな」
勝手に決めるなと怒る大海を他所に太陽はもう決めた事だと言わんばかりに無視を決め込んだ。
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その日の放課後、いつも通り泉はご飯を作りに来ており、2人は一緒に食事をしていた。
「あ、そういえば週末に太陽が家に来るみたいなんだ」
「太陽…?ああ、空野くんね」
どうやら雪乃さんは太陽のことをあまり認識していなかったようだ。
「同じクラスなのに名前知らないの…?」
「苗字さえ知ってれば困らないから覚えてないだけよ…」
「確かに、雪乃さんなら苗字だけで困らないかもね…」
「どういう意味よ」
「あ、いや、深い意味は…」
思わず出た言葉に泉は目尻の鋭い目でこちらを睨んでおり、大海はたじろぐしかなかった。
「そ、それで、多分泊まると思うから週末は来なくて大丈夫だよ…」
「そう…わかった。そんなことより…」
「な、なに?」
「その頭なに…?」
梅雨時期の大海の頭を初めて見た泉はとても困惑した様子で聞いた。
「この時期になるといつも湿気で髪の毛が爆発しちゃうんだ」
「なるほど…確かに水瀬くん少し癖毛だもんね」
「そうなんだ、湿気が多いといつもより髪がクルクルして戻らなくなるんだ」
「そう…縮毛矯正なんかしたらいいんじゃない…?」
「美容室で極力話しかけたくないし、話しかけられたくないから無理だね…」
「…それじゃあ直ることないね…」
「でしょ?そういうこと」
彼女は呆れたように言ったあと何やら少し考えていたが、得に気にも留めず箸を進める事にした。
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週末になり、太陽が家を訪れていた。
「ホントに綺麗になってる…結構この状態続いてるのか?」
「もう1ヶ月は続いてるな」
「へぇー、よっぽど雪乃さんの説教が効いたのか?」
「かもな…」
大海の家は泉が来る度に掃除をしてくれる為、常に綺麗な状態が保たれているままだった。
「今日、陽菜ちゃんは?」
「陽菜は今日友達と遊びに行ってるよ」
「そうか。久しぶりに会いたかったな」
「それ直接言ってやってくれ。喜ぶぞ。だが、陽菜は渡さんぞ」
「誰もくれとは言ってない」
基本的には妹想いのいい兄貴なんだが、異常なまでの過保護だ。
とはいえ、僕も陽菜ちゃんの事をホントの妹のように可愛がっているし、気持ちも分からんこともない。
「あ、ほらこれ手土産」
「お前にしては気が利くな。陽菜ちゃんに言われたんだろ?」
「その通り。友達の家に遊びに行くなら手土産の一つも持っていきなさいだってさ」
「お前なんかより、よっぽどできた妹だな。」
「おい、俺もお前以外にはしっかりしてるぞ」
そこが問題なんだ。という目で大海は見ていた。
「お前な…親しき仲にも礼儀ありって言葉があるんだぞ?」
「そんなことわざ俺は知らん」
「適当なやつめ。そんなんだと陽菜ちゃんにいつか愛想つかされるぞ」
「そんなことは無い!おれは誰よりも陽菜を可愛がっているし、きっと陽菜も俺のことが大好きなはずだ!」
「どっから来るんだよその自信…」
陽菜の事となると熱が入る太陽を冷めた態度で大海はあしらった。
太陽が家に来た目的は掃除した部屋を見るという事もあるがそんな事のためにわざわざ手土産なんて持ってこない。
大海と太陽が集まるとやることは決まっていた。
「それで?何するんだ?」
「そんなの決まってるだろ?」
太陽はこちらを見てニヤリとし、大海もニヤリと見返した。2人はゲーム機を取り出すと、ひと狩りするか!と言いゲームを始めた。
「おい、大海そっち行ったぞ!」
「任せろ!」
「やばっ!こっち来た」
「行くまで持ち堪えろよ」
「あーだめだ…やられた」
「仕方ないか。1人で進めてるぞ」
「おう。ちょっとトイレ借りる」
大海は返事の代わりに手を挙げた。
太陽はトイレからの戻る際、収納ボックスから何やら出ているのが目に入った。
「なんだこれ…」
収納ボックスを開けると明らかに女性用の赤いエプロンが入っていた。太陽は意気揚々とそのエプロンを持ち大海の元へと歩き出す。
「どうだ?」
「悪い負けた」
「おう、仕方ねぇよ」
「続きやろうぜ」
そうして、太陽の方へ目を向けた大海は大量の冷や汗が吹き出てきた。
(なんで、そのエプロンあるんだ…?やばい。なんか言い訳しないと。)今までに無いほど脳が回転するのを感じたが、良い言い訳が思いつかず頭を抱えていると
「お前、こんな趣味だったのか」
「え?」
「こんな可愛らしいデザインが趣味だったとはな」
以前、自分で弁当を作ったと嘘をついたこともあり、太陽は都合の良い勘違いをしていた。
アホで助かった。この時ばかりは太陽に感謝をした。
「そ、そうなんだ。結構いいエプロンだろ?」
「胸元のフリルはどうかと思うぞ…」
「そ、そうだな…」
テンションを高くして乗り切ろうとしたのが裏目に出たのか太陽は少し引いている様子だった。
少し引かれはしたが、泉との秘密にするという約束を何とか守ることができ、大海はホッと胸を撫で下ろした。
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結局あの後、一日中ゲームをした大海と太陽は夕食を出前で済ませ眠りにつくことにした。
「なぁ、大海」
「なんだ?」
「最近のお前、少し明るくなったよな」
(自分では思わないが太陽が言うならば間違いないだろう)と大海は最近の自分を思い起こしていた。
「なんかいい事あったのか?」
「……特に何も無い」
「…そうか。何かあったなら教えてくれよ?親友なんだからさ」
「''自称''な?」
「そこは強調しなくていいよ」
電気を消し、ベットと床という位置関係もあり互いに顔は見えないがその声色から少し口角が上がっているのを二人は感じ取っていた。
「良かったよ。お前が少しだけ、前のお前に戻ってくれて」
「前も何も元々変わらないよ。」
「そうか…?」
「そうだ。」
少し笑みを浮かべながら二人は眠りについた。
ボーイッシュな彼女が尽くしてきます 和泉和琴 @wato-izumi
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