第5話 2人だけの秘密
いつもと少し違う週末が明け、憂鬱な月曜日がやって来た。
どこからともなく、よっ!っと言う声と共に馴れ馴れしく肩を組まれた。「自称」親友の太陽だ。
「雪乃さんとはこの間どうだったんだ?」
太陽はニヤニヤしながら尋ねてきた。
「お前のせいで大変だったよ…家の場所教えやがって…」
「嬉しかっただろ?お前の家に女の子が来たんだぜ?」
「嬉しくなんてない。僕の部屋知ってるだろ?汚いから説教されて掃除したんだよ…」
「そんなの、掃除してないやつが悪い。」
「……」
ぐうの音も出ない正論だったため言い返すことも出来ず、しかめっ面をするだけだった。
「それで?なにか面白いこと無かったのか?」
「そんなの……ある訳ないだろ。」
「なんだよその間。何かあったんじゃないか?」
怪訝な面持ちで尋ねてくる太陽を、何も無い。と軽くあしらい、
大海は掃除の時の事故を思い出していた。
「ーーにしても、雪乃さんお前に対しては何か雰囲気が柔らかいよな…なんでだ?」
「そんな事知るわけないだろ。それに、学校では今まで通りの距離感で居てくれって頼んだんだ。もう関係ないよ。」
「お前マジで言ったのかよ…勿体ないことするなぁー」
「面白がってるだけだろお前…」
「そんな事ないって。そもそも、あんな美人な子と仲良くなるチャンスなんて滅多にないだろ?特に雪乃さんみたいな人とは。」
「お前、陽菜ちゃん以外にそんな感想持つんだな。」
大海は極度のシスコンの太陽が妹の陽菜以外にまともな感性があることに驚いた。
「お前おれをなんだと思ってんだよ…」
「妹以外の全てをどうでもいいと思っている「自称」親友のシスコン野郎。」
「俺の印象酷すぎないかおまえ…」
「勝手に家を教えた仕返しだ。」
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1日も半分が過ぎ、昼休みになっていた。
大海と太陽は、いつもの屋上で昼ご飯を食べようとしていた。
「お、今日は弁当なんだな。お前料理できたのか?」
「バカにしてんのか?僕だって少しくらい出来る。」
「でも、お前中学の時とか料理センス皆無だったろ…」
「うるさい。練習したんだよ。」
実際は泉に惣菜パンばかりじゃなく、しっかりとした物を食べろと小言を言われ、弁当用に作ってくれていたものを詰めていただけであった。
「美味そうだな、1口くれよ。」
「お前にあげる分はない。」
勢いよく食べ始め、少し噎せた僕を見て太陽は取らないから落ち着て食べろよと呆れたように呟いた。
「そういえば、せっかく掃除したみたいだし今日お前の家遊び行っていいか?」
「え?今日…?」
それは少しまずい。
雪乃さんがご飯を作りに来る事を太陽は知らない。仮にこの事を噂されると彼女に悪い。太陽は言い触らすようなやつじゃないけど、噂はどこから広まるかは分からない。
「わ、悪い。そんな体調良くないんだ、また今度遊びに来てくれ。」
「なんだ?風邪か?お腹出して寝てるんじゃないのか?風呂にしっかり浸かって、ちゃんとお腹温かくして寝ろよ?」
「母親かよ、お前は…」
「もー、ひろ君が風邪引いたらお母さん心配よ〜。」
「誰がひろ君だよ。似てないし、気持ち悪いな…」
大海は冷めた目で太陽を見て言った。
「どこの母親も大体こんなのだろ。」
「そんなわけないだろ…お前の家の母親だけじゃないのか?」
「そうか?そうかもな。」
少し考えて、太陽は愉快そうに笑った。
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放課後、約束通り夜ご飯を作りに泉が来たが、夜ご飯を作るにはまだ早く、特段話すことも無いためソファに腰かける2人に気まずい空気が流れていた。
「少し来るの早かったね。」
この空気に耐えかねたのか泉は苦笑いしながら言った。
「大丈夫だよ。ただ、僕と居ても楽しくないかもしれないけど…」
「そんな事ないよ!!」
「そ、そう?」
「う、うん…」
思ったより力強く否定する泉を見て大海は少し困惑し、泉は恥ずかしそうに頬を赤く染めていた。
「な、何かする事あればいいんだけど…」
「じゃあ、あれしてみたい…」
彼女はそう言うと家庭用ゲーム機を指さした。
「雪乃さんゲームとかするの…?」
「桜の家に行った時とかにたまに…」
「そうなんだ。えっと、カセットこんなのしかないけど…」
おもむろにカセットを並べる大海だが、有名キャラクターが戦うゲームや、モンスターを狩るゲーム、ゾンビだらけの世界から逃げるゲームなど、どれも女の子がするようなものはなかった。
「…えっと、じゃあこれ…」
「え、これするの…?大丈夫…?」
「大丈夫、所詮ゲームでしょ?」
「そ、そうだけど…」
彼女は、怖さに定評のあるゾンビだらけの世界から逃げる、所謂ホラーゲームを選んだ。
始めてみると泉は予想以上に冷静で、思ったよりホラー耐性あるんだなと思い、プレイ画面を見ると何故か壁に向かって銃を乱射していた。
不思議に思い顔を覗き込むと、真っ青な顔で混乱している様子だった。
「雪乃さん?大丈夫…?」
声をかけ肩に手を置くと、声にならない悲鳴を上げて彼女は飛び上がった。
「怖いの苦手だったの…?」
「こんなに、怖いと思わなかったの!」
「所詮ゲームじゃなかったの?」
大海は少し意地悪をしたくなり、ゲームを始める前の強気な泉の言葉を言った。
しかし、泉は言い返す余裕も無いようで涙を目に溜めたままムッとした顔をする事しか出来なかった。
「大丈夫だよ、僕も助けるから!」
「雪乃さん、そこだよ打って!!」
「むりむりむりむりむりー!!!!」
「お、落ち着いて、ゲームだから!」
そんな泉にトドメを刺すかのように、画面の死角からゾンビが飛び出した。
瞬間、恐怖から逃げるように大海に抱き着いた。
「ゆ、雪乃さん!?」
驚きのあまり上擦った声だった。
その声にハッとしたのかすぐに彼女は離れた。
「ご、ごめん。怖くて…」
「だ、大丈夫…も、もうやめようか。」
「そ、そうだね。時間もいいし夜ご飯作ろうか。」
そう言うと、泉は紅潮した顔を背け立ち上がり、おもむろにエプロンをつけだした。大海はあまりの出来事に硬直していた。
気まずい空気を紛らわすためのゲームだったが、より気まずい空気になっていた。
落ち着きを取り戻した頃、香辛料の匂いが香ってきた。
「お待たせ。」
「美味しいそう!」
今日のメニューは麻婆豆腐だった。
「いただきます。」
「どうぞ。」
「美味しい!」
「よかった。」
ピリッと辛い麻婆豆腐がお米によく合い食が進む。
こんなに美味しいご飯が食べられるなんて幸せだと大海は感じた。
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晩ご飯をペロリと平らげ、満足していた大海はソファーにだらけるように座っていた。
(毎日こんな美味しいのが食べられるなんて思ってもみなかったな…)
大海は、自分は幸せ者だと思った。
大海はふと、太陽にこの関係を知られないように誤魔化したことを思い出した。
泉が食器を洗うのを眺めながら、この関係を誰かに知られるのは泉にとって良くないことだと考え、この関係について秘密にしようと考えた。
洗い物が終わりソファーで一息ついている泉にさりげなく話を切り出した。
「そういえば、僕の家にご飯を作りに言ってる事、桜さんとかに言ったりしてない?」
「言ってないけど、どうかしたの?」
「い、いや、僕はいいんだけど、もし誰かに言ったりバレちゃったりしたら変な誤解されちゃうなって思って…」
「確かに…そうかもね。」
「僕なんかと仲良くしてるってバレると雪乃さんに迷惑かけちゃうと思うんだ。だから、この事は内緒にしていて欲しいんだ。」
迷惑なんかじゃないんだけどな…と俯きつつ呟いた彼女はすぐに顔を上げ、
「じゃあ、2人っきりの秘密だね」と口に指を当て笑顔で言った。
2人っきりと言う言葉に大海は少し胸の鼓動が早くなったのを感じた。
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