第3話 水瀬くんは掃除ができない
「ーーという訳なんだ、太陽頼む!家に来くるのを止めるの手伝ってくれ!!」
「なるほどな〜そりゃあ困ったなぁ」
「そうなんだよ、頼む!」
太陽はニヤニヤしながら僕を見ている。こういう時の太陽は大抵よからぬ事を考えている。
「大海、ガンバ!おれは忙しいんだ!」
「お、おい!忙しいって陽菜ちゃんの写真を見るだけだろ!!」
「だけとはなんだ!だけとは!俺にとって陽菜の写真を眺めることはとても重要な事だ!」
「頼むよ太陽!」
「じゃあ、また来週な!」
そう言うと、太陽はかなり悪い顔をして駆け足で去っていった。
あいつは面白がっているけど僕にとっては一大事だ。
(僕が友達を家に招き入れたことなんて太陽以外無い。それなのに女の子、それも雪乃さんを招くなんて…あれを見られたら大変だ。)
そう1人で頭を悩ませていると。救いの声が聞こえた。
「どうしたの?ひろみくん」
振り返ると桜さんがいた。僕には桜さんが神様のように見えた。
「神様!!雪乃さんが家に来るって強引に約束されたんだ!僕の家に招くなんて無理だよ!神様止めてください!」
「神様て…。ごめんね。あたし今日バイトあるから無理かも…また今度なにか相談乗るから!」
神様は一瞬で消え去った。
僕は作戦を立てることにした。
(まず、授業が終わったら雪乃さんに見つからないようこっそり教室を出よう。その後、靴を取ったら裏から出てこっそり帰ろう。それで今度謝ればいいんだ。よし!それで行こう)
キーンコーンカーンコーン。
(よし!今だ!)
僕は教室をこっこり抜け出し、雪乃さんにバレること無く家に帰ることに成功した。
はずだった…
「よし!雪乃さんに見つかることなく帰って来れたぞ!これで今度謝れば完璧だ!」
ピーンポーン。
聴き慣れない電子音が鳴った。
(誰だろう…)
少し嫌な予感がしたが、相手の予想はついていたため、玄関に向かい覗き窓から確認せずドアを開けた。
そこに立っていたのは予想通りの人物だった。
「…水瀬くん、なんで先に帰ったの?」
「あ、いや…部屋を掃除しようと…」
冷ややかな声にじとっとした目で大海を見つめる泉。
そんな泉に対し、大海は引きつった笑顔を見せることしか出来なかった。
泉は無理やり部屋に上がると大海に説教をしていた。
「ーーどうして、先に帰るかなー。水瀬くんの家の場所分からなかったらどうするつもりだったの?」
「な、なんで僕の家わかったの?」
「え?空野くんに偶然会ったから教えてもらったの。」
予想通り、太陽が僕の家の場所を教えていた。
(あいつ、絶対にシバいてやる…)
なぜか正座で説教を聞いていた僕は密かに心に誓った。
「そんなことより、ここが水瀬くんの家なんだね。まさか一人暮らししてるなんて思わなかったよ。それにしても…これは…なに…?」
「こ、これは…」
少し軽蔑したような目で見られた。
それもそのはず、大海の家はとても散らかっていた。
これは泉を招きたくない理由の1つであった。
「これ、ちょっとしたゴミ屋敷みたいになってない…?こんなところで生活してたの…?」
「これをゴミ屋敷だなんて。本物のゴミ屋敷の方々に失礼だよ。」
「どこに気を使ってんのよ…」
まだゴミ屋敷では無いというあるようでないプライドを持っていた大海は少し抵抗するように言ったが初めて彼女の雪のような冷たさを感じる事となった。
「どうしてここまで放ってたの…?」
「な、なんというか最初は頑張ってたんだけど面倒くさくなっちゃって…」
「……」
もはや呆れてものも言えない様子だった。
「それで…掃除するためって言ってたけど…これどこ掃除したの…?」
「こ、これから取り掛かろうと思って…」
「はぁ…」
彼女の呆れたため息を聴き、正座を緩めていた僕はまた無意識に正座をし直していた。
「…遊ぼうと思ってたけど、これじゃダメね…ちょっと待ってて。」
そう言うと雪乃さんは出ていった。
「な、なんなんだろ…?」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
30分ほど経った後
「水瀬くん!掃除するよ!」
なぜか大量の掃除用具を持った雪乃さんが戻ってきた。
「そ、それ持って来たの?」
「わたしの家の余ってたやつよ。どうせ、水瀬くん掃除するもの持ってないでしょ?」
(掃除機くらいある…。)と思った大海だが、泉が言いたい事はそうでは無いだろうと思い。口を噤んだ。
「さてと…どこからするべきかな…」
「お任せします…」
さすがの汚さに雪乃さんも困っているようだった。
「とりあえず…大量にあるゴミを片付けようか。」
「これ、全部か…」
「水瀬くんが散らかしたんだから嫌そうにしない。」
そう言うと掃除を始めた。
黙々とゴミを捨て、掃除を続けていく雪乃さんの手際の良さを僕は驚きながら見ていた。
(見てないで手伝え…)そういった目でこちらを見ていた雪乃さんに気づき僕も掃除を開始した。
「要る物と要らない物分からないから明らかなゴミ以外は自分で分けてね」
「多分、床に落ちてるものは全部要らないものだと思う…」
「それをこんなに…」
雪乃さんは少しフラっとしていた。
(はぁ…こんなに散らかして…)そう時々呟く彼女はまるで小言を言う母親のようだった。
「掃除してもらってごめんね」
「友達なんだからこれくらいするよ」
(友達ってそいういものなのかな…)
ゴミ屋敷の掃除というのは友達の範疇なんだろうか。といった疑問を胸に抱きつつ掃除を続けていく。
何時間経っただろうか、集中して掃除をしていた大海は息抜きをしようとしていた。
(ちょっと疲れたな…休憩がてら外の空気を吸いに行くか…)
自分の家で物の位置を把握していると過信していた大海は、立ち上がった時にゴミを踏んでしまい、転倒しかけた。
「やべっ」と声が出た。そのまま転けると思い目を瞑った瞬間。甘い匂いが香った。
転けたと思っていた大海は痛みの代わりに顔に感じる柔らかい感触が何なのか一瞬分からなかった。
「…大丈夫?」
声が聞こえ、ハッとした。
「ご、ごめん!大丈夫!」
大海はすぐに離れた。
「散らかってるとさっきみたいに転けるから片付けなきゃダメだよ?わかった?」
「…身に染みてわかりました。」
何とか返事をしたが、大海はそれどころじゃなかった。
ボーイッシュでクールな印象を受ける容姿からは想像できないボリュームが頭から離れず恥ずかしさで顔が真っ赤になるのを隠しつつ立ち上がった。
「さ、さぁ、続きしよう」
「今度は気をつけてね」
何事も無かったかのように言う泉を見て大海は意識してなかったと思いホッとし、掃除を再開した。
「…ドキドキしてる」
泉は胸に手を当てボソッと呟いた。
「何か言った?」
「汚いお部屋って言ったんだよ!」
「うっ…ごめんなさい。」
そう言ってイタズラっぽく笑って見せた彼女の顔は夕陽も相まってか、赤く染っているように見えた。
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