第2話 雪解けしている雪乃さん
放課後になり、大海は太陽と昇降口に向かっていた
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「ーーまさか僕の怪我の原因が雪乃さんだったなんて…」
「でもよ、そのおかげであの雪乃さんと友達になれたんだからお前役得だなぁ〜」
太陽は気楽でいいものだ。
あの時、(友達になって欲しい…)
そう伝えたのは雪乃さんを納得させるために咄嗟に出た言葉だった。
「あの時は納得させるためにそう言ったんだよ」
「え、じゃあお前雪乃さんと友達になるつもりないのか?」
太陽は驚いた様子で尋ねてきた。
それもそのはず、雪乃さんとお近付きになりたい…あわよくば何て考えている男子は少なからずいる。
しかし…
(……僕みたいなやつは雪乃さんと釣り合わない)
そう考えつつ、外履きに履き替え帰路に着いていた。
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太陽はなぜ友達にならないのかずっと問いただしてくる。
「ーーいいんだよ、僕みたいなやつが雪乃さんと友達なんてなったら他の男子が黙ってないよ…」
「…お前、どうしてそんな悲観的なんだよ」
呆れたように太陽は言った。
「僕はそれでいいんだ」
「でも、おま…」
こういう時の太陽は引かない。
僕は太陽の言葉を遮り話題を変えた。
「そんな事より太陽、お前また告白されたのか?」
昼休みが終わり教室に戻ると太陽は女の子から何やら呼び出しをくらっていた。
様子を見るに、告白に違いないだろう。
「どうせ、お前の事だから断ったんだろ?」
「ああ、俺は
そう目を輝かせて話す太陽は度を超えたシスコンだ。
人並み以上に告白されるこいつが彼女を作らない理由だ。
「お前陽菜ちゃんが言ってたぞ。
(お兄ちゃんがまた何か見てデュフデュフ言ってます…!!)って…」
太陽の事だ、きっと陽菜ちゃんの写真でも眺めながら笑ってたんだろう。
「み、見られてたのか…!?俺の秘蔵''陽菜''ファイルを!!」
「なんだ、その気持ちの悪い秘蔵ファイル…お前、程々にしないと陽菜ちゃんに嫌われるぞ」
嫌われるという言葉が刺さったのだろう。
太陽は見るからにテンションが下がっていた。
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(太陽みたいな人気者だったら雪乃さんと本当の友達になれただろうに。)
自分に関係の無いことのように大海は考えていた。
(雪乃さんも納得してくれた。これで雪乃さんが気にする事はないし今まで通りの他人に戻るだろう。)
ベッドの中で眠りにつきつつ、そう思った僕の考えは翌日外れることになる。
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スマホのアラームが部屋に鳴り響く。
重たい瞼を持ち上げ時間を確認した僕は一瞬にして目が覚めた。
「やばい!寝坊した!!!」
時刻は8時を回っていた。
急いで身支度を済ませ家を出る。
キーンコーンカーンコーン。
朝礼が終わった頃、大海は教室に着いた。
「重役出勤だなー大海」
「重役がこんな時間にボロボロで登校するかよ…」
笑いながら言う太陽に乱れた服装を正しつつ、不貞腐れながら言った。
「おはよ…水瀬くん」
教室中の視線が集まった。
「え、あ、おはよう…」
周りの視線がとても痛かった。
特に男子の。
「寝坊したの?ちゃんと早寝しなきゃダメでしょ?」
「あ、うん。気をつけるよ…」
なぜ話しかけてくるのか僕には分からなかったが、周りの視線がとても痛いのでやめて欲しかった。
(まぁ気まぐれで挨拶したんだよな…)
「水瀬くん、移動教室!行くよ!」
「水瀬くん、消しゴム落としたよ」
「水瀬くん、弁当忘れたの?わたしの少しあげるね」
「水瀬くん、水瀬くん、水瀬くん…」
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(つ、疲れた…異常なほど疲れた。なんなんだ…雪乃さんめちゃくちゃ話しかけてくる…なぜか普通にご飯も一緒に食べてたし、しかも弁当を忘れた僕に分けてくれた。)
1日中、泉に話しかけられていた大海は疲れきった足取りで帰路に着いていた。
「ひろみくん、お疲れだねー」
ポンッと肩を叩かれ振り返ると笑顔の桜さんが居た。
「さ、桜さん…」
「ごめんねー。あの子が迷惑かけてるみたいで」
そう話す彼女はどこか楽しげだった。
「雪乃さんは何であんなに話しかけてくるの…?」
大海の疑問はもっともだった。
「それは多分…ひろみくんが初めての男友達だからちょっと距離感がおかしいのかも」
「ちょ、ちょっとって…」
彼女に男友達が居ないことに一瞬驚いた大海だったがすぐに理解した。
泉は近寄ってくる男子に雪のような冷たさで接しているため男友達が居なかった。
「雪乃さんに今まで通りの距離感でいてもらうことってできるかな…?」
「う、うーん…初めての男友達で喜んでたからなぁ…」
「直接頼んでみるしかないか…」
また学校で話すと思うと気が進まない大海だったが、平穏な学校生活を取り戻すためには仕方ないと割り切ることにした。
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「ゆ、雪乃さんちょっといい?」
「え、う、うん」
僕から話しかけれたことによほど驚いたのか目をまん丸にしていた。
「が、学校では今まで通りの距離感でお願いしたいんだ…」
「…どうして?」
彼女はキョトンとした顔でこちらを見る。
「雪乃さんと学校で話すと周りの視線が痛くて…」
「そうかな?わたしは気にならないけど」
「雪乃さんがそうでも僕は気になるというか…」
苦笑いを浮かべつつ、泉に提案する大海。
「でも、それじゃあ友達じゃないよ?」
「学校じゃなければ話しかけてくれていいから」
「学校以外で水瀬くんと会うことってあまり無いんじゃ…」
痛いところを疲れた僕は苦笑いをするしか出来なかった。
「あ!」
何かを思いついたようにイタズラっぽく笑顔を向ける泉。
「今日の放課後、水瀬くんの家に行かせてくれたら学校で話しかけるのは諦めるよ」
「え…?」
彼女が何を言っているのか一瞬理解出来ず聞き返してしまった。
「だーかーら!水瀬くんの家に行かせてね!じゃなきゃ学校で話しかけちゃうよ??約束ね!じゃあ教室戻ろ!」
「え、あ、雪乃さん!?
半ば強引に約束させられてしまった…」
近づく男子には雪のように冷たいはずの雪乃泉。
大海にはその冷たさがなくどこか温かさすらあった。
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