悩み多き乙女
牧太 十里
悩み多き乙女
(これは、本当にあった話を一部変更してお伝えしています)
その昔。といっても五十年ほど前の話だが・・・。
東北地方の裕福な家に、綺麗な娘がおったそうな。
娘は色白で綺麗な顔をしており、柔らかな長い髪をしておった。
娘の美しさは近郷に知れわたり、一目、娘に会い、機会あらば嫁にしようと思う若者があとを絶たんかった。
しかし、娘は誰の申し出にも応じんかったそうな。
両親は、娘が病気なのではないかと心配し、その地方では名医と呼ばれる医者を呼んで診察させたが、娘にはなにも病気はなかったそうな。
そして、娘のもとを訪れる若者が増えるほど、娘は部屋に閉じこもり、日に日に食が細くなっていったそうな・・・。
これではいかぬと思った両親は、娘に何か取り憑いたのではないかと心配し、ある有名な修験道に相談したそうな。
すると、修験道は娘の家に来て祈祷し、目の前に横たわった娘に手をかざしたそうな。
修験道の手が娘の身体から三寸(三寸は約九.九センチ)ほど上を、頭から足まで移動する。そして、もう一度、さらにもう一度移動する。
そして、修験道は笑顔で両親に、
「安心なされ。娘御には何も憑いておらぬ」
と言ったそうな。
両親は安心したが、それでも、娘が若者たちを遠ざけて食事もとらずに部屋にこもる理由がわからんかった。
「うむ、それか。安心召されよ。先ほどから、手かざしする儂の手が、娘御のここに来ると止まるのじゃ。
ふしぎに思い、三度、手かざししたが、やはり止まりおった」
修験道は横たわっている娘の下腹部の三寸上に手をかざした。
「何か、病でも?」
両親の顔が青ざめていった。
「なあに、まだ、子どものままゆえ、心配いらぬよ。
九字を切っておくゆえ、半年もすれば生えそろう。安心召されよ」
修験道は娘の下腹部に向って、
「無 上 霊 宝 神 道 加 持 !エエッイ!」
三度九字を切り、そのつど手刀で下腹部を斬る仕草をした。
それから、半年後。
娘の顔に笑顔がもどった。娘は修験道に会いたいと両親に告げた。
すると両親は
「おまえさえよければ、あの修験道といっしょになってはどうか」
と勧めたそうな。
すると娘は頬を赤くそめて、こっくりうなずいたそうな。
その後。
二人のあいだに、かわいい子どもが何人も生まれましたとさ。
(了)
悩み多き乙女 牧太 十里 @nayutagai
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