第9話 若返り学園長、入学試験を受ける③

「ニコ大丈夫なの? なんか随分ギリギリまで問題に取り組んでいたけど。やっぱ筆記が苦手なタイプだった?」

「あぁ、まあうん、そう、かな?」



 サラに問われ言葉を濁すしかないニコライ。



(そうか、端から見たらそういう風に見えたんだろうな。まぁ素性を知られるわけにはいかないし、勘違いしてもらう分にはかまわないか)



 そんな彼を心配するサラだが、試験の手応えがあったのか実に機嫌が良い。



「一般試験は難しいだのなんだと言われていたけれども、あれはちゃんと勉強してれば問題なかったわ、だから自信もって、ね」



 彼女の励ましの言葉に感謝すると同時に、ニコライは軽い疑問を抱いた。



(確かにあのテスト自体は偏ってこそいたが、至極真っ当だった。では平民を落とすとなると実技試験の方に何か「仕込み」があるんじゃないかな?)



 と、心の中で呟くニコライ。


 サラを不安にさせないよう表情には出さず、笑いながらも彼は違和感を見落とさぬよう注意を払って移動していた。


 そんな話をしている間にも、実技試験会場にゾロゾロと人が集まってくる。


 ここでも先ほどと同じように貴族と平民がキッチリ二つに分かれていた。その露骨な別れ方に疑問が拭えないニコライはじっと辺りを警戒する。



(試験会場の入り口からそうだったのだが、ここを何故分ける必要がある? 喧嘩になるからか? だが一触即発でも教師は止めなかった……ならば)



 そこまで考えた彼は「ある答え」にたどり着いた。



(これから始まる実技試験に貴族贔屓の「仕込み」があるんだな)



 気になったニコライは試験会場全体を見回す。



「くっくっく……」



 集う平民の受験生たちを見て、貴族偏重派の教師たちはニヤニヤとしていた。意気込んでいる平民受験生が落胆する姿を想像でもしているのだろう。


 バルザックの同類。貴族の甘い汁を吸っていこうと目論んでいる教師であることが見て取れた。



「教師としてもだが人としても三流以下だな……性格も、策士的にもな」



 何かを仕掛けているとき、表情に出すなと戦場に居た頃から口酸っぱく言ってきたニコライにとってニヤニヤ笑う教師陣は人に物を教える素質は皆無と判断した。



「確実に何かあるな、ちょっと調べておくか」



 険しい表情のままニコライはボソリ呟いた。



「えっと、どうしたのニコ? 眉間にしわ寄っているけど……」



 彼の顔に気がついたサラが心配そうに覗き込む。ニコライはハッとするといつもの柔和な笑みを浮かべ直した。



「おっと、ゴメンなさい」



 サラに一言だけ謝ると、その場を移動しようとするニコライ。



「ニコ、どこ行くの?」

「えっとトイレかな?」



 それだけ言い残しニコライは受験生の集団から離れどこかへと向かっていった。



「ものすごい険しい顔していたし、我慢していたのかな?」



※次回は12/18 12:00頃投稿予定です


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 この作品の他にも多数エッセイや



・追放されし老学園長の若返り再教育譚 ~元学園長ですが一生徒として自分が創立した魔法学園に入学します~


・売れない作家の俺がダンジョンで顔も知らない女編集長を助けた結果


・「俺ごとやれ!」魔王と共に封印された騎士ですが、1000年経つ頃にはすっかり仲良くなりまして今では最高の相棒です


 という作品も投稿しております。


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