第7話 若返り学園長、入学試験を受ける
「ついてくるなよ」
「旦那ぁ、いいんですか?」
「あのなぁ……今時、家族同伴で入学試験に向かう生徒はおらんぞ」
「家族……へっへっへ、さようですねぇ。では、いってらっしゃい」
リグループ魔法学園入学試験当日。
何やら照れているオードリーに見送られ、ニコライは試験会場へと向かう。
「自分の創立した魔法学園の試験を受けるというのは何とも不思議な気分だな」
いつもより浮き足立った気分のニコライはあっという間にリグループ魔法学園校門前へ到着した。
春先とは思えない熱気がそこにこもっていた。
それは暖かい昼下がりの日差しのせいだけではない。
各地方から集まった初々しい受験生たちでごった返しているからだ。
ある者は深呼吸し、ある者は参考書を読み直し、ある者は緊張を紛らわそうと他の人間と談笑するなど様々だった。
「この雰囲気をこの場所から見るのは実に新鮮だな」
この光景、いつもならば学園長室から覗いていたと懐かしむニコライ。
熱気や緊張を肌で感じた彼は実に楽しそうに笑みを浮かべて受験者の列に並んだ。
だが、その笑みはすぐに引っ込むことになる。
ゾロゾロゾロ――
ニコライが並んでいる列に我が物顔で横入りしだすは従者を従えた貴族出身であろう少年少女たち。
それを咎めない受付の教師達。
平民と貴族とで受験の段階からこうも差を付けるものかとニコライは表情を曇らせた。
(何てことだ……この段階で特別扱いしているとは)
もうすでに贔屓が目に見え、ニコライは頭を抱えそうになった。
(入学の段階でこれならば学校内の分断は、かなり進んでいるだろう。貴族は平民を見下し、不満を抱えた人間は暴動を起こすやもしれん)
そのことを放置しているバルザックに苛立ちを隠せずにいた。
(完全に拝金主義と化しているのか? いや、だがまだ内部で抵抗している教師たちもいるはずだ。ローズ君とか……)
しかし校内に進んでみると、見知った教師の他に見知らぬ教師陣もちらほらいた。
彼らはこぞって貴族受験生たちの案内や面談を受け持っているようで……バルザックが連れてきた貴族偏重派の教師であることは見て取れる。
(贔屓を悪いと思わないような連中か? 彼らのことはよく知らないが、教師としての質が低くなったことが、リグループ魔法学園の評判が低下した一因だろうな)
ニコライは「やれやれ」と達観した眼差しで貴族たちの方を見やっていた。
すると背後から声を掛けられる。
「ねえ、あなた」
「はい?」
振り向くと、そこには実に可憐な少女が微笑んでいた。
亜麻色の髪に青みがかった瞳。
素朴な身なりだがスカーフの巻き方や小物の使い方でオシャレだというのが見て取れる。育ちの良さを感じられ、何人も生徒を見てきたニコライも唸る洒脱さだった。
「なんでしょうか?」
なぜ声かけられたか分からないニコライは首傾げ尋ねると彼女は笑みを浮かべてこういった。
「あなたでしょ、この前ウチの店で暴れていた貴族を退治してくれたのは」
「ウチの店」と言われてようやく喫茶店のマスターの娘さんだと理解した。
(ふむ、こう見てみるとどことなく面影が……無いな。きっとお母さん似なんだろう)
あの不愛想な主人とからは想像できない愛嬌で彼女は名乗る。
「私はサラ、あなたの名前は?」
「ニコラ――おっとニコです。ニコ=ブラウン」
「ニコか、あなたも受験でしょ? 同じ平民受験者同士仲良くしましょう」
そういった彼女はチラっと貴族たちの方を見る。
その眼差しには侮蔑の色が滲み出ていた。先日のような貴族の横暴を店の人間として何度も目の当たりにしたであろう事が見て取れる。
「生まれてこの方、苦労を知らないような人間に負けるわけにはいかないよわねぇ」
聞こえるように大きめに声を上げるサラ。
平民の当てこすりのような発言に貴族連中は憤りを露わにする。
「おいおいおい、ちょっと待てよ」
「聞き捨てならないな」
チラホラと怒り滲む貴族受験生の声がこちらに向けられた。
が、サラは動じない。
彼女は鼻で笑うかのように貴族を見回し、ニコライに同意を求めて応戦だ。
「ニコ、あなたもそう思うでしょう、ね」
(つ、強気な女の子……見目麗しさは奥さん似でも胆力の強さは喫茶店のマスター譲りだな)
驚愕、いや一周回って感嘆するニコライ。
その言葉に賛同するか平民の受験生たちは「そうだそうだ」と口々に言い出し、日頃の鬱憤がうねりとなって辺りを包み込む。
一方、貴族の連中も「たかが平民の分際で」などと口にするものさえいた。
さらにはこの様子を見て困った顔の教師もいれば、笑っている教師さえもいて止めようともしないことにニコライは肩を落とす。
(僕が去ってから、ここまで分断が深まっているなんて……困ったなあ)
初日でコレだ、貴族と平民の問題は相当根深く、自分が目指した平等という夢が遠のいていることに嘆くニコライだった。
「せいぜい吠えていなさい貴族ども、私と貴方がいれば平民が劣っているなんて認識改めるわよ、ねぇニコ」
「いや、僕は……」
「謙遜しちゃってさ! 一緒に貴族共の鼻を空かしましょうね!」
こういった頑固で人の話を聞かないところ、やはりあの豆にこだわりの強いマスターの娘であるというのがよくわかったニコライだった。
※次回は12/14 12:00に投稿予定です
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