第9話 train of thought その2

先月の25日。11日前のこと。


その日、大学の授業が終わった蘭子さんは所属している大学の部活に顔を出さなかった。

買いたいものがあって1人で大阪の梅田まで出かけからだ。

卒論の準備で必要な本があったそうだ。

三宮センター街の4フロアあるジュンク堂や通販のアマゾンではもう買えなかったので、大阪の古書店を探すつもりだった。


蘭子さんと凛子さんは同じ大学で同じサークルに入っているけど、部活は別。

凛子さんは蘭子がその日何をしているのか何も知らなかった。


結局目的の本を見つけられなかった蘭子さんは午後10時頃、歩き疲れてクタクタの体で帰りの電車に乗った。

乗ったのは兵庫・大阪・京都を走る阪急電鉄の小豆色の電車。地元では阪急電車の愛称で呼ばれていて、有名な小説家のベストセラー小説のタイトルにもなったことがある。


梅田駅で神戸線に乗れば後は蘭子さんが住むマンションの最寄り駅、王子公園駅まで30分ほど。その2つ向こうが神戸三宮駅だ。


ちょうど帰宅ラッシュの最後の頃だったので、ほぼほぼ満員だったけれど、電車の到着を最前列で待っていた凛子さんは座ることができた。


その日の夜はまだ夏の蒸し暑さが残っていた。

車内はただでさえエアコンが付いていても暑い。なのに満員の人間の圧迫感と、疲れ切った大勢の体が放つ熱気で息が詰まりそうだった。


よっぽど歩き疲れていたのか、その熱気の中で凛子さんは座席に腰かけたまま、いつの間にか寝落ちしていたそうだ。

電車が止まったのを感じて目を覚ました。

ハッとして辺りを見渡す。


車内には自分以外誰もいない。

蘭子さんは寝過ごしたと思って慌てていたので、その時はそのことを気にも止めなかった。

振り向いた時窓から見えた停車している駅の内観が、かつて見たことのない地下駅のものだったので、神戸三宮駅より向こうに来てしまったのだと思った。


たぶん私(春香)がよく乗り降りするという花隈駅かさらに向こうの新開地駅だろうと、ドアが閉まる前に駆け降りた。

蘭子さんがホームに降りると同時にドアが閉まる。


小豆色の電車が走り出した。

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