第8話 train of thought その1
10月6日日曜日。秋。高校3年の三学期。
大学受験に向けて今までより本腰を入れて勉強しなきゃいけない時期だ。
その時期…のはずだった。
そのはずなのに、自分の部屋で机に向かってても全然勉強に集中できない。
もともと勉強嫌いな性格だし、蘭子さんの事もある。あと正直言うと暇がなければ暇を作ってでもギターを弾きたいって欲望も。
けど…それだけが理由じゃなかった。
「蘭子は」
昨日の凛子さんの言葉が脳裏にリフレインする。
「蘭子は自分でもどこだか分からない駅で降りたんだ。そしてその駅であのレコード…ブルーノートの幻の『1553番』を手に入れた」
「駅って…どこかの駅前の中古のレコード屋さんってことですか?」
私の声もリフレインする。
そしてまた凛子さんの声。
「ちがう。『駅』だ。蘭子は駅の中にある誰もいない小さなレコードショップでそれを見つけたんだ」
どういう事だろう。
本当にそんな事があるだろうか。
駅の中のレコード屋さんなんて一度も見たことないし、そもそもそんな所に幻のアルバムが売ってるなんてことがある…?
数学の問題集を後回しにして、また『神戸 駅 レコードショップ』『駅中 レコード店』『駅の中にある CDショップ』など思い付く限りググッてみる。
結果は昨日と同じ。どれもヒット無し。
出てくるのはどれも駅近のお店の情報ばかり。
インスタやXでもそれらしいワードで調べてみたけど、結果は変わらなかった。
私は椅子の背もたれに寄りかかって上体を反らし、昨日の凛子さんみたいに天井を見上げる。
そもそも今どきレコードを売ってるお店を見つけること自体難しいし、駅の中にそんなのがあるなんて有り得るのかな…?
けど凛子さんの話だと、蘭子さんはハッキリそう言っていたらしい。
「酔ってたんじゃないんですか?」
と昨日コメダで言いかけて、私は蘭子さんが一滴もお酒を飲まないことを思い出した。
酒豪の凛子さん葵さんと違って蘭子さんはライヴの打ち上げで、どれだけ他のバンドの人に勧められてもアルコールは絶対飲まない。
それに信じがたいほどの天然だけど育ちの良さはやっぱり本物で、実年齢よりずっと大人っぽくて、礼儀と節度を誰よりも知っている。そういう人だ。
そんな蘭子さんが記憶が混乱するほど酔うなんてこと、まちがってもありえない。
凛子さんから昨日聞いた話だと、蘭子さんはこのような経緯でそのレコードを偶然手に入れたそうだ。
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