第3話 凛子と蘭子 その2
凛子さんに初めて会ったのは2年前の夏。
高1の夏休みのことだ。
場所は神戸の海に浮かぶポートアイランド。この大きな人工島にある小さな集荷倉庫だった。
その夏、咲ちゃんの勧めでバイトルに登録し、ものは試しと単発のバイトに入ってみたのだ。
そうして生まれてはじめて経験したアルバイトがその倉庫での軽作業だった。
トラックで運び込まれたダンボールを開けて仕分けする。バイト初心者の私にもできる簡単な仕事だ。
そのアルバイト先の先輩が凛子さんだった。
仕事着は全員私服で、凛子さんは全身黒。黒のTシャツに黒のデニム。
スラリと背が高く、片方の脚を軸にして立ち止まっている時には脚の長さがさらに際立って、本当にプロのモデルみたいだった。
でもちょっとヤンキーっぽい感じの雰囲気もあって、正直最初は怖かった。
1週間後、またそこに単発で入った時。
凛子さんが私を覚えててくれて声をかけてくれた。
第一印象と違ってすごくお喋りで、話しやすい明るい人だった。
「それじゃなに、ギターやってんの?」
「はい。エレキですけど」
「いいじゃん。歴は?」
「えーと、中1からなんで…3年ちょっとですね」
倉庫内で一緒にお昼ご飯を食べる流れになり、趣味の話題から私のギターの話になった。
私はお母さんが作ってくれたお弁当。凛子さんはすぐそばのコンビニで買ってきたカップ麺とおにぎり2つ。
凛子さんは倉庫の床に胡座をかいてご飯を食べながら、自分は神戸の灘区に住んでいる大学生で、趣味でドラムをやっていると教えてくれた。
「かっこいいですよね。ドラムロールっていうんですか? こう、ドラムを縦横無尽にタツタツタツドゥダダダダダパーンって」
「おー、擬音上手いね」
「へへ」
「春香ちゃんさ、ニール・パートってドラマー知ってる? 私めちゃくちゃ好きなんだ」
「ごめんなさい、わかんないです」
「じゃあ暇な時にでも聴いてみてよ。マジでカッコイイから」
凛子さんは笑顔でそう言うとズズッと豪快にカップ麺をすすった。
この人が「カッコイイ」と言うなら本当にかっこいいのかもしれない。
その時私はそう思い、帰りのモノレールではじめてハードロックを聴いた。
それまでJ-ROCKしか聴いて来なかった私には、それが洋楽との本格的な出会いになった。
『A Farewell to kings』
その日聴いた、凛子さんの尊敬するドラマーのアルバム。そして私の大好きなロックアルバムだ。
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