第6話 悪役王子、閃光音爆弾を使う





 ちょっと状況が分からないので整理しよう。


 俺は婚約者を選ぶパーティー(選ばなくてもいい)に参加していた。


 ベルエールと談笑していたら、いきなり聖国の聖女がパーティー会場にやってきて俺に結婚しようと言ってきた。


 うむ、意味が分からない。


 俺は『ロイヤルクエスト』をそれなりにやり混みまくっていたが、こんな展開があったなど欠片も知らない。


 そもそも俺の婚約者は本来別のキャラクター。


 むしろライザは主人公一筋のヒロインで人気が爆発したのだ。


 魔王に身体を乗っ取られる悪役王子のエインスに、出会い頭で結婚を申し込んでくる理由が分からない。


 もし仮に俺以外の転生者がいたとして、何らかの目的があってライザを俺に接触させてきた?

 いや、あるいはライザ自身が転生者という可能性も少なからずある。


 ……少しカマをかけてみるか。



「ライザ様、もしかして転生者ですか?」


「てん? 何なのです、それは?」



 可愛らしく小首を傾げるライザ。


 俺はメンタリストではないので素人判断だが、誤魔化しているような気配はない。


 ということは、何者かがライザを唆した?


 しかし、ライザは聖国の聖女であり、聖国のトップである教皇と並ぶ権力を持つ。


 そのライザを従わせられる何者かって誰だ?


 クソ、駄目だ。

 これ以上考えてもそれらしいキャラクターに心当たりはない。


 考えても分からないことは考えても仕方ないので、俺は考えるのをやめた。


 と、その時だった。



「無礼者ッ!! ライザ様の申し出を断るとは何事かッ!!」


「え、うおわっ!?」



 ライザの護衛である全身鎧をまとった聖騎士が、いきなり掴みかかってきた。


 これにはビビる。


 普通に考えて急に事前の連絡もなくパーティーに乱入して、その主催である国王の息子に掴みかかるってヤバイでしょ。


 いやまあ、ゲームでも聖騎士ってライザのイエスマンでヤバイ連中だったけど。


 でも本当に酷すぎる。


 あまりにも急だったので俺には回避することができそうになかった。


 仕方ない。


 ここは敢えて一発殴られて、後で父上に正式に抗議してもらおう。



「無礼者はそちらです」



 俺の隣にいたはずのアイラが割って入り、聖騎士の振るった拳を蹴り上げた。


 一瞬だったが、アイラのパンツが見えた!!


 レース生地のかなり大人っぽいデザインのパンツだった!!


 聖騎士がよろめく。



「くっ、何をする!!」


「先程から聞いていれば、あまりにも不躾、無礼千万。いくら聖国の騎士と言えども、道理を弁えぬ愚か者に我が国の王子を殴らせるわけにはいきません」



 そう言ってアイラが拳を構え、聖騎士たちも臨戦態勢に入る。

 騒ぎを聞きつけて城の兵士たちも参戦し、空気はまさに一触即発。


 どうしてこうなった。


 聖騎士を連れてきた張本人であるライザはあたふたしてるし……。


 ベルエールと俺の父、国王は完全にフリーズ。


 未だに何が起こっているのか、状況を飲み込めていないのだろう。


 さて、どうしたものか。



「仕方ない、か」



 俺は懐からあるものを取り出し、空中に放った。


 それが何かを知っていたアイラは、咄嗟に目を閉じて耳を塞いだ。


 俺も同じように目と耳を塞ぐ。


 何も知らないディストアの貴族や聖騎士、父やベルエール、ライザは空中のそれを何かとじっと見つめて――


 カッ!!!!


 という凄まじい爆音と閃光をもろに食らってしまった。



「「「「「目がッ!! 目があッ!!!!」」」」



 どこかの天空の城を探していた大佐のようにパーティー会場にいた人たちが叫ぶ。


 俺が投げたのは閃光音爆弾。


 もしも絶が見破られて令嬢たちに囲まれてしまった時に備えて用意していたものだが、役に立った。



「アイラ」


「はっ、制圧します」



 身動きが取れない聖騎士たちをアイラが次々と気絶させて回る。


 ものの数秒で聖騎士は全滅。


 兵士たちが聖騎士を縄で縛って一件落着、というわけにも行かず……。



「ライザ殿、これはどういうことか!!」


「ひぅ、わ、わたしは……」


「詳しく説明してもらいますぞ!!」



 流石に事が事だけに一人残されたライザに声を荒らげる国王。


 いや、気持ちは分かる。俺も文句言いたい。


 でもこの状況をライザ本人だって飲み込めていない様子だ。


 ましてや子供相手に怒鳴るのは大人げない。



「父上、取り敢えず落ち着きましょう」


「いや、ならぬ!! 連絡もなしに訪問してきたのは百歩譲ってよいとして、エインスに襲いかかるなど――」



 俺は無言で閃光音爆弾を取り出し、父上の前で起爆させた。


 またも大佐のようになる父上。


 これで少しは落ち着くはず。俺は改めて父に声をかける。



「父上、この状況で混乱するのは分かりますが、相手は聖国です。責任を追求するにしても、慎重に行動するべきです」


「む、むぅ……」



 どうにかこの場を収めることはできたが、分からないのはやはりライザの行動だ。


 何がしたかったのか本当に分からない。


 そう思って涙目になっているライザをちらっと見た時、あるものが目に入った。


 何かうねうねした紐のようなものが、ライザの首の辺りから飛び出して気持ち悪い動きで蠢いているのだ。


 よく見たら気絶した聖騎士たちの首の後ろで似たようなものがうねうねしている。



「なあ、アイラ。あれなんだ?」


「……? どれのことです?」


「え? 見えてないのか?」



 アイラに何度も聞いてみるが、彼女には見えていないようで首を傾げるのみ。


 ……ふむ。



「えいっ」


「ぴっ!?」


「……え?」



 ためしにライザのうねうねを触ってみたら掴めそうだったので、思いっきり引っこ抜いてみた。


 すると、ライザは白目を剥いて倒れてしまう。



「な、何をしたのですか、エインス様?」



 困惑するアイラをそのままに、俺は聖騎士たちのうねうねも引っこ抜く。


 勘だが、多分これよくないものだろうからな。


 引っこ抜いたうねうねは塵となって消えてしまい、後には何も残らなかった。


 当然、パーティーは中止。


 ディストア王国は正式に聖国へ抗議の使者を送ることとなった。






―――――――――――――――――――――

あとがき

ワンポイント小話


作者「次で終わらせます。打ちきりに近い形になりますが、すみません」


エ「え?」




「アイラかっこいい」「興味本位で引っこ抜くな」「え?」と思った方は、感想、ブックマーク、★評価、レビューをよろしくお願いします。

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