悪役王子に転生したので破滅回避は諦めて短い余生を快適に暮らしたい。~不便な生活は嫌なのでクラフトスキルを極めて現代の便利アイテム作ってたら、なかなか破滅しなくなった~
第5話 悪役王子、パーティー会場を静まり返らせる
第5話 悪役王子、パーティー会場を静まり返らせる
「皆、よくぞ集まった。今日は存分にパーティーを楽しむとよい」
父、国王の一言でパーティーに参加している貴族たちが一斉に乾杯する。
ついに始まってしまったパーティー。
俺は心を無にしてパーティー会場である大広間の隅っこで気配を消していた。
「エインス様、何故気配を消しているのですか」
「いきなり見つかったな」
声をかけてきたのはアイラだった。
ただし、今日はメイド服の代わりに青いドレスを身にまとっている。
新鮮だな。
まあ、アイラの父は官僚としてディストア城で働いている男爵だ。
このパーティーに参加する資格はある。
「一応、このパーティーはエインス様の婚約者を決めるためのものと窺っていますが」
「だからこそ気配を消してたんだ。父上は無理に決めなくていいって言ってたけど、それを知らない令嬢たちが群がってくるぞ。まるで死肉に群がるハエのように」
「なるほど。それだとエインス様が死肉になりますが」
それにしても、まさかいきなり見つかるとは。
と、ちょうどそのタイミングで貴族たちと談笑していたベルエールと目が合った。
隣には美人な婚約者を連れている。
うーむ、俺が魔王に乗っ取られたらあの仲睦まじい二人を引き裂く羽目になるわけだが、想像すると申し訳ないな……。
どうにかベルエールを殺さなくて済む方法も考えておきたいところだ。
「やあ、エインス。調子はどうだい? 気になる子は見つかった?」
ベルエールが話しかけてくる。
すると、その耳をベルエールの婚約者である金髪美女が引っ張った。
「痛い痛い、痛いよエリーゼ」
「無神経なベルエールが悪いのよ。よく見なさいな、エインスの隣にいる美少女を」
「いえ、私はそのような……」
「いいのよ、アイラちゃん!! 私は応援してるから!!」
何やら通じ合っているベルエールの婚約者、エリーゼとアイラ。
俺はベルエールと首を傾げた。
「あ、ところでエインス。一つ相談があって」
「何です? 気配の殺し方ですか? 絶を極めたら誰にでもできますよ」
「ゼツ? よく分からないけど、そうじゃなくて。前に僕に売ってくれたトイレを量産できないかい?」
ん? トイレ?
「実は前に友人に自慢したことがあってね。それを切っ掛けに話が広がってしまったようで、どうにか用意できないかって相談されてるんだ」
「あー、まあ、形はともかく『付与』がないと再現できないところありますからね」
「言い値で払うって言ってるから、どうにか用意できないかい?」
「言い値?」
「言い値」
そうか、言い値か。
俺は即座に決断して、ベルエールの肩にポンと手を置いた。
「一つ辺り金貨百枚で売ると言っておいてください」
「ひゃ、百枚? 僕の時よりもかなり高いね……」
「そりゃあ、ベルエール兄上は家族ですから。身内には安く売りますよ」
というか売値を高くしてターゲット層を絞らないと大変なことになる。
短い余生をトイレだけ作って生きるとか嫌だ。
俺の生活にはまだまだ改善したいところが山ほどあるからな。
まあ、資金稼ぎのために金持ちの貴族を狙っていきたいという思いもある。
ベルエールは第一王子だし、広告塔としては満点だな。
「分かったよ、僕から伝えておくね」
「よろしくお願いします」
商談が一つ終わったところで、パーティー会場がざわめいた。
「何かあったんですかね?」
「誰か来たみたいだね」
「誰かって誰です?」
「さあ? 今日のパーティーの参加者は全員揃っているはずだけど」
そう言って首を傾げるベルエール。
まさかこのお兄ちゃんはパーティーに参加している貴族を全員把握していると言うのだろうか。
「ん? あ、あれは!?」
そんなベルエールが大広間の入り口の方を見て目を瞬かせている。
俺も釣られて視線を向けた。
そこには俺とあまり年頃の変わらない少女が十数人の護衛と思わしき騎士を伴って歩いている。
あれは……。
「どうして聖国の聖女、ライザ様がここに……」
聖国の聖女、ライザ。
今はまだ幼いが、『ロイヤルクエスト』では一番人気の美少女に成長するヒロインだ。
純白の髪と黄金の瞳は控えめに言って神秘的で、幼いながら言葉では言い表せない色気を放っていた。
おお、ここで見られるとは思わなかったな。
魔王に身体を乗っ取られる前に一目見られたことは喜ぶべきだろうか。
「エリーゼ、少し挨拶に行ってくるよ。招待もしていないのにやってきた理由を問いたださないと」
あ、そうか。
考えてみたら今日のパーティーは国内の貴族、その中でも特に有力な者を中心に招いて開かれたものだ。
他国の、それも国のトップに近い人物がいきなり訪問してくるのはおかしい。
たしかに気になるな。
「気を付けてくださいまし、ベルエール。聖女ライザ様を守る聖騎士たちは過激で有名ですから……」
「うん、分かっているよ」
と、ベルエールがライザのいる方へ向かおうとしたちょうどその時。
ライザがこっちに向かってきた。
ザッザッと騎士たちも足音を鳴らしながらこちらに歩いてくる。
そのままライザはベルエールと向かい合う――
「え?」
ことはなかった。
ベルエールを無視して俺の前で足を止め、こちらをじっと見つめてきた。
「見つけたのです!! 貴方が第三王子、エインス様なのです?」
「え? あ、はい。そうなのです」
「では私と結婚してほしいのです!!」
その一言で騒がしかったパーティー会場がシンと静まり返った。
え?
「え、お断りしますのです」
「ええ!? 何故なのです!?」
「初対面で結婚して!! って言われてオッケーするわけないのです」
俺は至って当たり前の返事をし、更にパーティー会場を静まり返らせた。
―――――――――――――――――――――
あとがき
ワンポイント小話
作者「ベルエールとエインスは鈍感」
エ・ベ「「え?」」
「絶の使い手で草」「二人目のヒロイン!!」「兄弟で似てるなあ」と思った方は、感想、ブックマーク、★評価、レビューをよろしくお願いします。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます