第3話 悪役王子、ウォシュレットの停止ボタンを作り忘れる




 クラフトスキルを獲得した俺は、早速現代風トイレの開発に乗り出した。


 一応、水洗式トイレにする予定だが、この世界では下水道が整備されていない。


 だからウンチを一時的に溜めておくためのタンクを取り付けて、仮設トイレのような形にしようと思う。


 脱臭機能も搭載したら完璧だ。


 俺はまずアイラにお願いして用意してもらった鉄を捏ね回し、人が一人入れるくらいの小さな部屋を作る。


 その中に洋式トイレを作って固定した。



「あとはレバーを引くだけで水が流れるようにして……。あ、そだ。せっかくだしウォシュレットも付けちゃおっと」



 俺は水圧が強い方が好きなので、それも踏まえてウォシュレットを取り付ける。


 試行錯誤の末、丸々三日かけて完成させた。



「くっくっくっ、完成だ!!」


「……エインス様、これはトイレでしょうか?」


「ああ、そうだ。完璧な仕上がりだ。どれ、早速試して――」



 と、ちょうどそのタイミングで誰かが俺の部屋の扉をノックしてきた。



『エインス、いるかい?』


「っ、その声は……」



 俺の返事を待たず、扉をガチャッと開けたのは俺よりも幾つか年上に見える少年だった。


 金髪碧眼のイケメンだ。


 俺はこの人物のことをゲーム知識としても、エインスとしても知っている。


 彼の名前はベルエール・フォン・ディストア。


 エインスが魔王に操られて父親共々殺してしまう腹違いの兄、第一王子である。



「べ、ベルエール兄上……」


「やあ、エインス」


「ど、どうして兄上が俺の部屋に?」


「どうしてって、エインスがもう丸三日も部屋から出て来ないからじゃないか。勉強もサボっていると聞いたよ」



 ベルエール苦笑しながら言う。


 ご覧の通り、腹違いではあるが、ベルエールは弟想いな優しい兄である。


 くっ、何故かまだ殺していないのに罪悪感が!!



「ん? それはなんだい、エインス?」


「え? えーと、トイレです」


「トイレ? 何故トレイが部屋に?」


「作ったんです。自分で」


「え、トイレを作った? ど、どうしてだい?」



 そりゃまあ、ベルエールからしたら意味不明だわな。

 弟が三日も部屋に引きこもってトイレ作ってたわけだし。


 あ、そうだ。



「よかったら兄上、使います?」


「え? いや、今は別に催してないから――」


「まあまあ、そうおっしゃらずに。天国みたいな時間が待ってますよ」



 俺はベルエールをトイレに押し込み、扉を閉める。



『ええと、エインス。取り敢えずズボンを脱いで座ってみたけど……』


「あ、じゃあ右側にあるスイッチを押してみてください」


『スイッチ? これかな――はうあ!?』



 扉の向こう側から普段は聞かないようなベルエールの情けない声が聞こえてきた。


 ちょっと面白い。



『こ、これは、な、なるほど。たしかに布で拭くより清潔かも知れないね……ん? あれ?』



 しばらくして急にベルエールが静かになる。


 何か問題でもあったのかと思って、俺は扉をノックして反応を窺う。


 すると、思わぬ質問が返ってきた。



『ええと、エインス。これはどうやって止めるんだい?』


「……あっ」


『え? ちょ、エインス!? もしかしてこれ、止められないのかい!?』


「あー、えっと、すみません」



 うっかりしていた。停止ボタン、作ってないや。



「貯水タンクの水がなくなったら止まるので、それまでじっとしててください、兄上」


『ええ!? そ、それってどれくらいかかるんだい!?』


「ええと、大体三時間くらい、ですかね?」


『!? さ、三時間!?』


「水圧を最大にしたらもっと短く済むと思いますよ。最初に押したスイッチの横にあるダイヤルを回せば調節できます。ただ――」


『そ、そうか!! それはよかった!! 最大にすればいいんだね!?』



 俺が言い終わる前にベルエールはウォシュレットの勢いを最大にしてしまったのだろう。


 汚い声が聞こえてきた。



『んほあっ!? あっ、なん、これ!? んっ、なん、なんだ、この新しい感覚は!! 僕は知らないぞ!!』



 どうしよう。


 ウォシュレットで優しいベルエール兄上が新しい扉を開きそうになっている。


 今からでも中に突入して止めるべきだろうか。



「……ま、命に別状はないからいいよな!!」



 それから三時間後。


 貯水タンクの水がなくなってベルエールがトイレから出てきた。



「エインス、お願いだから止められるようにしてくれるかい?」


「……うっす」


「それと、その、一応これ、僕の分も作ってくれないかな? 言い値を払おう」


「え、まじっすか?」



 俺はベルエールから相応のお金をもらい、もう一つウォシュレット付きトイレを作成した。


 今度はしっかり停止ボタンも付けておいた。


 まだまだ改良の余地はあるが、ベルエールが欲するくらいには既存のトイレよりも遥かに快適だろう。


 さて、次は何を作ろうかな。


 ベルエールから大金も貰えたし、資金には少し余裕がある。


 この調子で俺の生活を快適なものにしていこう。











 そう思っていたのだが。



「ええ!? 婚約者選びのためにパーティーに出席しろ!?」


「う、うむ」



 俺は父、つまりはディストア王国の国王に呼び出され、面倒なイベントが迫っていることを知るのであった。







―――――――――――――――――――――

あとがき

ワンポイント小話


作者「作者は旅行先のトイレのウォシュレットの停止ボタンが故障していて三十分動けなかったことがあります。コンセントを抜くとウォシュレットは止まるので、そういう事態に遭遇した方は覚えておいてください」


エ「注意喚起してる……」



「お兄ちゃんが新しい扉開いてんの笑う」「トイレ買ってナニに使うんですかねぇ」「作者と同じ経験あるわ」と思った方は、感想、ブックマーク、★評価、レビューをよろしくお願いします。

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