第2話 悪役王子、クラフトスキルを習得する





「もう無理ッ!! アタイ耐えられないッ!!」


「……エインス様、急にどうなさいました?」



 俺は自室のベッドに寝転がり、発狂した。


 この『ロイヤルクエスト』の世界は色々と不便がすぎる。


 まずトイレだ。


 ウォシュレットどころかトイレットペーパーすら存在せず、布を洗って使い回している。

 しかも下水道整備もできていないのでぼっとん式トイレが当たり前。臭い。


 いやまあ、実際の中世ヨーロッパみたいに二階の窓からウンチぶん投げないだけ、多少マシではあるのかも知れないけど。


 きっと前世の記憶を思い出したせいだろう。


 今まで気にならなかったものが急に不便に感じられるようになってしまった。



「温かい水でお尻綺麗にしたい。カップラーメンが食べたい。お風呂に入りたい。アニメが見たい。漫画が読みたい。バイク乗り回したい。焼き肉食べたい。もっと快適な暮らしがしたーい」



 一つ不満を言うと、二つ三つと堪えていた不満が出てくる。


 この調子では楽しいことも楽しめない。


 悪役王子のエインスに転生してしまったことはいいが、せっかくの『ロイヤルクエスト』の世界を楽しめないのは辛すぎる。


 すると、俺が意気消沈している様を見てアイラが無表情のまま言った。



「エインス様が何をおっしゃっているのか、私にはよく分かりませんが……。お望みのものが手に入らないのであれば、作ってしまえばいいのでは?」


「何その『パンがないならケーキ食べればいいじゃん理論』は。そんなの無理に……決まって……」


「エインス様?」



 そうか。



「その手があったかッ!! 流石は俺の専属メイドッ!! アイラ、愛してるッ!!」


「っ、そ、そのようなお言葉は冗談でもおやめください」



 っと、今のは流石にセクハラだったか。


 でもまあ、アイラの何気ない一言が俺に希望を与えてくれたのは紛れもない事実。


 アイラの言う通り、無いなら作ればいいのだ。


 しかし、当然ながら前世は平凡な男だった俺に専門の知識や技術などない。


 できることは少ないだろう。


 でも、この『ロイヤルクエスト』の世界には日本にはなかった魔法やスキルのような特別な力がある。


 魔法は習得に時間がかかるから無理だが……。


 スキルなら、スキルブックというアイテムを使うことですぐに習得することができる。


 俺は駆け足でディストア城の一角にある書庫へ向かった。

 ゲーム本編ではあまり使われなかったスキルのスキルブックが、そこに眠っているのだ。



「エインス様、この書庫には古い本しか置いてありませんよ?」


「ところがどっこい、あるんだよね。書庫の隅っこにある本棚に収められている赤い背表紙の本を決められた順番に押すと――」



 ガチャン。


 という重厚な金属音と共に本棚が動き、隠されていた宝箱が現れる。



「うひょー!! あったあった!!」



 本当は終盤でクイズババアってキャラから与えられる謎を解かなきゃ手に入らないアイテムだが、俺はその答えを知っているからな。


 おっと、卑怯と言うなかれ。


 そもそもここで手に入るスキルブックは謎解きの難易度に対して全く使えないもの。

 RTA勢にはガン無視されてしまう可哀想なアイテム君なのだ。


 それを今必要としてい俺が有効活用してやるだけのこと。


 卑怯と言われる筋合いはないね!!


 俺は宝箱を開けて、中に入っていた一冊の本を手に取った。



「エインス様、それは?」


「クラフトスキルのスキルブックだ。武器とかアイテムとか、色々作れるようになるんだよ。これがあれば、俺のほしいものも作れるかも知れない!!」



 俺は早速スキルブックを開いた。


 1ページずつ捲り、その中身を丁寧に読み進めていく。


 すると、頭の中に次々と知識が入ってくる。


 まるで脳に直接知識を与えられているような、不思議な感覚だった。


 最後まで読み終えて、俺は静かに本を閉じる。



「よし、オッケー。これでスキルが使えるようになったはず!!」



 スキルは繰り返し使うことで熟練度が上がり、できることが増えて行く。


 今の俺にできることは二つ。


 一つは物体の形を粘土みたいに自由自在に変えられる『造形』と、それに何らかの性質を与える『付与』だ。


 ゲームのクラフトスキルは作れる物をリストから選ぶシステムだったが……。

 この世界が現実だからか、ゲームよりも扱いが難しそうに思える。


 しかし、何事も挑戦だ。実際にやってみよう。


 とはいえ、俺は作りたいものが多すぎてどれを作ろうか迷ってしまう。


 ここはアイラに協力してもらおう。



「アイラ、何かほしいものとかないか?」


「……ほしいもの、ですか?」



 アイラは即答した。



「お金です」


「そういう生々しいものじゃなくて。もっとこう、アクセサリーとかあるでしょ」


「……では指輪を」



 指輪、か。



「オッケー、指輪だな。っと、その前にまずは材料を調達しないと。そうだ、金貨でいいか」


「……その金貨をくださ――」


「駄目」


「貨幣を意図的に破壊するのも駄目ですよ」


「……バレなきゃ犯罪じゃないんだよ。ましてや俺、王子だから。セーフよ、セーフ」



 権力はこういう時のためにあるのだ。


 俺はアイラの刺すような視線に晒されながら、『造形』スキルを行使する。


 すると、俺の手が光り始めた。


 試しに金貨に触れてみると、ぐにゃっと粘土のように形を歪める。



「おお!! こんな感じなのか!!」


「……驚きました。そのようなスキルがあるのですね」



 いつも無表情なアイラも、これには目を瞬かせて驚いている。


 いや、隠し扉を見つけた時も驚いてたか?


 俺はそんなことを考えながら、爪と指の腹を使って金貨を指輪の形に整えていく。



「器用なものですね、エインス様」


「こういうの得意なのよ、俺。もっと褒めてくれていいのよ」


「ひゅーひゅー、流石ですエインス様すごーい」


「……無表情で言われると煽られてるみたいだからやっぱやめて」


「承知しました」



 そうこうしてるうちに指輪が完成した。



「できた!! ほら、俺からのプレゼントだ!!」


「……では、私の指に嵌めてください」


「え? あ、ああ、うん。分かった」



 アイラが手を差し出してきたので、俺は作った指輪を嵌めようとするが……。


 サイズが合わなかった。



「んー、ちょっと小さかったか。仕方ない、『造形』で微調整を――」


「いえ、左手の薬指なら入ると思います」


「え? お、ホントだ。いやー、入ってよかったよかった」



 ……ん? 左手の薬指?



「如何なさいましたか、エインス様?」


「あ、いや、なんでもない」



 俺の自意識過剰だよな。


 たまたま左手の薬指に指輪が嵌まりそうだったからアイラもそう言ったのだろう。


 とか考えていた、その時。


 いつも無表情なアイラが微かに笑ったような気がして……。



「ありがとうございます、エインス様。大切にしますね」


「お、おう」



 流石はヒロイン。顔面が百点満点すぎる。



「あ、そうだ。ちなみに『付与』も試していいか?」


「それはどういうスキルなのですか?」


「んーと、物に特定の効果を与えるんだよ。例えば『爆発』って性質を与えたら、爆破するようになる」


「……お断りします」


「え? いや、試しに――」


「絶対にお断りします」



 何故か断られてしまった。


 こうして俺は、余生を快適に暮らすための力を手に入れるのであった。







―――――――――――――――――――――

あとがき

ワンポイント小話


作者「エインスは感情が昂るとオネエ口調になる」


エインス「悪いか?」



「アイラが可愛すぎる」「自爆機能は草」「興奮するとオネエ口調になる奴いるいる」と思った方は、感想、ブックマーク、★評価、レビューをよろしくお願いします。

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