第6話

 その後は何事もなかったかのように授業となった。


 この学園の授業は『魔法学園』と名乗るだけあって魔法が中心となる。

 というか、貴族って子供の頃から家庭教師を付けられて基本的なことを学んでいるので、わざわざ学園で勉強する必要がないのだ。


 なら魔法も各家庭で学ばせればいいじゃんとは思うのだけど、どちらかというと『誰がどれだけの魔法を使えるのか国が把握・管理したい』というのが本音みたい。


 人間で使える者はほとんどいないけど、それでも上級の攻撃魔法なら地形を変えることだってできるものね。そんな『生きた兵器』は国が把握しておかなきゃいけないし、国防を考えればその『血』は大事に伝え残せるようにしなくちゃねってところなのでしょう。


 まぁ、とにかく。

 そんな授業の一環として。演習場で初級の攻撃魔法訓練が行われるようだった。


 なぁんか、今までよりもさらに注目されている気がする。

 魔族は人間を越える魔力巧者。

 いくら魔族に対する偏見が強いとはいえ、その『事実』は広まっているらしい。


 授業内容は得意属性の魔法を放ち、5メートルほど離れた的に当てるというもの。威力と同時に操作技術を確認したいのでしょう。


 ふっふっふっ、ここで物語のテンプレとしては『威力調整を間違えて演習場を吹き飛ばしちゃった♪』となるところなのでしょう。しかし! 私は魔王! そんな凡ミスはやらかさないのです!



『――よく失敗して各地を吹き飛ばしていましたからね。やっと威力調整という概念を学んでくださいましたか』



 私の肩に止まった小鳥の使い魔から宰相・ラーニャの声が聞こえてきた。

 そんな言われるほど各地を吹き飛ばしてなんかないわい。……たぶん、きっと、おそらくは。


 というか、そんなお小言を言うためにわざわざ使い魔を寄越したの?


『もちろん違います。魔法の授業ということは――例の『聖女』も魔法を使うのでしょう? 聖なる魔法とやらの魔族に対する優位性が本当かどうかは知りませんが、調査はしませんと』


 真面目なラーニャであった。彼女がこう・・だからこそ、私も安心して気を抜くことができるのだ。


『魔王なのですから常に緊張感を持ってください』


 ラーニャのお説教が始まりそうなタイミングで私の番になったので、魔紋を使うことなく・・・・・・攻撃魔法を発動。我ながら完璧な操作で攻撃魔法は的の中心を射貫いたのだった。



「なんだ、大したことないな」

「魔族といっても平民ではこの程度か」


「なんという精緻な魔力操作……」

「呪文詠唱無しで……。これが魔族の実力……」



 私への反応は面白いくらい真っ二つだった。むしろ魔族に対する偏見なしに評価してくれる人が意外と多かったのがビックリだ。目の前で起こった事象は否定できないってところだろうか?


 そして。

 とうとう『聖女』の番となった。


 聖女ちゃんは人間には珍しい銀髪だからね。銀髪は魔法の才能に優れるとされているし、きっと他を圧倒する威力をみせてくれるでしょう。


「――我願う。精霊よ。我が願いを聞き届けたまえ」


 聖女ちゃんが初級の炎系攻撃魔法の呪文を唱え始め、彼女の周りに高密度の魔力が渦巻き始めて――


 ――おん?


 これ、ヤバくない?


 聖女ちゃんの周りに展開した魔力と魔法陣を視た私は、冷や汗が吹き出した。なんか初級の呪文で発動できる規模の魔法陣じゃないんだけど?


 いや魔王である私的には何の問題もない。けれど、あの魔力密度であの魔法陣を発動したら……演習場くらい吹き飛ぶのでは?


 聖女ちゃんを中心として暴風――魔力風が吹き荒れる。膨大な魔力が大気にすら影響し、風を巻き起こす現象。あまり魔法の才能がない人でも『ヤバい』と気づける指針の一つだ。


「せ、生徒アリス! 演習を中断しなさい!」


 ヤバさに気づいたのだろう、教師が慌てた様子で聖女アリスを止めようとし、生徒の中でも魔法の腕がいい何人かが事態の深刻さを察したようだ。


 しかしアリスちゃんは止まらない。

 どうやら魔力が暴走状態にあり、飲まれて・・・・しまっているようだ。


 というか精霊に『我が願いを聞き届けたまえ』とお願いしたから、『よし、じゃあ悩みの原因であるイジメっ子を吹き飛ばしてあげよう!』と答えちゃったとか?


 精霊ってイタズラ好きな上に力加減ってものを知らないからねぇ。むしろそんな気分屋な精霊に気に入られているアリスちゃんは本物の『聖女』ということだろうか?


 さて、どうしよう?


 あのくらいの魔法なら私に直撃してもノーダメージだ。

 でも、人間が生身で喰らったら死人が出るわよね。


 アリスちゃんの術式に介入すると――う~ん、暴走状態だからアリスちゃん本人に悪影響が出るかも。ここは一発ぶっ放した・・・・・方がいいでしょう。ストレス発散にもなるだろうし。


「――術式介入エイン・グリフ


 魔紋を発動し、演習場の防護結界を書き換える。演習場の外へと魔法が飛散しないようにする結界を、生徒や先生を守る結界へと。


 自分で結界を張らないのは、結界とは基本的に自分中心に展開するものだから。つまりは私が張ったと第三者から丸わかりになってしまうのだ。


 この国の上層部には知らせているとはいえ、私は一応潜入調査中だからね。わざわざ注目を集める必要もない。


 あと、人間世界の結界(しかも貴族の子供を守る上級結界)の術式にも興味があったし。こういう緊急事態でもなければ堂々と干渉する = 調べることはできないもの。


『むしろそっちが主目的じゃないですか?』


 私をまるで魔法研究馬鹿みたいに言うの、止めてもらえません?


 まぁ、ともかく。


 アリスちゃんは気前よく攻撃魔法(威力的には中級~上級くらい?)を上空へとぶっ放し、演習場上空の雲は吹き飛んだ。


 もちろん魔・王・様♪ が結界を弄ったので生徒教師にケガ人はいない。我ながらいい仕事をしたものである。


『ここで調子に乗らなければ素直に褒められるのですけれどね』


 たまには素直に褒めてくれてもいいと思いまーす。





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