第4話 初日終了
その日は初日ということもあって授業はなく、入学式後は各教室で教師からの説明を聞いてから解散となった。
私はなんと王太子や聖女と同じクラス。『気を遣う生徒は同じクラスに押し込んでしまえ』という教師の思惑が透けて見える……というのは穿ち過ぎかしらね?
そんなこんなで、入学一日目の夜。
私は学園の寮の自室でベッドにダイブしていた。
この学園はほとんどの生徒が貴族ということもあり、寮も完全個室・メイドか執事の帯同O.K.という『もう寮生活の意味ないじゃん』という制度となっている。
まぁ、たとえ二人部屋とかでも、魔族である私は一人にさせられただろうけどね。なにせ『魔族は夜行性』だとか『動物の生き血を啜る』なぁんていう迷信が広く信じられているし。
一日学園で過ごしてみて。魔族に対する差別は予想以上だった。
廊下ですれ違おうものならこれ見よがしに距離を取られるし、陰口なんて当たり前。真正面から『汚らわしい魔族め!』と言われもしたし、奇異や敵意の視線は常時感じられた。
さすがに刃傷沙汰はなかったけれど、もしも
しっかしまぁ、入学式だけでこれなのだから、本格的な授業が始まったらどうなることやら。
「これは、無理かしらねぇ?」
私が思わずつぶやくと、
『――おや、諦めますか? こちらとしてはその方が助かりますが』
いつの間にやら現れた宰相・ラーニャがどこか嬉しそうな声を掛けてきた。彼女としては私が魔王城にいる方が仕事がやりやすいのでしょう。
もちろんラーニャ本人が学園までやって来たのではなく、霧を用いた幻影魔術だ。吸血鬼だからか霧を操るのもお手の物らしい。
「いや私は諦めないわよ。最初は虐められていた女の子がその健気さで段々と周りに認められていって――というのは学園ドラマでありがちな展開だし」
『はぁ、その『学園どらま』とやらはよく分かりませんが……あなた神経図太すぎじゃないですか?』
魔王相手に真正面からそんな物言いをしてくるラーニャも大概じゃない?
まぁ幼なじみだからと許しちゃう私も悪いんだろうけど。
「それはともかく。無理というのは他の魔族の入学よ。私は別にいいんだけど、これほど差別されているとねぇ……。まさかここまで排他的だとは思わなかったわ」
『人と魔族はつい最近まで戦争していたのですから仕方ないのでは? 貴族であれば親や親戚が戦死した方もいるでしょうし』
この世界の貴族って要は自分の領地の兵を率いる指揮官だからね。もちろん最前線に立つのは平民だけど、戦場にいるのだから貴族の戦死率も高くなると。
前世の中世なら身代金のために捕虜にして――という展開を期待できるけど、ちょっと前までの人間と魔族は絶滅戦争をしていたようなものだからね。そんな甘い期待は抱けなかったのだ。
人間と魔族。
お互いがお互いを憎み合う負の連鎖。
いやほんと、そんな戦争を収めて人間と友好な関係を築いてみせた私、すごくない? ラーニャももっと褒めてくれてもいいのよ?
『そういうところがなければ、素直に褒められるのですけどね』
解せぬ。
私はフレンドリーな魔王を目指しているのになぁと考えていると、ラーニャが小さくため息をついた。
『しかし、王太子も変わっていますね。あの腹黒の息子とは信じられませんよ』
どうやら使い魔を通じて入学式の様子も見ていたらしい。
ちなみにラーニャの言う『腹黒』とはもちろんこの国の国王だ。黒いというか真っ黒というかブラックホールというか。
『そもそも、身分制度の頂点に立つ彼が平等を謳うとか何の冗談でしょうか?』
「けっこうな理想主義者というか、現実が見えてないというか……。まぁ、学園に入学したってことはまだ15歳だものね。これからの成長に期待しましょう」
『……そういうところです』
いや、どういうことよ?
『そうやって人の悪口に乗らず、逆に良いところを探そうとするからダメなのです』
なぜ批判されているのかしら私?
『そんなだから『今代の魔王は節操なし』だとか『男・女関係なしに手を出すから気をつけろ』と言われてしまうのですよ』
初耳なんだけどその評価!? 私がいつ誰に手を出した!?
その理不尽な噂について問い糾そうとすると、ラーニャの姿はまさしく霧のようにかき消えてしまったのだった。
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悪役魔王(♀)はのんびり学園ライフを送りたい ~私が悪役とか聞いてないんですけど!?~ 九條葉月 @kujouhaduki
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