第3話 王太子の挨拶
なんだかイケメン過ぎて逆に現実味のない王子様だった。乙女ゲームとかに出てきそうなパーフェクト・イッケメーン。
以前に会ったのは和平交渉の時だから――三年くらい前か。あの頃はまだ少年のあどけなさが残っていたのだけれども……。いやぁ、立派なイケメンに育ったものだわー。
見る者の視線を独占する金糸の髪は室内だというのに柔風に揺れている。現場仕事をする機会などないのだろう、肌は日に焼けることなく真っ白。コバルトブルーの瞳は宝石のよう、という表現は陳腐すぎるだろうか?
ともかく、前世、今世を見渡してみても圧倒的な美少年であった。う~ん、さっきの聖女と結婚したら世紀の美男美女カップルになりそうな。絶対眼福なので結婚式には呼んでほしいところ。
そんなイケメン王太子は懐の中から折りたたまれた紙を取りだし、壇上で広げた。たぶん秘書とかが準備した挨拶文が書かれているのでしょう。
私も『魔王』として各地での挨拶というか演説をすることが多いからね。読み上げ力はそこそこのものだという自負がある。
ちなみにああいう演説文を自分で用意することはない。
面倒くさいから――という訳ではもちろんなく。もしも使い回しの演説をしてしまうと『魔王から軽んじられている!』と思われてしまうし、種族によって好みの言い回しとかタブーとかがあるからね。最初から専門家に任せてしまった方がいいのだ。
王太子の挨拶文も専門家が用意したものらしく。なんというか当たり障りのない内容だった。
まずは学園に入学できた喜びを述べ、将来の目標を語り、その目標を実現するためにはこの学園でどう過ごすべきか誓いを立てる。なんとも代わり映えのしない――ごほんごほん、万民がお手本にするべき挨拶であった。
と、挨拶が終わったのか王太子が紙を折りたたんで懐に戻す。
しかし、彼は壇上から降りなかった。
「……かつての賢王ライフィールドによって、この学園は『学徒としての立場は平等』として設立された。この学園においては高位貴族も、下位貴族も、あるいは平民も。学徒として等しい立場にある」
いや、まぁ、そりゃあ理想としてはそうなんでしょうけど。実際は無理な話では? この世界には確固たる身分制度が存在していて。学園卒業後の方が人生は長いのだ。
だというのに平民や下級貴族が高位貴族相手に『俺らは平等だぜ! ウェーイ!』なんてこと、できるはずがない。卒業後の報復が怖すぎて。
私も転生直後は身分制度というものが理解できなくて色々失敗したけれど、だからこそ分かる。彼の思想は周りからの反発を買うだろうと。
私の予想は正しいらしく、生徒だけではなく教師の間にもざわめきが広まっていた。もちろん『王太子』が相手だから声高に批判するようなことはしないけど。いくつか厳しい目が向けられている。
そんな反応に負けることなく、王太子は宣言した。
「今年、平民である聖女や『魔族』の少女が入学してきた。貴族である皆には思うところがあるだろうが、どうか同じ学舎で学ぶ者として寛大な心で接してやって欲しい」
…………。
魔族の少女。
つまり、私のことである。
うわぁ、巻き込まれた。
それが私の正直な感想であった。
※お読みいただきありがとうございます。面白い、もっと先を読みたいなど感じられましたら、ブックマーク・評価などで応援していただけると作者の励みになります! よろしくお願いします!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます