鎌倉の大仏を見に行ったけれどスマホを家に忘れた

ふさふさしっぽ

本文

 最近気分がくさくさすることが多くなり、ここはひとつ、一人で大仏でも見に行って、心に余裕を取り戻そうと思いました。

 私は「鎌倉の大仏」を日帰りで見ることができる場所に住んでいるので、好都合です。思い立ったらすぐ行けます。


 まず、小田急線「藤沢」駅へ。そこから江ノ電(江の島電鉄)に乗って、大仏があるお寺の最寄りの駅に行き、大仏を見に行きます。

 事前にルートはネットで調べましたが、酔っ払いながらだし、そこまで真剣に頭に入れていませんでした。

 そんな入念に計画を立てなくても、今は「スマートフォン」という、文明の利器がある時代。何とかなると思っていました。

 当日、スマートフォンを家に忘れているのに気がついても、私はまだなんとかなると思っていました。

 いつも当たり前のようにあるなにかがない、という不安はつきまといましたが、取りに戻るのも面倒くさく、一人の日帰りお気楽旅にスマートフォンは不要でしょう。


 写真を撮れなくなってしまったのが残念ですが、写真でお伝え出来ない分は文章でお伝えいたしますので、読者様の想像力で「鎌倉の大仏」を再生していただけたらと思います。


 ★電車の中で暇?


 自分ではスマートフォンを持っているつもりだったので、読書用の本を持っておらず、電車の中ではうとうとするか、景色を眺めるのみ。退屈かと思いきや、江ノ電は普通の街中を走ったり、海岸沿いを走ったりするので、外を見ていて飽きなかったです。

 電車の窓からちょっと手を伸ばすと確実に手が複雑骨折するであろうくらい、住宅のスレスレを通ります。外から見ると一体どんな感じなのか途中下車したくなりますが、お寺の閉門時間があるので、あきらめました。

 そう、突然思い立っての大仏なので、もう午後なのです。お寺の閉門時間が何時なのかは分かりませんが(スマートフォンがあれば分かる)季節が秋~冬なので、もしかしたら夕方4時ごろかも知れないと推測し、急ぎます。このとき私は鎌倉の大仏だけ見て、心穏やかになり、どこかで食事して帰って来ようと思っていました。じっくり観光するのはまた今度で。


 ★降りる駅に自信がない


 江の島駅を過ぎ、世界の果てまで続いていそうな太平洋の海を眺めながら「そういえば、降りる駅って、長谷駅でいいんだったよな?」と不安にかられました。極楽寺駅だっけ? どっちだっけ。スマホがあればすぐわかるんですが。間違えたら時間をロスしてしまう。お寺が閉まってしまうかも。自分の記憶力を信じて「長谷駅」で下車。合っています。鎌倉の大仏は「長谷駅」。もう忘れません。


 ★お寺を間違える


 今回の旅で一番慌てたのが、大仏のあるお寺がわからなかったこと。「大仏があるであろうお寺に近い改札」から駅を出ることはできたのですが(大仏こっちって書いてあったから)そこからがわからない。

 時刻は午後三時半くらいだったのですが、まだまだ人の多いこと、多いこと。さすが観光地。目的地に向かう人と、帰っていく人が入り乱れている。とにかく人の流れと一緒の方向に歩いていると「長谷寺」というお寺が見えてきました。


 あ、ここか、大仏。と、私は思いました。違うんですけど。


「あら、こっちじゃないわよ」


 どこかから、女性の声がします。もちろん、私に言っているんじゃなくて、連れに言っている様子。


 え? こっちじゃないって、何が? 大仏が? やっぱり大仏は「長谷寺」じゃないの? でもみんな長谷寺に向かってるし。うん、こっちでしょ!


 私は一抹の……いや、結構な不安を抱きながら長谷寺への道を歩みました。私が小心者ではなく、大胆者だったら道行く人に「長谷寺に大仏はありますか」と聞けるのに。というか、スマホがあればな。


 長谷寺の案内板? みたいなのを見ても、まだ私は「ここに大仏はいない」ということに確信が持てない。おばかな私は、長谷寺の本堂(観音堂)に大仏様がいらっしゃるのかも、とか思っていました。

 拝観料大人400円に疑念をいだく。

 パソコンで事前に調べたときは300円だった気がする。

 その前に寺院の名前をしっかり覚えろよ、と自分を叱りながら、結局、長谷寺に入場したのでした。


「ここに大仏はない」


 長谷寺内をめぐりながら、私はもしやと思っていた疑念をやっと確信に変えました。どうしよう。このままでは大仏があるお寺の方が閉門してしまう。大仏があるお寺が何時に閉門なのか、今の私に知るすべはない。ついでに大仏があるお寺の名前も場所も分かっていない。

 気持ちは焦るけれど、拝観料を払ったし、せっかく来たんだから、という思いで、すべての場所を巡ります。まわりの人々は穏やかに、和みながら、じっくりと見て回っているけれど、私には時間がありません。

 大仏はあきらめて長谷寺を堪能するか、長谷寺をすぐに出て確実に大仏を見るという行動ができない中途半端な人間が私です。

 次に来たときはじっくりと見させてもらいますね。

 弁天窟はほとんど屈んで歩かなければならず腰が痛い、和み地蔵が可愛かった、というのが、今回長谷寺での私の感想です。


 ★いざ大仏に会いに行こう


 長谷寺をあとにし、私は大仏を目指して別の道を行きました。この道もけっこうな人の数です。人の流れから見て、この先に大仏があるんじゃないかと見当をつけました。この先に大仏がなかったらもう出直しです。

 話はそれますが、小田急藤沢駅からJR東海道本線でひとつ行くと「大船駅」にたどり着き、大船駅からは「大船観音寺」の「白衣観音像」を見ることができます。真っ白な、大きな観音様が駅からばーんと、見えるのです。

 私は鎌倉の大仏様もこんなふうに歩いていればどっかに見えるんじゃないかと思っていたんですが、歩けど歩けど見えてこない。

 一抹の不安を抱え、どこか陽気に見える外国人観光客と何度もすれ違いながら、そして私はついに、鎌倉の大仏に会うことができました!


 ★やっと会えた


 鎌倉の大仏様に会えるのは「高徳院」でした。そういえばそうだったな、とネットで調べたことを、今更ながら思い出します。

 拝観料を払い(やっぱり300円だった)、いそいそと中に入ると、案外すぐそこに、おりました、大仏様! 会いたかったですよ、貴方に会うのが今日の目的だったのですよ。


「おお、これが鎌倉の大仏か」


 すごく圧倒されるとかではありませんでしたが、やはりちょっとした感動の心が沸き上がってきます。入場の時にもらった拝観券によると、1252年から十年前後をかけて造立されたらしいです。誰がなぜ造ったかは明確には分かっていないようです。謎に包まれた大仏様ですね。


 その大仏様のお姿を言葉で表すのは難しいのですが、なにせ写真がないので言葉で表します。

 表情は穏やかで、余裕のオーラを感じさせます。安心感が芽生えるというか。くさくさした気分が消えていきます。

 その全体の大きさもそうですが、時の流れを感じさせる錆び具合がいい。1334年と1369年の大風で仏殿が損壊(拝観券より)した影響でのざらしになってしまった大仏様は不満かも知れませんが、それが美しく、じっくり見れば見るほどその歴史をしみじみと感じます。

 大勢の方がスマホで撮影している中、大仏に近づいて見上げてみるのがおすすめです。正面左右、見上げました! なんだかさらに大きく感じます。しかし威圧感はなく、その泰然とした御姿にこちらの心も落ち着きます。

 背中側にまわると、二つの小窓みたいなのが背にあいています。なんだろう、これ。背中側の写真を撮っている人はひとりもいませんでした。


 大仏を見れば見るほど自分が下らない人間に思えてくるのは大仏様が偉大だからでしょうか。これが大仏パワー?


 大仏様を堪能し、とげとげしかった心を洗うと、そろそろ閉門時間。「夕焼小焼」が流れます。

 戦後子供たちによって奉納されたという大きな藁草履を見て、帰ります。


 ちょっと残念だったのが……トイレ。

 お世辞にもきれいではない。トイレ清掃が行き届いていないのではなく、使う方のモラルが……。毎日これ掃除しているのかな、お寺の方は大変だ。せっかく大仏様に会いに来たのだから、他者のことを考えて、きれいに使いたいものですね。


 ★スマホがなくても


 途中焦る場面はありましたが、スマホがなくてもなんとかなりました。

 情報がとれないのと、私は腕時計をしない質なので、時間がわからないのに困りましたが、観光地は人の流れがあるから、人の流れに沿って行けばなんとかなる。

 ただこれからはキャッシュレス化が進み、スマホがないのは財布がないのと同じこととなり、スマホはなくてはならない存在になるでしょうね。

 写真がないので、文章で鎌倉の大仏について思い出しながら色々書きましたが、実際ははじめて大仏様を見たときの気持ちは文章にうまく表せません。

 鎌倉に行く機会がありましたら、是非鎌倉の大仏を見てくださいね。鎌倉の大仏は「高徳院」! 長谷寺ではありませんよ、お忘れなく。



 おわり。

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