第9話 あれ?なんか思ってたのと違うくないか?

 ヤバイ!!

 俺はとっさにその場をよけようとした。

 あまりにとっさの出来事だったためつい、足元に力を入れてしまった。

 すると、ずるりと足が滑った。

 ダンジョンの地面がきれいに爆ぜてしまったからだ。

 俺の足は空を蹴り、その場で転びそうになった。

 胸元にはリリー必死に捕まっている。

 このまま転べばリリーが下敷きになってしまう。

 それは無我夢中で身体をひねり、背中から落下した。

 すると今度はその背中の衝撃が地面に伝わり、見事にクレーターが出来上がった。

 

 またこのパターンかよ!!


「んな⁈地面がないだと!?」


 それに驚いたのはボスオオカミだった。

 俺に飛びかかろうとしたのに、着地する地面が突如消失してしまったからだ。

 ボスオオカミは俺が造ったクレーターに向かって転げ落ちてきた。

 その先には俺がいる……

 どう見ても正面衝突待ったなしだ。


「ええいままよ!!」


 俺は自分の身体に意識を向けて、地面に手をついてグイっと身体を持ち上げた。

 その反動で身体は宙に浮き、なんとか正面衝突を回避できた。

 着地も意識をしたおかげで、クレーターをさらに深くすることなく旨く行った。


 マジあのまま激突していたら、この辺血だらけだっただろうな……

 しかもあのボスオオカミの内臓ぶちまけて……

 想像しただけでもグロテスクな状況に、一瞬こみ上げてくるものがあったが、何とか耐えきった。


「リリー大丈夫だったか?」

「何とか……って、ダンジョンボスは⁈」


 リリーが慌てて俺のポケットから飛び出すと、周囲を確認した。

 俺もおそらくボスオオカミがいる方向に視線を向けると、信じられない光景が飛び込んできた。



 ボスオオカミが腹を天井に向けて、潤んだ瞳で俺を見つめてきたのだ。


「こ、降参する!!」


 えっと、どういう状況?

 俺一切ボスオオカミに攻撃していないんだけど?

 むしろこのボス部屋に入ってから攻撃らしい攻撃一切してなかったと思うんだが……


「この不壊と言われる地面に穴をあける人物と戦えるわけがないだろう!!」


 あぁ~、確かに普通は壊れないってリリーも言ってたっけ……

 え?じゃあ、この状況って……


「なぁ、リリー。これってどうしたらいいわけ?」

「ダンジョンボスを討伐しないとクリアしたことにならないわよ?」


 マジか……

 このどう見ても腹天決めてるボスオオカミ……もう大きなワンコにしか見えないな……を殺さなくちゃならないのか……

 やめなさい、そんな潤んだ瞳で見るんじゃない!!

 あぁ~でも、あの毛並み……モフりたい。

 あのしっぽに包まれて眠りたい。

 ヤバいな、誘惑に負けそうだ。


「えっと、お前を倒さないと俺たち先に進めないんだが、他に何か手段はないのか?」

「そ、それなら我をしもべにしてくれ!!そうすれば討伐とみなされるはずだ!!」


 おう、これがあれか、テイムってやつか。

 って、俺そんなスキルもってないんだが?


 俺は困ってリリーに視線を向けると、リリーも困っていた。

 そのどうしようって困った顔もまたかわいいんだが、それを言えば調子に乗るから絶対言わないでおこう。


「じゃあ、そのやり方を教えてくれないか?」

「ほ、本当か!!」


 目をキラキラとさせたボスオオカミは俺の前に座ると、右手を差し出してきた。

 これ……完全にお手だよな?


「主殿の手の上に我の手を乗せて、従えと念じれば我に伝わり、それを我が承認すれば契約は成立する。」

「なるほどね、じゃあ、我に従え!!」


 俺の言葉に反応したかのように、俺とボスオオカミが光に包まれた。

 それから何か知らないけど、俺の心臓付近から光の糸みたいなのが出てきて、それがボスオオカミの首に絡みついていった。

 で、なぜか知らないけど、それが首輪みたいになった。

 うん、ファンタジー。


 それから徐々に光が収まった。

 どうやら契約は完了したらしい。


「ではこれからよろしくお願いするぞ。我が主よ。」

「えっと、よろしく?ところでお前名前はあるのか?」


 そう、それが問題なんだよ。

 俺名前つけるの苦手なんだよな……


「我には名はない……主殿につけてもらいたいのだが……」


 ですよねぇ~

 知ってた。

 定番だもの。

 やばい、マジで困ったぞ。

 さすがにポチはだめだろ?

 タマ……は猫だし……

 太郎!!……はさすがにね……

 

「ん?そう言えばお前の性別ってなんだ?種族もよくよく考えると聞いてなかったな。」

「ん?我は天狼族の銀色種……フェンリル。性別などありはしない。」


 フェンリルっとあれじゃん!!

 伝説級の魔獣って設定が基本のヤバい奴じゃん!!

 なんでそんなんが俺に腹見せてんだよ!!

 こいつ街に連れて行ったら絶対ヤバい奴だろ?


 俺はチラリとリリーに視線を向けると、そっと視線を外された。

 お前マジでどうにかしてくれよこの状況!!


「フェンリルね……フェンリル……フェン……リル……もうリルでいいよな?」

「なんと投げやりな……でもまぁ、良い名だ。我は今よりリルと名乗ろう!!」


 うん、気に入ってくれて何よりだ。

 名前も決まったし次はダンジョンの最奥に向かうとしますかね。

 そこに行けば俺もやっと目的の手加減系のスキルが手に入るはず!!


 そんなこんなしていると、億の方で何かが動く音が聞こえる。

 行先は……2つ?


「リリー、なんか2択になってるんだけど、どういうこと?」

「ごめん……私も知らない……リルは知ってる?」


 なんと神様リリーも知らないことってあるんだな?

 此処の主だったリルは知っているといいんだけど・


「すまぬ……我も知らないことだ。あの奥の扉はダンジョンコアと転移陣がある部屋に繋がっている。しかしあの下り階段は知らない。」


 とりあえず、さっさとスキルをもらいたいからこのまま扉に進んだ方が無難だろうな。

 そうして俺はそのまま扉に向かったのだった。

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