第8話 ダンジョンボス戦?

「死んでくれるなよ……人間!!」


 その言葉を皮切りに一斉にオオカミたちは俺に向かって突進してきた。

 それぞれが連携を意識しているのか、俺の視線の隙間を縫うようにして接近してきた。

 さすがにこのまま喰らってやるいわれはないので、俺はゆっくりと移動する。

 それはもう丁寧に。

 するとどうだろうか、俺の位置を見失ったかのように一瞬動きが止まったように見えた。


「なんだその動きは!!我にも追えない動きだと⁈」


 え?そんなはずないよな……

 俺ものすごくゆっくりと動いているんだけど。

 

 俺は危なくないように胸ポケットに入るように言っていたリリーに視線を向ける。

 リリーはそれに気が付いているはずだけど、何も言わなかった。

 

「ちょっと動いただけで大げさすぎるだろ?あれか、俺をおだてて隙をつこうって腹積もりだろ?そんな手には乗らんぞ!!」


 そのくらい戦闘ど素人の俺だってわかる話だ。

 たださすがにこのまま避け続けても埒が明かなそうだな。

 そうだ、途中で拾った剣でも使ってみるか。


 そう思った俺はダンジョンに入ってからリリーに教えてもらった、インベントリなるモノを意識する。

 すると頭の中にそのインベントリに収納されているであろう物が映し出された。

 その中にあった剣に意識を向けると、俺の手にはその剣が握られていた。


「それなりに使えそうなものってこれくらいだしな。とりあえず呪われていても状態異常にはならないって話だから、使っても問題ないだろうな。」


 そう言って俺は剣を2回3回振ってみる。

 ぶんぶんと良い感じの風切り音が聞こえて正面を見てみると、切り裂かれたような黒いオオカミがいたるところに転がっていた。

 え?いったい誰がやったの?って思ってたら、リリーにジト目で見られてしまった。

 だって手ごたえ全くなかったよ?


「き、貴様!!何やつだ!!まさか……勇者だとでもいうのか!?」


 え?なんでそんなに驚くのさ。

 俺はただ剣を試し振りしただけなんだけど……ってリリーさんや……どうして現実逃避しているのかな?

 ちゃんと剣が折れないようにゆっくりと優しぃ~く振ってるぞ?

 だからこうして剣はおれずに……

 折れずに……

 うん、折れてない……けどきれいに曲がってた……

 持ち手は……つぶれてるなこれ……

 ちゃんと俺の右手のあとが残ってる。


「たった数振りで魔剣を破損させるなど人間業じゃない!!貴様は勇者をも超える存在だとでもいうのか!?ええい!!こうなれば!!一気に畳みかけるのだ!!」


 焦った様子のボスが子分たちにはっぱをかけていた。

 黒いオオカミたちに若干の焦りと困惑が見て取れたけど、自分のボスからの命令とあらば従うしかないのだろうか。

 ここでもブラック企業の匂いがしてきてやるせなくなってしまった。

 とりあえず、この剣は使い物にならなそうなので、ついでとばかりにオオカミたちに向かって軽く投げてみた。


 投げた剣はブオンっという音を立ててオオカミたちが集まっている場所に飛んでいった。

 その後直ぐに爆発音と暴風が俺を襲う。

 黙々と土煙が周囲を覆い……しばらくするとその土煙は落ち着きを見せた。

 そしてそこにあったのは、さっきまでなかった窪地……


 中心地にはなんかよく分からないオブジェのようなものがあった。

 よく見るとさっき投げた剣の残骸というかなんというか。

 まあ、それがあった。


 黒いオオカミはと言うと……一匹も残ってなかった。


 ボスオオカミは開いた口がふさがらないとばかりに大きな口を開けて目を見開いていた。


「ば、ば、バカな……こやつらは最強種の一角、黒狼族の中でもさらに希少種である、黒天狼族だぞ!!それを一撃で屠るなどありえん!!ありえんのだ!!」


 ボスオオカミは口から唾をまき散らしながら、何かしゃべっているけどとりあえず、最強最強言う割に、姿かたちがないのだが……

 もしかして怖くなって逃げたとか?

 まいっか、後はボスオオカミだけだな。


 俺はゆっくりとボスオオカミに近づく。

 だって走ると止まるとき大変だからさ。

 そっと、優しく、静かに歩みを進めていく。


「く、来る出ない!!それ以上近づけば容赦はせんぞ!!」


 そう言うと、ボスオオカミはスクリと立ち上がり、一足飛びで後方へ飛びのいた。

 その後は警戒態勢と言わんばかりに前身の銀毛を逆立てて、牙を剥きだしに唸りだした。

 前傾姿勢で今にもとびかかってきそうなボスオオカミ。

 さすがにそれは怖いな。

 威圧感というかよくわからないオーラが漂って……いるのか?

 なんか慣れてきたかもしれない。


 むしろかわいいとさえ思えてきた……

 あの毛並み……あのモフモフ……さ、触ってもいいかな?


 俺がそんなことを考えていると、ボスオオカミがブルブルと身震いをしていた。

 若干腰が引けているようだし、徐々に後退りもしていた。


 俺はじわりじわりとその距離を詰めていく。


「来るな!!来るでない!!」

「ほぉ~ら、怖くない怖くないよぉ~」


 完全に野良犬に近づく動物好き人間の行動だな。


 そして一進一退の攻防?も終わりを告げる。

 ボスオオカミはついに壁際まで追いつめられていた。


「くそ!!かくなるうえは!!」


 ボスオオカミは覚悟を決めたように目に炎が宿って様だった。

 ギラリと目を光らせると、一気に駆け出し俺に飛びかかってきた。

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