第1章:初任務編
第5話:補佐と幹部たち
僕が
朝起きたら、枕元の机に見慣れぬ手紙が置いてあった。そこには
【今日の正午、集まるように】
と組織の紋章が添えられていた。
僕はまだ家の場所も教えていないし、窓の鍵も閉まっていてどこから侵入したのか見当もつかない。諜報力という、組織の力の一端を見せつけられたようだった――
拠点に着くと、いつものように使用人の女性が待っていた。
彼女はエリシア。ミディアムヘアの茶髪に包み込むような笑顔が魅力の女性で、年齢は20歳。
数年前、両親を亡くし、行き場のないところを拾われたらしい。
彼女の先導でたどり着いたのは、ある一室。そこには、必要最低限の家具が置かれているだけだった。部屋を見渡していると、机の上に書き置きのメモが置いてあった。
【ここがこれからお前の部屋となる。好きに使ってくれ。 ソフィア】
なるほど、
メモを置こうとすると、まだ下のほうに何か書いているようだ。
【追伸
エリシアがお前の補佐をしたいと言ってきた。解説役としてもちょうどいいから使
ってやってくれ】
「は?」
思わず出てしまった声とともに、僕は驚きエリシアのほうに振り向いた。彼女はいつもの微笑みをうかべている。
「改めまして、リオ様。これからしばらく、補佐としてお世話させていただきます。」
控えめながらも美しい声。エリシアは、すっと僕に向かって丁寧に礼をした。
「……補佐? なんで僕にそんなのが必要なんだよ。」
思わず強い口調になってしまう。だってまだ任務の一つもやっていないのだ。自分の力で頑張っていくと決めた矢先に、すぐに認められることではなかった。
「あなたの任務は次第に重要で難しいものになっていくでしょう。私がいれば少しは楽することができますよ。」
「いや、僕は……一人の方が気楽だし……」
「お一人で頑張るのも素晴らしいですが、補佐がいれば報告書作成や作戦準備の負担が軽くなります。それに、私は戦闘には不向きですが、情報収集や諜報活動、あるいは解説役としてお役に立てるかと。」
エリシアはすらすらと述べる。その堂々とした物言いには、謙虚さと確かな自信が同居していた。
この組織の長であるソフィアが決めたことだ。僕が不満を言うことはできない。
そういうことにして、僕は仕方なく応じることにした。
「わかったよ。じゃあ、何でも好きにしてくれ。」
「ありがとうございます、リオ様。」
エリシアはいつもと変わらない微笑みを浮かべるのだった。
♦
部屋一通りを見た後、僕はエリシアの案内に続き廊下を歩いていた。
「これから何があるの?」
「この後は幹部の皆様との顔合わせ、その後、ボスとの会合があります。」
幹部………僕が主命官に任命された時にいたあの三人か。僕が自分たちより高い地位に就くのを気に入っていなさそうだったからなぁ………。正直気が重い。
どうしようかと頭を悩ませていたら、前を歩くエリシアの足が止まる。
「こちらです。」
彼女は道を開けるように扉の横へと立つ。
ここは彼らと初めて会った会議室。まぶたを閉じ心を落ち着けようとするも、まぶたの裏に厳しい目を向ける幹部たちの顔が見える。
「よし。」
気合を入れ直すと、ゆっくりと、かつ慎重に扉を開けて中に入った。
扉の中には、既に三人の幹部が待っていた。空気が張り詰め、沈黙が場を支配していた。僕はエリシアの案内で、彼らより上座の席へ。音を立てぬよう、恐る恐る椅子に座る。しばらく沈黙が続いた。三人の幹部たちはそれぞれ異なる視線を向けてきている。エリシアも控えめに立っており、気配を消している。
「あなた、本当に主命官に任命されたのよね?人違いではなくて?」
赤い豪華なドレスにを身にまとう、長い黒髪の美女が、こちらを見下すように目で煽りながら言う。
後ろに立つエリシアが小声で耳打ちしてくる。
「彼女はリリィ様。外交や交渉を担当されております。表ではさる上級貴族の令嬢として、様々な方と関係を築いていらっしゃるとか。」
「まぁソフィアのことだ、そんな馬鹿なことはしないだろうよ。」
金の装飾が施されたスーツを着る白髪交じりの男がこちらに挑戦的な目を向けながら言った。
「あの方はダンテ様。財務を担当されている方です。組織に古くからおり、ソフィア様のことをよく知っておいでです。また、表でも大商人として顔が立ちます。」
「実力さえ見せてくればそれでいいだろう。」
黒い軍服姿の美男子が、鋭い目でこちらを見定めるように見ながら言う。
「彼はロベルト様。諜報と戦闘を担当されています。表では天才参謀として名をはせた時期もあるそうです。」
大物ばかりじゃないか!底辺貴族の僕が、そんな人たちの上に立てと!?
緊張でまともに話すことも動くこともできず、ただ逃げるように目の前の机を見る。
沈黙が再び場を支配する。幹部たちの視線が突き刺さり、額に汗が滲む。
どれだけの時間がたっただろうか。扉の開く音がした。
「待たせたようだな。」
開かれた扉の先には、この組織のボス―ソフィアが立っていた。
彼女は部屋に入ると、堂々と最上座の席に腰掛ける。
そんな彼女を目で追っていると、彼女と目が合った。
「さて、幹部の皆とは仲良くできそうかな?」
仲良くどころではなく、敵視されている感じなんだが………
そんなこと言えるわけもなく彼女から目をそらすと、フフッと笑い声がした。
「皆、お前が本当に組織の役に立つのか疑っているのだよ。お前が実力を示すことが出来れば、幹部たちにも多少は認めてもらえるだろう。」
やっぱりこのままじゃダメなんだ。僕を取り立ててくれた彼女のためにも、役に立って幹部たちに必要と認めてもらわなければならない。内に秘める決意が固まっていくのを感じる。
「さて、そんなわけだ―――リオ。」
彼女の纏う空気が変わった。張り詰めたような緊張感に背筋が伸びる。
「お前に任務を与える。無事に完遂し、私たちの役に立つことを示せ。」
「お前に与える任務、それは―――」
彼女の口から、僕のこれからを決めるであろう任務の内容が、告げられようとしていた――――
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