第3話:世界の真実
「さて、話は終わりだ。解散でいいぞ。」
彼女は立ち上がり部屋の出口へと歩いていく。
「ちょっと!今日は重要な会議があるんじゃなかったの?」
令嬢が驚いたように問う。
「もっと重要なことが出来ただろう?」
彼女は僕に視線を向けながら言う。
幹部たちは皆一斉に大きな溜息を吐いた。
そんな彼らを気にする素振りも見せず、彼女は歩き出す。
「リオ、来い。」
「この世界の真実を知ってもらう。」
一度こちらを振り向きニヤリとした顔を見せた後、彼女はまたすぐに歩き出す。
僕は慌ててそれを追った。
♦
「歴史は常に勝者によって書かれる」と言われるが、この世界の歴史を見れば、それが単なる言葉遊びではないことが分かる。
この世界には今、二つの大国が存在する。
古くからこの世界に存在する伝統ある国「モナ帝国」―
一つは僕たちの故郷である「ルーナ王国」―
物語は今から千年近く前にさかのぼる。
当時、この大陸には数多の民族や部族が散在し、互いに小規模な争いを繰り返していた。しかしある時、モナ族が圧倒的武力により頭角を表し、周囲の部族をどんどん吸収していった。そしてついには全土を統一、モナ帝国が建国された。しかし、なぜいきなりモナ族が頭角を表したのか、彼らのもつ特筆した武力は何だったのかは、未だ解明されていない。
そこから五百年後、帝国の支配の在り方に疑問を持ち、ついには、周りと徒党を組んで国に反旗を翻すものが現れた。当時のルーナ侯爵―ルーナ王国の初代国王だ。
王国史ではこれを「
両者の戦いは苛烈を極め、五十年近く続いたという。
ただ、戦いに関しての具体的な記録はなく、両者ともにありえないほどの死者を出したという記録のみが残っている。どうしてそれほど大量の死者が出たのかについても一切不明だ。謎の大量殺戮兵器でもあったのだろうか?
長い戦乱の結果、両者ともに疲弊したことにより和解、永久不可侵条約を締結した。
その後は、王侯貴族による支配のもとで、平和が享受されているとされている。
ただ、王国と帝国の仲は極めて悪く、表面上は仲が良くとも、内心は互いに恨みを持っている状態らしい。
僕が没頭した王国史も、帝国についてのいい記述はほとんどないと言っても過言ではなかった。
そして現在、この大陸では王国と帝国を中心とした安定した社会が築かれている。
「どうしてこうも王国史には曖昧な部分が多いんだろう…?」
ふと漏らした僕のつぶやきに、彼女は足を止めた。
それに気づき無意識化で歩いていた足を止めると、彼女は静かに口を開く。
「それは、書き残すことすら許されなかった時代があったからだ。」
「書き残すことが許されない…?」
彼女の言葉をすぐには飲み込めなかった。しかし、そこには僕の知り得なかった真実があるように感じた。
内に秘める好奇心が湧き上がってくる。
「続きは執務室で話そう。」
そう言って歩き出した彼女の背中を、追い越しそうになりながら追うのであった。
♦
彼女に連れられ連れられたのは、彼女の執務室のようだ。
高級そうな椅子に足を組んで座る彼女をデスク越しに見ると、組織の長としての威厳を感じる。
周りを見渡してみると、いかにも高級そうな調度品が揃っている。
ん?本棚に見たことない歴史書があるぞ?絶対未知の内容が書いてあるやつだぁ~読みたいなぁ…
本棚の本に目を光らせていると、彼女の咳払いが聞こえた。
慌てて彼女に視線を戻すと、彼女はゆっくりと話し始める。
「この大陸にはかつて、我々の知るどの国よりも進んだ文明が存在していた。モナ帝国も、ルーナ王国も、その遺産を受け継いでいるに過ぎない。」
「遺産…って、それって一体…」
「《ルナティカ》」
彼女は短くそう言った。その言葉には力があり、空気が一瞬で張り詰める。僕の心臓が一拍、大きく跳ねた。
「ルナティカは、少なくとも千年以上前、この大陸全土を覆うほどに広がり、超高度な技術を極めた超文明だった。だが、その栄華はある日、突然消え去った。」
「消えたって…そんなの、どうやって?」
「詳細は分からない。ただ、一つだけ言えることがある。その滅亡の裏には、人間の欲望と制御不能な力があったのだ。」
彼女の声は、どこか過去に思いをはせるような響きを帯びていた。僕は彼女の言葉に圧倒されながらも、その続きが気になって仕方がなかった。
「ルナティカの遺跡は今も存在している。だが、ほとんどの人間はその場所を知らない。見つけたとしても、内部に入る術を持たない。」
「ほとんどの人間?」
どうしてもそこが理解できない。本当に知っている人間がいるのか?
彼女は僕の問いには答えることはなかった。
「リオ、私たちが追い求めているのは、その真実だ。そして、その遺産を正しい形で次の時代に繋ぐこと。だが…お前が気にする必要はない。お前の知識と機転があれば、それだけで充分だ。」
彼女の言葉の意味を完全には理解できなかった。それでも、僕の心には一つの疑問が芽生えていた。
「もしその遺産を手に入れたら、この世界はどうなるんだろう?」
彼女は一瞬だけ微笑み、すぐに元の冷徹な表情へと戻す。その瞳に、どこか悲しげな影が見えたような気がした。
この時、僕はまだ知らなかった。その超文明の遺産が、僕自身の運命にどれほど深く関わってくるのかを――――
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