2日目③

 

「・・・灯火。少し分かったって、どういう事?」


電車に揺られながら、弦は移り変わる景色から視線を外して灯火に問いかけた。彼女は電車に乗ってから、一度も口を開いていない。鉄の取っ手に寄り掛かり、口元に手を当てながら振動に身を委ねていた。


その素振りから、事件について何かしら考えている事が伺える。それを知った上で、弦は問いかけた。情報を、共有したかったのだ。今、彼女がどこまで考えているのかを。


「・・・ん?あぁ。・・・動機だよ」


「動機?それは、・・・自殺の?」


灯火はようやく視線を弦へと移し、小さく頷いた。


「そうだ。推測、というほどの事でもない。得た情報を全て繋ぎ合わせてみたんだ。


まず、沖野春奈が姉の秋奈に敵意を持っている事。仲が良かった時期もあったのだろうが、今はそうではない。むしろ真逆だ。これがいつからか、という疑問は今は棚上げにしよう。


次に、先程聞いた恋人の話だ。彼は姉の秋奈が付き合い始めた頃から元気を無くしていったと言う。彼は、それが自分のせいだと思っていたわけだが・・・。


そして彼と姉の秋奈は、幼馴染み。という事は、彼は沖野春奈とも幼馴染みだな。


そこで、沖野姉妹だ。そもそもが姉妹で、仲が良かった。遺伝的な要因、環境面な要因の観点から見ても、仲が良く、同じ環境で育っていけば自然と嗜好は似てくる。証明されているわけではないが、統計的には関係があるとされている。


だから、姉の秋奈だけではなく、沖野春奈も、彼に想いを寄せていた、という可能性が浮上してくるわけだ。


すると、どうだ?先程棚に上げた疑問の解答が、ここで導き出される」


「・・・まさか」


目を見開いた弦に、灯火は口元を歪めた。


「そうだ。想いを寄せていた幼馴染みが奪われた。そこで春奈は、姉の秋奈に敵意を持った。ここまで話すと、敵意なんてものは生温いな。怒りや、・・・憎しみの類だろう。


そして、秋奈は付き合い始めてすぐに元気を無くしていった。・・・そう。全ては、繋がるんだよ」


「・・・沖野春奈が、自殺に、追い込んだ?」


アナウンスと共に、車両がゆっくりと減速する。流れていく風景はゆっくりとなり、すぐに電車を待つ人の列が視界に飛び込んでくる。静かに停車した車両は、僅かな排気音と共に口を開いた。


「さて、次だ」


弦をかわして先にホームに降り立った灯火は、弦を気にする風でもなく歩き出した。車両に乗り込む人並みを躱しながら彼女の元に追い付いた弦は、小さく首を傾げる。


「次?」


「携帯、だよ」

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