1日目⑩
「さて、では私が今現在までに手に入れた情報の中で構築した推測を話そう。だが、これはあくまでも私の思考による構築に基づいたものだ。第一に、これを正しいとは思わないこと。そして、それらを前提として考えない事を約束してくれ。それらが俗に言う、先入観だからだ。
・・・分かった。では、ポイントを一つずつ話そう。
まず、依頼主である沖野春奈についてだ。
彼女の人物像に関しては既に弦とはディスカッションしたと思うが、彼女はとても内向的、もしくは消極的な人格の持ち主だろう。それは同席していた一葉も分かっていると思う。
しかし、その点について一つの違和感がある。それは彼女自身が語っていた時の、感情の起伏だ。
さっきの振り返りでも話したように、仲が良かったという発言の際に、彼女は不快を表情に現していた。瞬時に、はっきりとね。
その起伏が表に出る事を抑えない、または抑えられないというのはとても直情的だと言えるだろう。
・・・そう。一花の言うとおり、まるで真逆の性質だ。相容れないと、普通は、そう思う。
しかし、矛盾していても何ら不思議はない。感情とはそういったファジーなものだ。定義など、意識と同じで存在しない。どこにあるか、どういうものか、誰だって分からないだろう?
この場合はどちらも紐解いて人物像を分析し直そう。内向的で消極的。しかし直情的。簡単に説明するならば、内なる感情の起伏は激しいが、
だからこれは二面性ではない。この二つを持ってして、彼女の人格を表しているんだ。
話を戻そう。そう、彼女が不快を表情に表した時点で、「仲が良かった」という言葉の意味は限定される。亡くなったから過去形になったのではなく、本当にそれは過去形なんだ。
直情的な彼女がはっきりと姉の秋奈に対して敵意を向けている。
次に、彼女は言った。姉が亡くなった翌日から、夢を見るようになった、と。まぁ、内容は夢というより、悪夢だがな。
当然、同時期に起きたという意味合いであれば、無関係の可能性は簡単に否定出来ない。
悪夢に関しては完全には解明されてはいないが、主な要因は生活における過度なストレスや不安が引き金になることが挙げられている。他にもあるが、今回は、まぁ、置いておこう。
そう。ストレスと、不安だ。
ストレスに焦点を当てて考えてみよう。実の姉が亡くなる。これは間違いなくストレスになるはずだ。現に恋人が情緒不安定になるぐらいであれば、家族は言うまでもなく。・・・だが。
弦、彼女にそういった兆候は見られたかい?
・・・そうだ。確かに彼女はやつれていた。そして、不安げに挙動不審にも見えなくもない状態だった。でも、それらは別の要因なんだ。やつれていたのは、悪夢にうなされているせいで、挙動不審なのは、彼女の人格そのものなんだ。
更に言えば、不快が表に漏れ出してしまうほどの相手の死に、家族とは言えストレスを感じるだろうか?
では、不安に焦点を当ててみるのは、どうだろう。なぜ、彼女は、姉の死に、不安を覚える?
これに関しては特定出来る情報はない。だから私の想像になるが、・・・彼女は姉の死に不安で怯えるほどの何かを持っていると思うんだが・・・、それが起爆剤として、件の悪夢を見る羽目になったのではないか?
だからこそ、どんな関係性があるか分からないが、彼女は姉の死に関係していると、推測しているわけだ。
まぁ、不確定要素が多いため、言葉で説明出来るのはこれぐらいのものだろう。後は、先程追加で来た新見からのメールで、明日恋人に会える時間が出来たそうだから、その時にでも新たな知見は得られるだろう
メモ。
遺書。
携帯。
それらの何かが、手掛かりが、掴めればいいんだが・・・」
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