1日目⑨
「さて、情報は出揃っていないが、状況の整理をしようか」
新見のメールを確認後、灯火と弦と一葉の三人は事務所を後にして、裏手にある二階建ての家屋に足を運んだ。その家屋は現在弦と一葉と一葉の妹の
今は夕飯を済ませ、三人でテーブルを囲み食後のティータイムをしていた。一花はキッチンで洗い物をしている。灯火の言葉にいち早く反応したのは弦だった。
「あまりにも情報が少ない。逆に聞いて良い?」
「何を?」
「灯火は、どこまで考えてる?」
弦の質問に、灯火は口を噤んだ。少し目を伏せて、カップを持ち上げ口を付ける。
「情報が断片的過ぎて、まだ考えるには至らない。でも、灯火なら何かしらの推測は立てているんじゃないか?それを共有してくれれば、僕達も考え始める切っ掛けがあるはず」弦は真っ直ぐに灯火を見つめながら、言葉を続けた。「どうかな?」
弦の隣の一葉も、窺うような視線を灯火に向けた。二つの双眸に射抜かれる形になった灯火は、小さな溜め息を零す。
「・・・私の推測が、君達の先入観になっては困るんだがな」洗い物を終えた一花が灯火の傍まで近寄ると、彼女は指で灯火のカップを示した。灯火はそっとカップを彼女に渡す。「一花。ありがとう」
「私、席外そっか?」
キッチンへと戻りカップに黒い液体を注ぎながら、一花は灯火に向かって尋ねた。
「いや、構わないよ。それに、考える頭脳は多い方が良い」灯火は隣の椅子を叩く。「一花。復習も兼ねて一から説明しよう」
「・・・説明って」灯火の隣に一花が座ったのを確認した後、弦は困ったような表情で呟いた。「警察からの情報なんだから、さすがにヤバいんじゃ・・・」
「何を言っている?その警察が、一般人の我々に洩らしているじゃないか。その時点で、なぁ?」
「・・・はいはい」
弦は灯火とは討論せずにすぐに身を引いた。
そして灯火は、三宅医師からの電話から語り始めた。
「・・・その自殺に、何かがあるってこと?」
話を聞き終えた一花は、大きく首を傾げた。灯火の話が進めば進むほど、彼女の眉間には皺が寄っていった。考えているのか、分からないのか、どちらかの仕草だろう。
『今の所は、ね』一葉がタブレットで答える。『その原因が分かれば、妹の春奈さんが繰り返し見ている悪夢の正体が分かるかもって』
「考え方の方向性はいくつかあるが、まぁ、そんな所だ」灯火は前に首を傾げ、一花の顔を小さな笑みを浮かべながら窺い見る。「一花。何か気付く事はあったかい?」
「えっ?いや、急に振られても・・・」一花は灯火の表情に少し身を引きながらも、目線を宙に合わせ更に眉根を寄せる。「気付いた事、気付いた事。・・・あっ!」
『どうしたの?』
「あ、えっと、一つ気になったのは、印象の違い、かな?皆が受けた印象と灯火さんの性格の推理だと、何かチグハグというか・・・。あ、あと当たり前の事なんだけど。その自殺した人と目撃者の恋人は幼馴染みなんでしょ?て事は、その恋人は事務所に来た妹とも幼馴染みってことだよね」一花は表情を明るくさせたが、すぐにそれを収めて困ったような笑みを浮かべた。「ってか、そんなの当たり前過ぎて分かってるか・・・」
『自然と、そう考えるよね』
「・・・気付かなかった」
「『え?』」
一花の言葉に、一葉は頷き、弦は視線を落とした。その仕草に、似た顔が一斉に視線を向ける。
「考える頭脳は多い方が良いと言っただろう?」灯火は椅子の背凭れに身を預けながら、三人を眺めた。「それも一つの、先入観だ。この件に置いて、君は現実に現場を見ている。どちらの状況下でも、だ。だから自ずと、視界から入る情報を主として捉えがちになる。それは情報を得る最大の手法だが、同時に思考の視野を狭めるリスクも伴う。君は私のアシスタントなんだ。肝に銘じておくといい」
突然の教鞭に、弦は頭を掻きながら頷いた。その情報に辿り着いていないという事実を知られていた事に、弦は嘆息する。そして思考が辿り着く、教鞭の意味。
「・・・分かった。それに、それが、僕が尋ねた推測と関係がある、ということだね?」
「御名答。結論から言おう」灯火はカップに口を付け、一瞬の静寂を生み出す。それを破らぬよう、三人は彼女に視線を注いだ。
「沖野秋奈の自殺。これには、沖野春奈が関与している」
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