1日目⑧

 

その後すぐに藤堂らと解散した灯火と弦は、簡単な買い物を済ませて帰路に着いた。無事に帰り着くと、パソコンから視線を外した一葉が出迎える。二人は並んで彼女の元へと歩み寄った。


「一葉、ただいま」


「進捗はどうだ?」


弦が手にしていたケーキの箱を持ち上げると一葉の表情はすぐに明るくなったが、灯火の一言ですぐ真顔に戻り、彼女に向けてパソコンの画面を指で示した。出る前に何かを耳打ちしていたので、作業の進捗の事だろう。二人の後ろに立ち、弦もパソコンの画面を覗いた。


画面にはいくつかの記事が映し出されていた。灯火が次、と小さな言葉を発する度に、一葉が画面をスクロールさせていく。ほとんどが小さな記事やSNSの書き込みで、大きく取り沙汰されているものではなかった。しかし、内容は一致していた。


どうやら灯火は外出の間、沖野秋奈の自殺について、一葉に調べさせていたらしい。しかし記事の内容はどれも似たようなものばかりで、藤堂らから入手した情報以上のものは見出だせなかった。


「・・・まぁ、期待はしていなかったがな」灯火は小さな溜め息を吐いて口を尖らせた。「念の為に保存しておいてくれ」


灯火の指示に従い一葉がパソコンを操作していると、画面上にメールが届いたアイコンが表示された。一葉がカーソルを合わせて開いてみると、それは新見からのメールだった。


『先程はお疲れ様です。先程の依頼について報告させて頂きます。


沖野秋奈。25歳。営業職。


13:02 救急隊に通報有。


13:03 救急隊から警察に連絡有。すぐに無線で最寄りの交番に連絡。


13:08 救急隊到着。


13:09 警察到着。


13:10 搬送。


その後すぐに応援が駆け付け、現場の保存。また、現場周辺の捜索。目撃者の聞き込みを実施。


その際に、目撃者の中で沖野秋奈の関係者を確認。その後、任意同行。


関係者は糸田瞬いとだしゅん。沖野秋奈の恋人。


突然の出来事によりかなりの錯乱状態だった模様。沖野秋奈に電話で呼ばれて現場に行ったとの事。


電話の内容は、大事な話がある。今すぐ現場に来て欲しいとの事。声のトーンから、彼は何かあったと感じ取り、慌てて現場に向かったと証言している。


糸田瞬の携帯電話の着信履歴を確認。12:51に沖野秋奈からの着信を確認。しかし、沖野秋奈の携帯は現在所在が不明の為、相互確認は出来ず。


また、後日、自宅や会社で使われている本人のパソコンなどを確認した所、遺書の類は発見出来ず。



沖野秋奈の身辺に関して


家族構成:妹(沖野春奈:21歳)


両親は事故により五年前に他界。沖野秋奈は現在一人暮らし。妹である沖野春奈は両親が他界した後は親戚に預けられ、二年後に大学の寮に入寮。


沖野秋奈について。交友関係は比較的狭く、友人と呼べる相手は数人程度。三週間前ほどから、幼馴染である糸田瞬と交際を始める。彼にも聞いた所、友人の話はほとんど聞いた事がないという事。


現場状況、目撃者の証言。それらを踏まえた上で他殺の線がなかった事から、本件に関しては自殺として処理。


以上が概要になります。不明な点は、新見まで連絡下さい』


一同がメールの内容を確認し、一抹の沈黙が落ちる。弦と一葉は、無意識に灯火に視線を向けた。彼女はディスプレイを見つめたまま、口元に手を当てて黙り込んでいる。


「・・・なるほど」ようやく、灯火は小さく呟いた。「・・・五分か」


「・・・五分?何が?」


「・・・いや、ちょっとな」灯火は弦の質問には答えずに、身を翻してソファへと向かった。「弦、コーヒーを淹れてくれ」


灯火の意味深な発言に弦と一葉は顔を見合わせたが、答えが返ってこなかった以上諦めるしかないと、一葉は苦笑を浮かべながら車椅子のタイヤを押してソファへと向かい、弦は鼻息を漏らしながらキッチンへと向かった。

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